聖堂裏の衝突(4)
モーズオが戦士棟の裏手に駆け込むと、そこには奇妙なものがいる。なんととも形容しがたい人影はボディフォームからなんとか装鎧戦士だと思えなくもない。
「なんだあれ? 仮面? なんの?」
「わかりません。ですが、この雰囲気はあれが例の装鎧戦士なんだと思います」
アルケーも考え考え答える。
バイザーはなし。赤く強大な吊り目が印象的だ。しかも、頭部はヘルムというより、どこか顔を模しているように見える。なんの顔かと問われても出てこないが。ともあれ、その頭部の印象の濃さが不気味さを演出していた。
「赤い目の怪人。なるほど、やつはずっとコタカッタ支庁を狙ってやがったってことだな」
「みたいですね。噂になるほど目撃されていた理由がわかりませんけど」
「それは俺にもわからん」
人を脅かしてプレッシャーを掛けていたにしてはお粗末。誰がなにを狙っていたかわかる相手がいない出没なのだ。
その緑ベースのバトルスーツの戦士は後ろに少女たちを従えている。状況からして、おそらく装鎧少女なのだろうと思った。
「小妖精の次は装鎧少女か。こいつは支庁を丸ごと潰したいらしい」
「妖精種方面では機能しなくなりますね」
「なんの得がある。まるで我が国の所為とでも思わせたいみたいだな」
コタカッタ弱体化の原因はコドアドネにありと感じられなくもない。そうすればどうなるか。コタカッタは死に物狂いで戦争を仕掛けてくるだろう。実際にはそうはなっていない。なんらかの動機を掴んでいるものと考えられる。
「ほんとわからん。ひっ捕まえてしゃべらせるのが手っ取り早い」
「自重なさってください。頼まれてもいないのに他国で装着するなど宣戦布告も同然ですよ?」
「緊急事態だろう? 増援だ、増援」
「どこが緊急事態です。教団戦士が二十余名、装着済みなんですよ」
戦力差は圧倒的で逃げ場はない。見るからに万事休すの状況である。なにを思ってこの装鎧戦士は無茶をしたのかも不明だ。ところが、それは勘違いだったと思い知る。
「デュアルビルド」
謎の装鎧戦士がキーワードを唱えたと同時にもう一人の装鎧少女が光となってほどける。バトルスーツにまとわりついたかと思うと、一度外れたプロテクタ群が変形し再装着した。頭部のフォルムはさらに凶悪な感じになっている。
「二重装着! そういうことかよ!」
「く、ヤバいですね。閣下も装着する気構えを。これは緊急事態でした」
「だろーが!」
モーズオは自分の装鎧少女がちゃんとついてきているか目を走らせた。
◇ ◇ ◇
正輝は北の戦士がどう動くか気にしながらデュアルビルドした。手の内をさらすのは面白くないが背に腹は代えられない。この場を切り抜けるにはシングルでは不可能である。
「そのまま動くんじゃねえぜ」
(きたよ)
(わたしが見ておきますので、まずは教団戦士を)
自我領域にランゼッタが加わり、感覚上の余裕が生まれたエメルキアがコドアドネの王国戦士の監視を受け持ってくれる。彼にはこの感覚共有があるので多数を前にしても臆することなく戦える。
「さっくりいくか。いや、あんまりさっくりやっても連中に警戒されるだけかも」
(手遅れのようです。デュアルビルドした段階で警戒心は剥きだしですので)
(ちょっと失敗?)
「どうにもならんて。この子たち連れて逃げようと思ったら全員倒すしかないじゃん」
教団戦士から剥奪するのは後回しでも構わなくもない。しかし、この状況では剥ぎ取ったほうが逃げられる確率が上がること請け合い。北の戦公を警戒しつつ教団戦士を討ち取るのが賢明だろう。
「逃げ場はない。速やかに除装して投降しろ」
「やなこった」
振りおろされる剣を半身で躱しつつ途中で掴みとる。握りつぶしながら、フルパワーのキックを腹に食らわせると真横に飛んでいった。戦士棟の壁に埋まりつつ止まった戦士からは光の粒子が舞いあがった。
「なに、蹴りの一撃で瀕死の状態だって?」
北の戦士が目を丸くしている。
「やればやるほど状態悪くなるじゃん」
(仕方ありませんでしょう。他に道もなく)
(こっちの壁の向こう、お外のはずだよ。壊して逃げる?)
ランゼッタが思いださせてくれる。
「外に出たら出たで一般人いるって。こいつら、絶対追ってくるだろ? 被害者出さずに逃げ延びるの無理じゃね?」
(かも)
(車も置きっぱなしですもんね。この子たちを乗せる足がないと逃走は厳しいです)
諸々の状況からすると突破が最善だ。いかんせん、教団戦士がまだ二十くらいに、北の戦公と連れの戦士が二名、王国戦士もいたようだ。やっと装着して、北の客を守ろうと前に出てきている。
「なんとも」
(あれでキレるの責められない)
「ランゼさん、いい子」
複数で斬り掛かってこられると躱せない。後ろには装鎧少女たちがいるのだ。両手にサイコブレードを生みだして弾き飛ばした。
「あんたらの大事な装鎧少女じゃないのかよ」
「む!」
「持ち逃げされるくらいなら装鎧少女などどうなっても構わん。そいつを討ち取れ。王国戦士にできなかったことをすれば国王も考えを改めて協力的になろう」
教団戦士の後ろで叫んでいる初老の男がいる。装いからして高位の者らしい。司教より派手な司祭服をということはその上の大司教しかいない。
「っと、もう一人思い知らせとかないといけないのがいたじゃん。好都合だぜ」
(ただの下衆です。脱出を優先で)
エメルキアの助言には素直に頷けない正輝であった。
次回『聖堂裏の衝突(5)』 「やつに力を吸い取られているみたいに見えるぞ」




