妖精種決起(2)
聖堂裏の戦闘から離脱し、解除して装鎧少女たちを車に詰め込んだ正輝は素知らぬ顔で街を抜け、宿でバイクに乗り換えるとさっさと王都ウダマンをあとにした。
「いやー、なかなか上手くいかないもんだな、ルキ」
「今回はかなりイレギュラーでしたね。あそこで隣国の戦公が現れるなんて誰も思いません。目的を達せたのは奇跡的ではありませんか?」
「まあ、五人と剥ぎ取った分の小妖精も助けだせたんで、一応は苦労の甲斐があったってことでいいんじゃね?」
車には救出した装鎧少女が五人も乗っている。この規模の解放ができたのは初めて。ただし、連れ歩くわけにもいかないので里に取ってかえす事態になっている。
こまめに回復しているので少女たちの健康状態も良くなってきた。片目をえぐり取られていた子はときどきフラッシュバックするのか、うなされているときもあるが時間に解決してもらうしかない。
(楽しい気分にさせるのが一番かな)
専門家でもないので、そんなことしか思いつかない。
「♪今日は猫ができたこと記念日 おそうじ おせんたく エトセトラ」
節を付けて歌う。
「なんです、それ?」
「俺の母親がよく歌ってたんだ。♪今日は猫ができたこと記念日 おつかい おかいもの エトセトラ」
「なんだか、ホッとする歌ですね」
それから正輝が歌詞を教える。メロディは同じもののくり返しなのですぐに頭に入ったらしい。そのうち、バイクと車内で合唱になる。
「♪今日は猫ができたこと記念日 がっこう おべんきょう エトセトラ」
街道でもない場所を皆で歌いながら走っていく。急に連れだされて途方に暮れていた装鎧少女たちも歌うと笑顔が戻ってくる。
「有名な歌なのです?」
「いいや、母さんのオリジナルだと思う。他で聞いたことないしさ。この猫ってのは人間の街にもいる小さい猫のほうだぜ?」
「わかりますよ」
「たぶんだけどさ、猫でもできるなら小さい子でもできるよねっていう期待と願いを含ませた母親の歌なんだよな。説明すると生々しいけど」
きっと彼の母親は大変な子育ての中で気晴らしに歌っていたのではないかと思う。それが耳についてしまっているのは、再々聞いていたからであろう。妹も歌っていた記憶がある。
「帰りたいのですか?」
エメルキアは少し心配そうだ。
「いいや、もういい。まずは俺のやりたいことをやるって決めた。君たちの笑顔が見られればいい。そのために歌っただけだ」
「マサキの大切な思い出をいただけたんですね? 嬉しいです」
「簡単だからいつでも歌えちゃうわ。♪今日は猫が……」
合唱しながらの道行きが続く。数日掛けて妖精種の里への連絡路へとたどり着いた。森の中でも一泊し、里に帰る頃には五人もすっかり打ち解けている。
「おかえりなさいませ、マサキ様。今回はずいぶんとお連れになったのですね?」
テアクルセとピトレスカが迎えてくれる。
「悪いけど、慣れるまで目を掛けてやってくれる?」
「ええ、それは構いません。皆さん、ここがマサキ様が作ってくださった妖精種だけの里です。ここでなら好きに暮らしていいのですよ。ただし、幾つかのルールはあるので今から教えますね」
テアクルセが連れていったので、ピトレスカに最近の様子を聞いた。未だに連絡路を通っている人の姿は見掛けていないそうだ。試しにと、北と南の連絡路を見に行かせたら、結構な人数が往来していて整備も進んでいたという。
「きっと、小妖精がいなくなったことで人が動かなきゃいけないってことになったんだわ。で、スピードの早いバイクや車も通りやすいように均してるみたい」
作業の手も入っているという。
「ほんと、人の常識ってのは怖いな。そこにあると思ったら他にないって発想になるのか」
「中央森林帯だってそれほど南北に広いわけではないもの。ウダマンあたりだと途切れているでしょ? 王都に向かうなら迂回してもいいくらいだったら、二本の連絡路があれば十分って考えるんじゃないかしら」
「そっか。南も海岸線まで続いてるんじゃないしな。東西の中心あたりの街から街に行くのに使う人口なら賄えるもんか」
里が計画になくてはならないがゆえに警戒しすぎたかと思う。森は危険な獣の脅威もある。無理して利用するものでもないという発想に至ってもおかしくない。幾重にもガードを固めてあるのは保険と考えてよさそうだ。
「当面は、小妖精増えすぎ問題だけか」
どこを向いても視界に数十人はいる。
「飢えてはいないのよ。ただ、スペース的な限界は近いかもしれなくて」
「だな。この子たちがいくら木の枝で寝起きするのも平気だとはいえ、休める場所はなくちゃならない。サンルーム増やさないと」
「うん、お願い。評判いいのも考えものだわ」
大樹を基本に作るガラス張りのサンルームの地面が花畑みたいになっている。小妖精たちが勝手に種を撒いて水やりまでして増やしているらしい。それで住心地がいいのならどう改造してくれても構わないのだが、里全体がファンシーな感じに仕上がりつつあるのが男として座りが悪いだけである。
「合わすべきだよな。男って俺だけじゃん」
「なんのこと?」
「いや、想像してたより可愛らしい感じに変化してきたなって話」
「あー……、妥協して」
「だいじょぶ、だいじょぶ」
ピトレスカの頭を撫でながら久しぶりの家に向かった。
次回『妖精種決起(3)』 「わたくしからもご提案させていただきたいことがございますし」




