聖堂裏の衝突(2)
「装鎧少女の能力差が瞳の色に表れるのは司教様もご存知のことでしょう。我々はその違いに着目し、眼球そのものになんらかの効果を及ぼす性質が秘められていると考えました。なので、大司教猊下にも判断を仰ぎ、比較的高性能と思われる個体の眼球を研究テーマとしてこれからも進めてまいりたいと思っております」
少女が助けを求めたのは正輝にではないだろう。おそらく、感覚器に映ったエメルキアやランゼッタの存在に救いを感じたのだ。人間である彼を頼るわけがない。しかし、助けてほしいと願うだけで十分だ。
「ふむ、それは私が関知する……」
「なに、偉そうなゴタク並べてやがんだ」
司教の言葉を遮る。
「女の子切り刻んで喜んでる変態野郎どもが、臭い息を吐きかけてくるんじゃない。反吐が出るだろ?」
「お前、なにを」
「覚悟はできてるよなあ? そんなことするくらいなんだから、自分も目玉えぐられるくらいのことは。誰もやりそうにないから俺がやってやろうじゃん」
個人のプライドを汚されたと思ったか、実験をけなされたのかと思ったかは知らない。神具官なる人物は正輝に掴みかかろうとしてきた。
「たかが出入り職人がなにを」
「ルキ、ビルドイン!」
防護障壁に触れた神具官は研究棟の室内に吹き飛ばされる。皆が呆気にとられているうちにエメルキアが光の粒と化して彼の身体にまとわりつきプロテクタと変じていく。融合行程が終わり、そこに立っているのは変身後の正輝であった。
「装鎧戦士だと!?」
「それがどうした? 俺の前でとんでもないことやらかしてくれたんだから、そのつもりなんだろ? 黙ってぶっ飛ばされろ」
メスを握っている神具官にパンチを見舞う。残念ながら加減をする余裕がなく、一撃で頭の半分がひしゃげて倒れ伏した。生きているわけもない状態だ。
「あひぃ!」
腰を抜かした神具官が尻でずり下がっていく。
正輝は少女の身体が傷つかないようベルトを引き千切ると抱きあげる。「レストア」と唱え大量の精気を注ぎ込むと彼女の右目は急速に復活している。
「救いは装鎧少女の再生能力が高いとこだけだぜ? そうじゃなきゃ、あんたら今ごろ挽肉にしてやってる」
手術台に蹴りを入れて天井近くまで飛ばす。
「だからって許す気なんてないから覚悟しろよ」
「や、やめなさい、マサキくん!」
「黙ってろ、司教さん。あんたもこいつらを止めなかった時点で同罪なんだよ。順番に締めてやるからそのつもりでな?」
司教は愕然としている。彼にしてみれば、よくしてやった職人に歯向かわれたくらいに思っているかもしれない。しかし、彼にしてみれば最初から誰一人として信用などしていない。
「赤い目の怪人、お前が……」
神具官の一人がやっと真相にたどり着いた様子だ。
「一丁前に頭はまわるか? でも、もう遅いぜ。腹の底から煮えたぎってる状態だ」
「ひ……い」
「約束は守らなきゃな」
左手を伸ばして相手の右目に当てる。たいした力も必要とせず親指が眼球を潰してえぐり取った。怒りのあまり、気持ち悪いともなんとも感じない。
「ひぎゃあ!」
「鳴くな。うるさい」
正輝は神具官を蹴飛ばして黙らせた。
◇ ◇ ◇
少々時は遡る。
戦公モーズオはコタカッタ王国の許可を得て王城を出る。向かうは支庁なのだが、城門前の大通りからは外れた位置にあった。途中の高級店舗くらいは賑やかせる立地にある。
「不便ちゃ不便な気もするが」
少々愚痴る。
「管轄上とか警備上とかいろいろ理由があるんですよ。我が国でだって、城門の外すぐのところに支庁が建ててあったりしないでしょう?」
「まあ、見栄えも良くないよな、あんまりべったりってのは」
「国民の目からは信仰心を利用するように映ります。事実なのは誰もが知るところですが、純粋な信仰心を冒涜されていると思わせない程度の距離は必要です」
互いに依存する関係性にあるとはいえ、いつどうなるかはわからない。デレキセント教団支庁が治外法権を持っている以上、中でなにが行われているかは不明なのだ。独自の教団戦士を有している時点で無警戒とはいかないのも道理である。
「護衛兼お目付け役殿には申し訳ないがのんびりといくか。お前もジュビアへのお土産忘れんじゃないぞ」
「余計なお世話です。閣下こそ、この前みたいに変なもの買ってきたって泣かれないようにしてくださいね」
「なんだよ。興味深い造形をしてただろうが」
なんだかんだと言いつつ買い物を済ませて支庁へと着いた。エントランスでは彼の訪問を伝えられていた大司教が迎えに出てきている。
「これはこれは大司教様。御自ら迎えてくださるとは恐悦至極」
彼とて、これくらいのおべんちゃらは使う。
「いや、わざわざ異国の地まで足労願ったのだから迎えくらいしよう」
「とんでもない。部屋でお待ちくださればよかったものを」
「なに、見ていただきたいものがありましてな、案内せねば当支庁の窮状は理解いただけないかと思ったまで。どうかお付き合い願えるか」
(こいつ、うちの支庁に頼りたくないもんだから、コドアドネ王宮から小妖精を引きだすつもりなんだな?)
すぐに察する。
(ということは、王城にもフラれてるってことか。コタカッタはどこもかしこも厳しい状況なのは違えようもなくなったな。これはひと押しで落ちるぞ)
モーズオは思ったよりはるかに悪い状況にほくそ笑んだ。
次回『聖堂裏の衝突(3)』 「もう、恋愛ごっこはお終いだ」




