妖精種決起(1)
一部破壊されたコタカッタ支庁から救出されたコドアドネ王国戦公モーズオ・ダラッハ。装着中のダメージは装鎧少女により解消されたものの、消耗した戦具はしばらく使えそうにない状態だった。
「閣下、装着を躊躇われるだけでそんなに気弱になることないんですけど」
アルケーが心配している。
「でもよ、今襲われたら俺はほぼ無力なんだぞ。もし、コタカッタの連中が人質に取ろうとか考えたら終わりだ」
「しませんよ、そんな確実に戦争になること。お偉方も馬鹿ではありません」
「でもなあ」
どうにか装鎧少女が回復した頃に返書が作成されて帰路につく。情けない他国の王城暮らしからようやく解放された彼はどうにか気を取り直していた。
「あの野郎、槍まで残していきやがって。情のつもりか?」
今になって怒りが湧いてくる。
「閣下からお聞きした言葉どおりなら、あの装鎧戦士もまだ我が国と事を構えたくない意図があるのだと思います。撃退だけできればよかったんですって」
「国の力で救われたのか。そうじゃなきゃ今ごろ剥奪されてもっと情けないことに」
「変な落ち込み癖がついてしまいましたか」
アルケーも、もう一人の随伴戦士も似たような状態から今は脱している。北の本国への街道を行く走りトカゲの足も軽い。
「でも、彼の『仕掛けるなら覚悟しろ』って言葉が気になりますね。コタカッタが落ちたら今度はコドアドネを狙っているとでも?」
戦士団長は懸念している。
「思いだした。どうする? 俺、到着した当初にこっそり飛ばした一便で本国にコタカッタの弱体化は本物だって言っちまってる」
「そ、そうでしたね。帰ったらすぐ取り消さないと。途中で飛ばせる小妖精が手に入ればよかったんですが、コタカッタ領内には民間にいないので買えもしません」
「マズいな」
連れてきた小妖精を早々に飛ばしたのは誤りだった。隣国の国情を甘く見ていたのかもしれない。
「ちょっと急ぐか」
「そうしましょう」
そんな具合で北上し、国境近くまで来るとまだジーギラ戦士団が同じ場所で待機させられている。モーズオが通り掛かると天幕から戦公ウフルバが出てきた。
「よ、よお、元気にやってるか?」
今は交戦中ではないので気軽に話し掛ける。
「うむ、貴公も息災のようでなにより。役目は果たされたか?」
「もちろん。公が素通りさせてくれたからすぐだったぞ」
「私には隣国の特使を留める権限などないからな」
さらっと流したかったのだが、どうしても気になることがある。つい口を開いてしまった。
「なあ、公はあれと戦ったって聞いたけど本当か?」
一度眉をひそめたウフルバだが、すぐに察してくれる。
「貴公もマサキとまみえたか。それは不運だった」
「く、どうして負けたとわかる」
「勝っていたら開口一番自慢するだろう? 検分のために私にも帰投命令が届くはずだしな」
説明されると納得できる。察しが悪いとけなされたのを思いだして腹が立ってきた。が、そんな話をしたいのではない。
「どうすんだよ」
「どう、とは?」
お茶のカップを渡しつつ聞き返してくる。
「コタカッタは大丈夫なのか?」
「わからぬ。案じてくれるとは貴公も奇特よな」
「あれはとんでもないぞ」
一時は死をも覚悟した。
「我が国が滅ぶとでも?」
「もちろん、一人で王国を相手にできるかっていえば疑問符だ。でもな、誰があれを倒せるかって問えば、それも疑問符なんだ」
「率直だな。しかし、私も貴公の意見に同意する。今のままでは勝てん」
モーズオは瞠目する。ウフルバにしてそうまで言わせるとは思わなかった。ただ、思い返せば意外でもなんでもない、あるがままの感想だとも思えた。
「覚悟してるのか」
「そんな重大なものではない。が、面白い時代に生を受けたなと思う。戦士として自分の限界に挑める機会に恵まれるのは幸せなことでもあると感じるのだ」
「……健闘を祈ってるよ」
モーズオはそんな言葉しか送れなかった。
◇ ◇ ◇
すでに手を付けられない状態だった。
「ジーギラ戦公をすぐに呼び戻せ!」
臣公ダファクリ・メーゲレがなんと諌めようと国王ポストカ・センテドールは耳を貸さない。
「何度も言ったぞ。戦公は余を守るためにおるのじゃ。中でも指折りの男を北に送ったままでどうする。余の座する王城を守らせよ」
「しかし、特使が来たばかりではございませんか。なんとお考えですか? あれはコドアドネ王国が我が国に直接探りを入れているのです。その折に北の守りを緩めるのは危険にすぎまする」
「国境を守っておる場合か。あの装鎧戦士は街門の警備をすり抜けて支庁の中に現れたのだぞ? 城壁の上にいたとの話もある。余を脅かすのも容易ということじゃ。そなたらはこのコタカッタ王国を滅ぼすつもりか?」
(軍勢が迫っているのでもないのに街門を閉ざしたりすれば、それこそ王国は滅びてしまうではないか。この方はどうしてそれがわからない)
臣公は辟易する。
物資は滞り、街壁内の国民は飢え、いずれ反逆の狼煙を上げる。国王への反意は王城を蹂躙するまで収まりはしない。装鎧戦士に皆殺しを命じでもしないかぎり。その時点で王国は体をなさなくなる。
「余こそが王国の要。このポストカ王こそが王国そのものと知れ。なぜわからぬ」
「……御意に」
ダファクリはあきらめざるを得なかった。
次回『妖精種決起(2)』 (楽しい気分にさせるのが一番かな)




