聖堂裏の衝突(5)
(おいおい、この世界のどこにこんなヤベえ装鎧戦士がいやがった?)
モーズオは目を瞠る。
見た目もさることながら戦い方まで特殊である。まず、両手に持った黄色い光だけでできた剣がヤバい。いったいどういう仕組みなのかもわからないのに、普通に剣と斬り合いができる。
件の装鎧戦士が剣を携えていない時点で妙だと思ったが、拳闘を披露したところで勘違いした。格闘タイプかと思いきや、剣闘でも双剣を器用に操る。しかも、独特の剣技を見せてきた。
「あれはやりにくいな」
「はい、身体から入ってくるので釣られてしまいますね」
剣でなく、肘や肩、頭といった部位から間合いに入ってくるのだ。剣技を習得した者であればそこを狙いたくなる心理が働く。ところが、この装鎧戦士は凄まじい反射神経で回避からの斬撃をくり出してくる。
「間合いもなにもない。攻撃に移った時点で相手は目の前ってんじゃ受けも抜きも取りようがない」
「命知らずに思えますが、どうやら本気で戦法としてるみたいです」
そのうえ双剣と手数も多いものだから教団戦士は次々と斬られていく。しかも、斬れ味も抜群のようで、致命的な位置に食らってしまうと一撃で瀕死状態に持ち込まれ、装鎧少女を剥ぎ取られていた。
「やつに力を吸い取られているみたいに見えるぞ」
「現実に盗まれてますので」
力を使いきって形態維持ができなくなった装鎧少女が小妖精として再生する。ただし、その小妖精も片っ端から謎の装鎧戦士の後ろの集団に飲まれていっていた。
「コタカッタ支庁は全部剥ぎ取られるな」
「厳しそうですね」
アルケーも苦笑いする。
「笑い事ではありませんぞ。このままでは我が支庁は妖精種を失ってしまいまする。そうなれば、ダラッハ公の功も露と消えてしまうのではないですか?」
「功ってほどのもんじゃない。俺はメッセンジャーにすぎないし」
「本庁の不興を買えばコドアドネも困ったことになるのではありませんか?」
言うにこと欠いて脅しまで掛けてくるキュムクラム大司教。多少は不憫にもなってきた。この男が持っているのは権力であって現実的な力ではない。モーズオがその気になればひと思いに息の根を止められる程度の存在。
「いいか、一つ貸しだぞ」
言うとおりにするのは業腹なのでしっかりと釘を刺す。
「アルケー、やるぞ」
「了解です」
「装着」
モーズオが装鎧戦士になった頃には、教団戦士は壊滅していた。
◇ ◇ ◇
(どうやら引きさがってくれないようです)
「やる気か。間違いなくここの雑魚どもとは格違いだろうな」
(得物があれだもん)
「槍か。相手したことないんだけどさ」
槍といっても普通の穂先が付いているものではない。ファンタジー知識でいくと、いわゆるハルバードというやつだ。穂先に斧頭が一体になっており、しかも斧頭が対になっているという代物。それを戦公と従者の一人が持っている。
「たぶん重いし、扱いが難しいんじゃないかと思うんだけどさ、得物にしてるんなら慣れてるってことじゃん」
(長さが段違いですものね)
(卑怯かも)
「同じもん渡されても使えないから卑怯って言ってやるな」
突っ掛かってきた王国戦士を斬り捨てながらエメルキアたちと話す。これで敵は北の装鎧戦士三人だけになってしまった。
「なあなあ、無関係じゃね? ここは引いてくんない?」
誘い掛けてみる。
「あながちそうでもないんじゃないか。俺としてはコタカッタがこのまま弱って西の列強の支配下に落ちてしまうようじゃ敵わん」
「ええ、飛び火してくる前に火元から断っておくのもありかと。僕たちで収められれば王宮はコタカッタに強く出られますし」
「そんな国同士の損得話で痛い思いしたくなくね?」
利を説いてみる。
「大きく出るな」
「少なくともパワー勝負にはならないぜ? あんたたちがシングルなのは言うまでもないだろ?」
「そう思うか?」
妙に自信ありげだ。口先で誤魔化せないかと試みたが感触的に無理そうに思える。正輝としても、重く長い武器で攻められるのは経験が足りなくて戸惑いがある。
「俺の国だと槍三倍ってことわざがある」
コドアドネの戦公は槍の柄頭近くを右手で持って引いて構えている。
「どんな?」
「剣の熟練者でも槍の使い手を相手にするなら、三倍以上の実力差がないと勝てないって伝えてるんだ。それくらい、間合いと威力に違いがある」
「わからなくもない。その構造だと単純に突いてくるだけってわけないじゃん」
不用意に踏み込むと斧頭による薙ぎ払いもありそうだ。
「その穂先がはったりじゃないかぎりはさ」
「はったりかどうか試してみるといいぞ」
「嫌なこった」
ひと息に突いてくる間合いには踏み込む気にもならない。穂先がくるりくるりと90°ずつ回転しているのだ。右手でそういう操作をしている。どう来ようが、合わせてみせると突きつけられている気分になる。
「じゃあ、こっちから」
なんの予備動作もなく穂先が飛んできた。咄嗟にサイコブレードで弾こうとするも、気づいたときには剣の間合いの内側まで入ってきている。仕方なく左手の甲で受けた。痛みが走り、プロテクタに罅が広がっていた。
「お前の負けだ。次に同じ受けをすれば左手は使えなくなるぞ」
「そうでもないんじゃね? レストア」
「なんだと?」
正輝は割れたプロテクタを再生復元した。
次回『聖堂裏の衝突(6)』 「できたら無敵だろう? どれだけ精気を持ってかれると思ってる」




