生まれの差(3)
コドアドネの戦公モーズオ・ダラッハは暇を持て余している。特使として出向いて今は隣国の王城の客間住まい。滅多な行動はできず、コタカッタの臣公会議が決定を下すまで帰ることもできない。
「なんて面倒なんだ。どうせ、当たり障りのない文面の返書しか出せないくせに」
「どの程度当たり障りがなくするか加減が必要なのでしょう」
「いっそ、『全面的な支援を必要とする』くらい書いてくれれば喝采するがな。その場合、コタカッタは我が国の属国に近い立場になる」
「飲めないから悩んでらっしゃるんですよ」
随伴戦士のアルケー・ザッツェが応じている。彼はモーズオの唯一の専属戦士であり右腕。臣公の親戚筋に当たりながら戦士の才を示し、装鎧戦士にまで登りつめた英才でもある。なので、政治的教育も受けていて頼りになる相棒だ。
「滞在三日目の今日くらいは大人しくしていましょう。明日か明後日には許可をいただいてコタカッタ支庁に例の文書を」
「お、危うく忘れるとこだった。用事は退屈なだけだが、少しは街を観光できるな」
「多少の寄り道くらい許していただけるでしょう。妹君にお土産でも買われては如何です?」
彼には年の離れた腹違いの妹がいる。まだ、十二歳なので嫁に出す予定もない。よく懐いていて非常に可愛がっている。
「お前が買ってやれ」
話を向ける。
「ジュビアが年頃になったらお前のところに嫁にやる。だから、それまでに陛下に戦公に取り立ててもらうんだぞ?」
「そんなことになったら、僕はダラッハ公の執り成しで戦公になったって陰口叩かれてしまいますよ。だいたいジュビア様と幾つ離れてると思うんです」
「十かそこいらくらい、公家にある者なら普通だろ。それより、お前の抜けた俺の戦士団のほうが心配だっての」
実績で父をしのいで、若くして当主の座を奪ったが、それはアルケーの貢献も高い。この副官抜きとなると陛下ふくめ王族の覚えは格段に落ちることだろう。
「それまでに後継を育てとけよ」
「それは閣下のお仕事です」
こんな冗談を言い合える関係なのだから戦士団も上手くいく。今の状態を壊したくもないのだが、いつか同じ戦公として肩を並べて戦う日も夢見てしまうのだ。
「しっかし、まどろっこしいことしてるな。どうも剣闘ってのはテンポが悪い」
「こっちが世界的標準ですって。たいがいの国の戦士は剣の類を使うものです」
「でもな、見てて思わないか?」
踏み込んで斬りつける。数合は交えたとしても、また離れて隙を窺いあう。そして、再びステップ・インして剣を打ち合うという訓練をしているのが窓から見えていた。
「もっと、スパッといけんのか。勝負が遅い」
窓枠に腰掛けて見ていてイライラする。
「あのくらいのテンポが普通です。駆け引きってやつじゃないですか」
「俺だったら相手が様子を見てるうちに三発くらい穴開けてるぞ」
「それは閣下だったらの話です」
どうしてそんな話になるのかといえば、彼らの得物が槍だからである。コドアドネでは伝統的に槍術が採用されてきた。なので、違うテンポの戦い方を焦れったいと感じてしまう。
「閣下だって、こっちに生まれてたらあの輪に入るしかなかったんですよ」
アルケーは当然のように言う。
「おえ、想像しただけでゾッとする」
「そうおっしゃらずに。現実問題、それ以外に選択肢がないんですから」
「だとしてもなあ」
自分が剣を提げて動きまわる姿が想像できない。携帯という意味では剣は優れているだろう。しかし、間合いでははるかにしのぐ武器に慣れてしまった以上戻れはしない。
「装鎧戦士が扱える槍を作る技術では世界的に見ても我が国が一歩も二歩も先んじています。それがなかったら、とっくにコドアドネはすり潰されていましたよ」
「だよなあ」
大きな理由がある。
「集団戦闘向きの武器であるがゆえに槍は重宝しますが、強度という点では劣ります。普通は柄を木で作るものですから。それを、しなる金属で作れるようにしたのが我が国の技術です」
「重いが、こいつじゃないと装着後は耐えてくれないもんな」
「しかも精度が重要です。柄が芯ブレしてたら突きだしても思うところに行きませんよ。製造技術は世界有数のものです」
コドアドネ王国が、西の列強と南のコタカッタに挟まれる厳しい立地で生き抜いてこられた理由である。走りトカゲを駆る戦場となると槍術は比類なき力を発揮した。
ただし、木製の槍では装鎧戦士のパワーに耐えられない。克服する技術を国内で熟成できたからこそ今のコドアドネがある。
「これで、土壌の豊かなコタカッタを飲み込めれば我が国にも西の列強と渡り合える力が付けられる」
悲願である。
「なんだったら、海路攻め入ると見せ掛けることだってできます。北西諸国はそう簡単に動けなくなります。そのときこそコドアドネは安定した王国へと生まれ変わるのです」
「国民にも安寧を与えられるな。この好機、逃してはなるまいよ。例え、ジーギラ公のような強敵という壁があったとしてもだ」
「どちらかいうと、それを楽しみになさっているんじゃないですか?」
見透かされている。
「でもな、あの者ほどの使い手に打ち勝ったとなれば槍の強さも証明できるというものだろう?」
「そうですね。期待してます」
モーズオは柄頭で床をドンと突いてニヤリと笑った。
次回『聖堂裏の衝突(1)』 「だったら、わたし……!」




