聖堂裏の衝突(6)
モーズオ・ダラッハは正直に言って、列強の多重装着戦士にも引けを取らない自信がある。それは槍の実力あってのこと。
一撃のもとにとはいかないが、少しずつダメージを重ねていけば攻撃は通るのだ。注意深く敵の攻撃を避けながら強力な突きを当てて装鎧を削る。それを数度くり返せば必ずダメージを与えられる。
「前提を簡単にひっくり返してくれるなよ」
冗談ではないという思いだ。
「放っといたらマズいじゃん。あんたの言うとおり、次は左手持ってかれる。たぶん、甲を貫かれたくらいなら復元できるけどさ」
「馬鹿言うな」
「でも、傷は装鎧少女が治してくれるじゃん? なら、俺は外身を復元するだけでいい」
容易なことのように言う。
「できたら無敵だろう? どれだけ精気を持ってかれると思ってる」
「トカゲ肉に換算して二口分くらい?」
「具体的に換算すんな」
気安く話し掛けてくるので応じているが、いっかな為人が伝わってこない。教団も王国も一緒に攻撃をしていると聞いたときはどんな恨みに駆られて暴挙に出たかと思った。口から悪意しか放ってこないような人物じゃないと変な気がする。
「飄々としすぎて笑えるわ。なんでお前みたいなのが馬鹿やってる」
まったく理解不能だ。
「至って真面目に王国ごと壊す気だけどさ。そうでもしなきゃ変われないだろ?」
「変えるだと?」
「わかんないか? そこの爺さんに聞いてみろよ。俺がなにしてるか知ってっから」
大司教を顎で示している。
「知るものか。どこの常識知らずが神の御言葉に逆らうという」
「ほら、知ってんじゃん。俺は常識を知らないんだよ。むしろ唾吐いてまわってる」
「さっぱりわからん」
どうやら動機を語っているような気もするが、なにが言いたいのか理解に至らない。ただ、恨みというのはあながち間違いではないらしい。大司教を見るときだけ目つきが違う。
「確かに年老いてみすぼらしくはなってるが立派な方だぞ」
心にもないところが少し漏れてしまう。
「だろうさ。その立派になる過程でなにをやらかしてきたのか自覚もないんじゃね?」
「やらかす? 権力争いにでも巻き込まれたのか?」
「察しが悪いな、あんた。同じ戦公でも、頭はウフルバのほうがよほど良さそうだ」
呆れた面持ちを向けられた。
「馬鹿言うな。生まれも育ちも変わらんぞ」
「それでいいの? 素材の差ってことじゃん」
「うぐ」
深い親交があるわけではないが、お互い王国屈指といわれる戦公同士のことである。気にならないわけがない。比較されて劣ると言われると覆したくなる。
「待てよ。今整理する」
材料を探す。
「閣下、相手のペースに乗ってはいけません。手数が落ちてますよ」
「なに? そんな手管を」
「従者のほうが頭の出来はいい。あんたがウフルバに勝っているところは人脈と人徳じゃね?」
思わぬ意見が来た。
「ふ、どうだ」
「褒められてませんよ。むしろ、けなされてます」
「な! く、変な仮面のやつにどうこう言われたくない」
フェイント抜きで本物の突きを重ねて入れる。予想どおり、光る剣では逸らしきれず擦過傷を作る。彼の槍は単純に避けただけでは済まない。斧頭が身を削っていくからだ。そのために、狙い所に合わせて回転させている。
「まいった。実力は本物か。こいつで斬れるような相手じゃなかった」
「降参するか? 寛大なところもある俺様は喜んで受け入れてやるぞ」
男は剣を消すと全身を弛緩させる。リズムよく両足を踏み鳴らしたり、肩を回したり腕を揺らしたりして入っていた力を抜いている様子。それなのに、どこも隙がない。むしろ、どこからでも動きだしそうに見えてしまう。
「こっちが本領かよ。言っとくが、剣も使わないとなると槍三倍どころじゃなくなるぞ」
「何倍くらいでいい?」
油断なく構えるモーズオの前で男の身体がゆらりとブレた。
◇ ◇ ◇
地面をひと蹴りで目的の場所へ。相手は気づかぬままに攻撃射程の内側に入りこまれている。それでも、パンチを柄で受け止めたのは立派と感じた。柄を砕いた拳が顔面にヒットし、戦公モーズオの随伴戦士の一人は戦士棟を粉砕して瓦礫の中に埋もれた。
「げ、速っ!」
残る二人が慌てて穂先を正輝に向けてくる。
「閣下、油断なさらず」
「してるもんかよ。こいつは油断できる相手なんかじゃない」
「いつもどおりに」
「そうだな」
怪しげな会話が交わされている。まだ二人残っているのを彼は忘れていない。呼吸の合う手練が二人と考えている。
「いくぞ」
槍の攻撃はどうあれ突きが主体。狙いがわかっていれば回避も難しくないのだが、モーズオはあえて一撃ごとに変えている。肩だったり太ももだったりと、食らえば動きに支障が出る箇所ばかりが狙われて、しかも程よく散らされている。
「くっ!」
さらには穂先が回転して、引き戻しのときに斧頭で引っ掛けられそうになるのだ。それをされると、敵は前にいるのに後ろまで気にしなくてはならない。
「なんてやらしい攻撃。ったく」
「これだけじゃないぞ」
穂先がホップしてくるように走る。手刀を合わせてプロテクタを削らせつつ外へ逃した。モーズオは思ったより踏み込んで、ほとんど地面に倒れ込まんばかり。その後ろにモーションを終えた従者がいる。
(ブラインド!)
すでに回避姿勢の正輝は体勢を崩さねば避けられない状態だった。
次回『聖堂裏の衝突(7)』 「他に気を取られてる暇あるのか!?」




