赤い目の怪人(6)
コタカッタ国王ポストカ・センテドールの右隣に立っているのが臣公ダファクリ・メーゲレ。顔色一つ変えずにモーズオに視線を送ってくる。
そして、左に立つ戦公デラハル・モルケトーは微かにではあるが眉を動かした。国王が余計なことを口走ってしまったとの思いが顔に表れてしまっている。
(ポストカ王の臆病は今に始まったことじゃない。近隣各国では公然の秘密のようなもの)
誰も表では口にしないだけ。
(建国の王は力ある装鎧戦士だったはずなのに、わずか数代で血筋は劣化するものか。こうはなりたくないな)
「陛下、ダラッハ公はお疲れのこと。今日のところはお下がりいただいたほうがよろしいかと」
臣公メーゲレが奏上する。
「そうもいくまい。善意には誠意で応えねば余の名が廃る。コドアドネのグリザッハ国王は我が国の窮状を思うて、こうして特使を送ってくれたのである。今さら隠し立てするも礼に失するのではないか?」
「礼は尽くしましょう。ですが、我が国のことで隣国の戦公にまでご迷惑を掛けるわけにもまいりますまい」
「無論だ。騒がしいことを詫びるくらいでうるさく言うのではない」
(迂闊のひと言か。この王を守り立てるのは難儀そうだ。祭りあげているだけでは我慢ならないんだろう)
能力はないがプライドはある。厄介なタイプである。
「そもそも、城壁の『赤い目の怪人』の噂、貴公らが収められぬから余への注進が止まらず頭を痛めているのではないか」
面白いほどに漏れてくる。
「陛下、その話はのちほど」
「貴公が申すようにたわ言であるなら、ダラッハ公の耳障りにならないよう予め伝えておけと言うておる」
「赤い目の怪人?」
初耳の単語は聞き捨てならない。
「最近のことよ。城壁に怪人が出現すると報告が多数あっての。余も急ぎ確認させておるのだが、一向に報告が収まらぬ」
「困ったことですね」
「公の住まいがあるあたりのこと、たわ言と押さえつけるのも難しい。なので、貴公の耳にも入るかもしれぬが、まあ、気にせずともよいという話だ」
(気にするなとか無茶言わないでくれ。面白すぎるんだが)
モーズオは盛んに退出を促されて御前から下がるしかなかった。
◇ ◇ ◇
「で、どうだった?」
「ざっくりとした話は聞けましたよ」
当然、モーズオは随伴戦士の一人に聞き込みをさせる。かなり噂になっているらしく、王城務めの者からは簡単に情報が手に入った。
「夜になると、あの城壁の上に真っ赤な光る目をした怪人が出現するんだそうです」
彼は苦笑を押さえきれない。
「怪人とはね。誰かやられたとか?」
「いえ、目撃情報だけのようです。特に被害は」
「でも、場所柄の怪情報だけに手をこまねいているわけにもいかずってやつか」
なんとなくは察せられる。
「もちろん、国内を騒がせている反逆装鎧戦士と繋げて警戒もしたんでしょうけど変な話でしょう? ただ、城壁に現れるだけで被害が出るわけでもない。そこまで侵入できるならなにか悪さをしないでは意味がありません」
「そうだな。だから、切り離して考えたと?」
「その線は残しながらだとは思いますけどね」
当然の如く警戒はする。ところが、城壁上の巡回兵士にさえ被害は出ない。それどころか、巡回兵には目撃さえされない。上がってくる情報は遠目に見える赤い目の人影だけ。
「それでこの怪人騒ぎをどうするべきか扱いに困っている様子です」
「なるほどな」
ポストカ王にしてみれば、これだけ騒ぎが拡大してしまえばどうせモーズオの耳には入る。変に勘ぐられるくらいであれば先に言ってしまえくらいの心持ちなのだろうと思われる。
「臣下にしてみれば、国内状態が悪く目を逸らせないほどの状況下でそんな怪しげな騒ぎにまで気を割いていられない。幻影にしてしまえって感じではないでしょうか」
気持ちはわからなくもない。
「それじゃ、納得せんよな?」
「はい。なので夜に、飛行タイプの王国戦士に巡視もさせたのだそうです。それでも発見はできない。もう、本当に幻影なのだと思いたいんじゃないかと」
「しかし、目撃情報は止まらないんだろう?」
余計に面倒なことになっている。
「おそらくですが、目撃しているのが公宅周辺の関係者というのもポイントなんだと思います。ある程度の地位にある人物であれば、強力な装鎧戦士が国内を騒がせてるのを知ってます。関係者にも少なからず漏れているでしょう。強迫観念が見せた幻影といえなくもないあたりが微妙なんです」
「確かにな。ちまちまとした、とはいえ無視できない目撃情報。ただし、被害もなければ確たる視認情報もなし。扱いが面倒なことこのうえない」
「優秀な臣下の方々もこればかりはお手上げのようです。コタカッタはまるで呪われてるみたいですね。なにをやらかしたんでしょう?」
随伴戦士も半笑いである。
「ああ、他人事なだけになかなか笑えるじゃないか。せいぜい騒がして弱体化に拍車をかけてくれと祈ろうってもんだ」
「お人が悪いですね、閣下も」
「笑いながら言うな」
モーズオは傍観者として眺めさせてもらうつもりであった。
次回『生まれの差(1)』 「こいつ、俺の主食みたいなもんなんだが」




