生まれの差(2)
「どうやら、舌に関してはあたしのほうがマサキさんに近いみたいね」
「……そんなことないです。わたしだって庶民の生まれなんだもの」
ネクリハは対抗心を燃やしてしまう。
同僚の言葉に間違いはないかとも思うのだがスルーはできない。飛びトカゲが怖いだけで決して口にできないわけではないのだ。
「別に食わなきゃならないんでもないしな。獣のほうが肉は柔らかいし、無理しなくていい」
マサキにフォローされてしまう。
「そうですよね。この前のお食事処でも獣肉のメニューを選んでらしたし」
「街の店で食うんならつい選んじまうのさ。普段はあまり食わないから」
「え、そうだったんですか?」
風向きが怪しい。
「いやー、獣狩るの面倒なんよ。動き速いし警戒心強いし。素人が捕るとなると罠とかじゃないと難しいじゃん。旅暮らしだとそんな何日も同じとこいないし、つい手軽にトカゲを狩っちまう」
「子どもでも捕れるくらいだもんね」
「悪くもないしさ」
マサキもトカゲ肉独特の匂いや食感とかは認めるという。それでも、食べているうちに癖になるのだと主張した。スパイスを効かせると非常に食べやすいと。
「肉は食えるし、皮は使えるし、骨とかもダシが取れるからいいし。捨てるのは内臓だけ。そのへんに放っとけば肉ヒルが来て一時間もしないうちになくなっちゃうじゃん」
捌くのもお手のものらしい。
「ええ、肉ヒル集められたらそれも食べられますしね」
「え?」
「は?」
目を見合わせてしまう。
「食べません、肉ヒル?」
「いやいや、そんな馬鹿な」
「どうしてです?」
おかしなところに意見の相違が表れる。一番手軽で安い食材なのに、彼は肉ヒルに拒絶感を示していた。
「わたしだって、わざわざ肉ヒル捕ってきて食べるんじゃないですよ? 乾燥したのを大袋いっぱいに入れて売ってるじゃないですか。一番の庶民の味です」
「マジで?」
マサキの視線がゆっくりと逸れていく。水色の髪のほうの少女に目で訴えると、そのとおりだとばかりに頷いている。当然の如く嘘ではないのだ。
「ここでも、よくお出ししていますよ」
メニューにふんだんに用いている。
「粉末にしたのをしっかりと煮込んだらとろみのあるスープになります。それに豆を入れて三十分ほど味を含ませた料理なんて皆さん大好きですけど」
「お、俺は絶対に食わないから」
「はい?」
顔を青ざめさせていた。
「肉ヒルも飛びヒルも、なんだったら蜜ヒルだって俺にとったら食材じゃない。ヒルはヒルだ」
「変なの。一番身近な食材なのに。同じ田舎の子だと思ったけど、マサキさんてどこの生まれ?」
「違うちがう。俺がヒル嫌いなだけで特別じゃない。ただ、妖精種とも普通に暮らしてるド田舎だから、まあ特殊っちゃ特殊か」
微妙な誤魔化し方をする。言われると、確かに食事処で選んだメニューはヒルだけ完璧に外していたと思いだした。
(変わってる。憶えとかないと。マサキさんはヒルが苦手、と)
ネクリハは心のメモにしっかりと記した。
(でも、一般的な地方の出とは違うみたい。妹さんたちとも違いがあるみたいだし)
先ほどの反応を見るかぎり二人の少女はヒル平気派のようだ。食べられないのはマサキだけだが、彼が好まないので普段からメニューにないのかもしれない。
(もしかして)
よくない考えが浮かぶ。
(まさか、マサキさんて妖精種信奉者の隠れ里みたいなところの出? ヒルがどうこうより、小妖精を連れてるほうが変だもの。閉じ込めているでもないのに、とても仲良さそうにしてるし普通にしゃべってるし)
小妖精は声量が小さいので少し離れるとなにを話しているのか聞こえない。ただ、彼は二匹の小妖精とよく話しているし、当たり前に名前を付けて呼んでいる。
(でも、妖精種信奉者なら異端だもの。教団の意向は知ってるはずだから、わざわざ近づいてきたりしないはず。それに、信奉してるのとは全然違う感じ?)
マサキに関しては、どうにも捉えどころがないイメージである。どこか変わっているけど普通の美形。田舎の出というのに、機械技術については都会の職人より詳しく秀でている。非常にアンバランスな存在に思えてならない。
「なんだったら、もうちょっと早く来て一緒に賄食べないって誘おうかと思ったんだけど無理そう」
同僚がからかっている。
「断じて遠慮する。俺にヒルを食わそうとするなら絶交だ」
「そこまで言う? 面白ーい」
「あんたにだって絶対に口にも入れたくないくらい嫌いな食べ物あんだろ?」
真剣に抗議している。
「なくもなーい。あたし、可愛い動物は可哀想だから食べないもーん」
「そういうんじゃない。自分だけ可愛く見せようとするな」
「あははは」
軽口を言い合う彼らに加わっておしゃべりを続ける。そうしているうちにマサキに覚えた違和感は消え失せていった。やはり、変わりない普通の人である。
(親にだって、結婚相手として堂々と紹介できるもの)
両親は準司祭を務めあげようとしている娘には、司祭の家の息子とか上流家庭から求婚されればいいと思っているだろう。しかし、マサキならば変わらない稼ぎはあると思う。
ネクリハはもっと仲良くなってマサキが王都に定住してくれないかと願った。
次回『生まれの差(3)』 「用事は退屈なだけだが、少しは街を観光できるな」




