聖堂裏の衝突(3)
手を組み祈りを捧げる信者の間を抜けて聖堂の関係者出入り口から裏手に入る。ロアーザ・キュムクラム大司教は本庁のあるデレキセント教領の出身とあって信奉されている様子。
(それだけに教団内じゃ誰にも頭を下げられないのが欠点になってるな。教団が国内で力を維持できていれば、ここまでひどい状態にはならなかった気もする)
戦公モーズオはおくびにも出さず思う。
「教団も戦士を揃えて有事に備えもしているものの、なかなか出動ともいかなくてな。御神が融和をお望みとあらば、敬虔なるしもべの我らも軽々に殺生とはいかぬ」
長々と方便を並べてくる。
「ついては、隣国より有能たる戦士を迎えた以上、その心得を当方の戦士たちにも教えていただきたいもの。お願いできますかな?」
「この不肖の身たる我が言葉が教団戦士の方々のお力になるのであればやぶさかではございません」
「おお、力強いことよ。ところで、お気づきになられたか?」
どうやら本題のようだ。
「当支庁ではこのとおり、どこを探しても小妖精の一匹もおらぬ始末。あの矮小軽薄な戦具の欠片はあまりに気ままゆえ、どこに消えたかもわかっておりませんのじゃ」
「それはお困りでしょうな」
「つきましては、コドアドネ王宮のお力を借りられればこれ幸い。無論、この身の権限をもってコドアドネの厚い貢献は本庁にも伝えられ、覚えがめでたくもなろうというもの。ご一考願いたいと陛下にお伝え願えぬかな?」
やはりという要請が来る。正直どうでもいいのだが、メッセンジャーを務めるくらいはしてやらないこともない。本国が本庁の歓心を買えばメリットがあると考えるなら請ければいいし、効果が知れていると思うなら断ればいい。そんなのは臣公会議の決めること。
「必ずや陛下にお伝えしましょう。大船に乗ったつもりでお待ちください」
「おお、なんと頼もしいことよ。御神もコドアドネに幸いをもたらしくださることであろう。ダラッハ公のお言葉に我らが戦士たちも奮起間違いなしですな」
「ありがたいことです」
心にもない台詞を言う。
(まあ、教団戦士のレベルを測れるのならば悪くはない提案だ。少しぐらい稽古をつけてもいい)
剣闘相手なら負ける気はしない。
事前に通告してあったのか、教団戦士の待機施設らしき場所の前にずらりと並んで待ちかまえている。そこへ槍を背中に携えたまま入っていくと、物珍しいものを見る目が集中した。
(その目、悔いることになるぞ)
ところが、モーズオが訓示を垂れる前に遠く悲鳴が聞こえてきた。
◇ ◇ ◇
「やれやれ、可愛い顔が台無しじゃないか」
抱きあげている装鎧少女の右目付近は血だらけになってしまっている。目はきちんと再生しているものの、血は指で拭っただけでは簡単には落としきれはしなかった。
「あなたは味方?」
不安げに言う。
「助けに来た。もう心配しなくていい」
「もしかして、小妖精たちが噂していた妖精種の神様?」
「俺は神様なんかじゃない。君たちの親しい友人でありたいと願っているだけの変わった男さ」
痛みはなさそうなので下に降ろす。残っていた神具官の一人を蹴飛ばしてのけた。加減してないので生きているかどうかなど知らない。
「マサキ……さん?」
ネクリハが司教の陰から覗いてくる。
「もう、恋愛ごっこはお終いだ。君にはいろいろと聞かせてもらったから手出ししたくない。どこへなりと行ってくれ」
「あなたはなんなんですか?」
「わからないか? 俺がこれからこの王国をぶっ潰す反逆装鎧戦士さ」
継ぐ言葉もなさそうだ。
「この娘にはなにも罪はない」
「おうおう、偉そうなことだな、司教さん。その優しさをひと欠片でもいいから妖精種に向けてくれりゃ、あんたも見逃してやれたものを。どうやら、その善人っぷりが向けられる対象は限られてるみたいじゃん」
「愚かなことよ。神の御下でこんな殺生を。罰が下るのも怖れないか」
冷めかけてきた怒りがまた湧いてくる。腹の底にとてつもない熱を持った塊が住み着いたかのようだ。
「罰か。下せるもんなら下せばいいんじゃね? 俺はその神様に喧嘩売ってる男なんだよ。とうに覚悟のうえさ」
「情けない。御神より戦具を賜っておきながら、なんという愚行を」
「抜かせ。もし、装鎧少女が本当に神の道具なら即座に剥ぎ取れるだろ? 俺が変身できる段階であんたらの嘘はバレバレなんだって」
「むう」
議論はそれまでだった。計画にない行動に出た段階で難しい状態にはなると思っていたが、このタイミングで教団戦士たちがなだれ込んでくる。
「何者だ!」
威勢よく吠えついてくる。
「見てのとおりじゃん。ちょっとばかり計算が外れたがまあいい。どうせ、あんたらも引っ張りだして一人ずつ剥ぎ取るしかないからさ」
「く、貴様まさか」
「赤い目の怪人の登場だ。怖くね?」
からかうくらいの余裕ができてきた。
「マサキ、連れてきた」
「でかした、ランゼ。ナイスタイミング」
「うわー、敵がいっぱいいる」
ランゼッタが気が利かせて他の装鎧少女の救出に向かっていたのには気づいていた。首尾よく鍵を壊して連れだしてきてくれたらしい。彼が救いだした一人の他に四人の装鎧少女がついてきている。
「ぼくもいるね。この子たちはルーザとロナに任せる」
「そうね」
「おまかせー」
そこまでは計算外の事態もどうにかリカバリできそうだと思っている。しかし、槍を携えた見慣れない戦士の存在に舌打ちをする。
「マズ。あれ、北の国の戦公だって男じゃね?」
(はい、見覚えがあります)
エメルキアの保証に正輝は頭を抱えたくなった。
次回『聖堂裏の衝突(4)』 「頼まれてもいないのに他国で装着するなど宣戦布告も同様ですよ?」




