聖堂裏の衝突(7)
寸分違わず正輝の胸の真ん中を狙っている突きを仰け反って躱す。この段階で完全に体勢は崩れていた。
引き戻しの斧頭は避けられない。さらには、モーズオはもう引き戻して次の攻撃に移っている。
「どうしろってぇ!」
彼は伸びきった従者の槍の柄をバク天しながら蹴る。そのままではモーズオの必殺の突きを背中で受け止めることになる。
空中で念動力で身体を高速回転させて両足で着地。もう、目の前まで来ている突きを、両の斧頭の股に指を引っ掛けて押し留めた。
(ヤベえ)
鋭い穂先が仮面ギリギリのところで止まっている。
「おぅおお……」
無理やり着地した足から痺れが伝わってくる。
「止めるのかよ?」
「なんて反射神経」
「死ぬかと思った。けど、死ななかったぜ!」
槍を掴んで引き抜こうとすると本体もついてくる。パワーだけで引き寄せ、顔面にキックを入れると仰け反って倒れた。
「浅い!」
こちらの体勢が悪すぎてキックに体重が乗っていない。戦闘不能にするには程遠い。フォローするように従者が前に出てくる。
「悪くないが一段落ちる!」
「承知のうえですよ!」
突きのラッシュを弾きながら前に出る。もう一歩というところで、従者の足の間から突き攻撃が伸びてきた。正輝の片足を刈ろうとしている。
「油断も隙も」
「気づくかよ」
ステップアウトして足を守る。
(マサキ)
エメルキアの警告。
後ろに目をやると、まわりこんだ大司教が装鎧少女たちに掴み掛かるところだった。遠いがしかし、少女はロナタルテに促されて念動力を放つ。防御もしたようだが、五人の力に押し負けて弾き飛ばされ転がった。
「大人しくしてりゃ少しは命永らえたものを自分で潰すじゃん」
「わ、わしは大司教だぞ!」
「それがなんだっつーの!」
怒りが拳に念動をまとわせる。光の薄膜に包まれたパンチは腹に突き刺さり、研究棟の壁にべチャリと張り付いた。吐いた血の量から、致死レベルの内臓破裂が起きているのは間違いない。
「なんという」
「ま、マサキさん?」
目の当たりにした司教とネクリハが絶句しているが知ったことではない。構っている暇はなく、モーズオと従者が横展開しつつ迫ってくるところだった。
「他に気を取られてる暇あるのか!?」
「きっちり相手するから遠慮すんな」
真上から斧頭を打ち下ろされたかと思ったら、柄のしなりを使って下から跳ねてくる。土を浴びつつ、手刀で真横に弾いて拳を固めた。
「弱点をさらしたままだったとは」
そんな台詞が正輝の耳に飛び込んできた。
◇ ◇ ◇
アルケーが装鎧少女のほうへと向かったのを察したモーズオは足止めに掛かる。迫りくるパンチを柄で逸らして飛び退りつつのスタブショットを狙っていた。
「なに?」
ところがパンチが止められている。赤い目の怪人の視線はアルケーへと向けられていた。がら空きの背中をさらして。
「脇見する暇あるのか!」
放った突きが怪人の右肩のプロテクタを砕きつつ深く突き刺さる。しかし、お構いなしだった。悲鳴一つあげず、装鎧少女を守るように左手を差しだす。アルケーの突きはその手をうがった。
「おま……え?」
「ったく、こいつらと来たら。どんだけヒントをくれてやろうが理解もできないじゃん」
怪人の身体がゆらりと陽炎をまとったかに見えた。これまでの比ではない気迫が吹き付けてくる。本能的な危機感が彼を衝き動かし飛び離れた。
「抜け……!」
アルケーの槍は穂先ごと掴み取られている。貫いている左手でだ。引かれたかと思うと戦士団長の身体は怪人へと飛んだ。パンチが胸のど真ん中に突き刺さり、プロテクタを微塵に砕かれて破片を撒き散らしながら壁に叩きつけられて動かなくなった。
「アルケー!」
光の粒が舞いあがらないので剥奪はされていない。しかし、そのままでは確実にやられる。モーズオは間に身体を入れた。
「部下を庇うか」
左手から槍を引き抜きながら言う。
「だったら、その前に無抵抗の相手に手出しさせんなよ」
「く……」
左手は再生し、プロテクタの断面も光を帯びて復元されている。このときになって、彼は初めてなんの予備知識もなしに怪人に仕掛けたのを後悔していた。
「気づいてもいいんじゃね?」
今度は左肩を貫いているのに相手は小揺るぎもしない。わざと突かせているのだ。右肩はすでに再生している。戦闘技能的に劣ってはいないのに、気迫だけで押しまくられていた。
「食らっとけ」
無造作な前蹴りが胸に刺さってアルケーと同じく飛ばされる。壁に激突して大きく崩落させた。胸付近の装鎧は微塵に砕け、槍も失い、全身の痛みで抵抗する気にもならない。それでも、怪人は迫ってくる。
「貴様……は……」
「まだ、準備できてないから見逃してやる。帰って親玉に言っとけ。俺に仕掛けるなら相応の覚悟をしろってな」
怪人は槍をモーズオの前に放りだすと背を向けた。
◇ ◇ ◇
装鎧戦士となった正輝が装鎧少女と思われる戦具を腕いっぱいに抱えあげると走り去っていく。その様をネクリハは呆然と見送るしかなかった。
(マサキさんが噂になってた反逆の装鎧戦士? 赤い目の怪人? どういうこと? あんな戦士っぽくない人が?)
衝撃を受ける。
(憧れてたのに騙されていたの? なにもかも全てが演技だった? 教団の装鎧少女を奪うためにわたしを利用してたの? だったら悲しい)
そこまで考えて思い起こす。浮かぶ姿は、妹と嘘をついていた少女たちに愛情深く接するもの。まるで、装鎧少女が一番大切なもののように。
「気持ち悪……」
ネクリハは吐き気を覚えた。
次はエピソード『混沌のコタカッタ』『妖精種決起(1)』 「なあ、公はあれと戦ったって聞いたけど本当か?」




