赤い目の怪人(5)
コドアドネ王国の戦公モーズオ・ダラッハが城門をくぐるとコタカッタの戦士団が迎えてくれる。ただし、警戒の意味が込められているのは間違いない。万が一にもいきなり攻撃してくるなという警告に近い。
「そこまで落ちぶれてはいないか」
装鎧戦士である戦公を受け入れる態勢としては普通といえる。
「虚勢かもしれません」
「いや、この数相手に暴挙に出るほど俺も馬鹿じゃない」
随伴戦士と小声で交わす会話はとても聞かせられないもの。今のコタカッタの国情を分析する視点での内容だ。
「とはいえ、弱体化しているのはすでに確定事項。ここまで入れた時点でな」
「でありましょう」
「もし、コタカッタに十分な戦力があれば特使など受け入れず、国境で追い払われていたはず。あの場にジーギラ戦公がいながら通されたのは、弱っていないぞと見せ掛けるために他ならないからな」
国境で足止めを食らったモーズオは数日待たされている。相たいした戦公ウフルバが王城に図る時間が必要だったからだ。もし、コタカッタが衝突を怖れない状態であれば、危険を押してでも拒絶の意を示したであろうから。
「あとはどの程度荒れているのか測るのみ」
自身の役目はそれに移っている。
「それと、大司教殿の望みに応えるくらいか」
「閣下に伝令をさせるのは如何なものかとも思いますが」
教団のコドアドネ支庁を仕切る大司教からコタカッタ支庁宛ての親書も預かっている。内容は知らないが、当てこすりに近いものではないかと思っていた。
要は、救援が欲しいなら申しでるようにというもの。助けてやらないことはないが忘れるなと遠回しに書いてあることだろう。つまり、教団内の権力争いに使われているに近い。
「王宮も教団との確執を望んでいない以上は配慮せねばならない」
少々の我慢は必要。
「お使いくらいはしてやる」
「小妖精でも飛ばせば済むことですのに」
「情報が本当なら、その一匹でさえ救援になりかねないと思ったんじゃないのか」
コタカッタ支庁はなんらかのトラブルで小妖精を枯渇させたとの情報。連絡手段として一匹でも送れば帰ってこないのは確実、窮状支援となってしまう。大司教同士の昇格争いにマイナスになることは避けたいので彼に託されたのだ。
「くだらないな」
「そんな相手でも尊重せざるを得ませんし」
教団の売り物は信仰心による求心力。政教一体による統治を容易にする手法。それとは別に妖精種資源がある。
長き年月で蓄積した妖精種に関する知識により、優秀な装鎧少女を産出できるというもの。コドアドネでも独自に装鎧少女を生みだして利用してはいるが、選択的に優秀な個体を生みだすには至っていない。
「まだ、教団の意向は無視できない。優秀な装鎧少女を卸してもらわないといけないからな。西の列強クラスになると、教団と変わらないくらいの技術蓄積があると聞く。うらやましいことだ」
「装鎧戦士に関する技術も桁違いらしいですからね。二重とか三重装着者がごろごろいるとか」
「そこまでいくと都市伝説みたいなものだろう。まあ、いるにはいるから列強と目されているんだがな」
実際に戦ったことはないので判断はつかないが、比較にならないくらい強いといわれている。予想だが、バフ効果が相乗になるなら単純計算で数倍の能力を持つ装鎧戦士がいる。
「本当に相乗効果があるなら化物だな。そんな列強からの圧を防ぐなら、さっさとコタカッタを落とすしかない。海路のある要所を押さえられればずいぶんと楽になる」
「そのためにも敵情視察は大事な役目になります。だからこそ、閣下ほどの方が選ばれたのですよ」
「買われてると思っておこうか」
(討たれてもいいコマとされた可能性もある。どの戦公が俺を特使とすべきと陛下に打診したのだか)
権力争いはどこでも尽きない。
前後を固められたまま城壁内を王城まで進み、ようやく城内へという段取り。走りトカゲを降り、車に乗ってきた文官を従えて踏み入る。
まずは挨拶と国王からの親書の献上という流れであろう。先触れの小妖精は飛ばしてあるので、謁見のアポイントは取れているはずである。
「お待ちください」
「了解している」
謁見の間の大扉の前で止められる。ここからは腰の剣を預け、装鎧少女の帯同も許されない。万が一にもという対応が取られるのは致し方ない。
「よくぞ参られた」
玉座近くまで進み、跪くと声掛けがある。
「長の道行き、苦労であった。承ろう」
「はい、こちらがコドアドネ国王陛下よりの親書となります。ご確認お願い致します」
「うむ、確かに」
近衛戦士が彼から受け取り国王の下へ。
「返書は臣に図ってからとなる。それまではゆるりと旅の疲れを取るがよかろう」
「ご配慮感謝いたします。ときに陛下、ジーギラ公とも会談の場をいただいて伺ったのですが、お困りのことと存じます。私にできることがあれば、滞在中であれば伺いますのでなんなりとご相談ください」
「心遣い感謝する。頼もしいことだ。いささか騒がしいと思うが、気にせずともよいぞ」
(やれやれだ。ここで本音がこぼれてくるようだと相当にまいってるみたいだな。もう少しカマを掛けてみても良さそうだ)
モーズオはコタカッタ国王の内心を読んだ。
次回『赤い目の怪人(6)』 「ざっくりとした話は聞けましたよ」




