赤い目の怪人(4)
食事処でのデートは楽しい。マサキは実に健啖家で、驚くような量の注文をしたかと思うと片っ端から平らげていく。ネクリハはその中の食べたい皿を一口ずつ分けてもらうだけで十分だった。
(高いお店は無理って言うの当然だわ)
見ていて楽しくなるほどだ。
これなら料理の作り甲斐もあろうというもの。彼との結婚生活を想像してしまう。おそらく子どもも大好きだ。妹たちへの接し方でわかる。自身の子どもとなると溺愛するような気がする。
(素敵な旦那様と可愛い子どもに囲まれて、いつかマサキさんが自力で開業して王都に落ち着くって考えてくれたら最高)
そんな妄想が止まらない。
「世話っていや、装鎧少女もいるんじゃね? 教団戦士の装鎧少女はそれぞれが面倒見てるとして、まだ戦士と繋がってない装鎧少女の世話もあるんじゃ時間がいくらあっても足りないな」
心配をしてくれる。
「いえ、装鎧少女にはわたしたち準司祭はノータッチです。とてもじゃないけど魔法力で敵いませんので。吹っ飛ばされて逃がしたりしたら大問題です」
「そりゃ大変だ」
「なので、装鎧少女の担当は魔法力が強い神具官の方々です。詳しいことは知りませんけど、研究のほうもありますので触れる機会はありません」
マサキが知らないのも当然だ。教団の神具官はほぼ表には出てこない。研究開発に勤しむ技術系の人たちで、接点といえば準司祭が食事を運んだり洗濯物を引き取りに行ったりするくらいである。
「じゃあ、その神具官が研究してる施設の傍に装鎧少女の部屋もあるわけだ」
彼は頭の良さも披露してくれる。
「はい。接近禁止だけど、だろうなって小屋はあります」
「なるほど。近づかないに越したことはないな。俺も気をつけよう」
「です。神具官は特に気難しい方が多いのでお勧めできません」
好き嫌いなども多くて苦労している。
「興味本位で立ち入ったこと訊いたりして悪かった。話変わるけど、準司祭ってどうやって選ばれてんの? 募集で審査?」
「そんな感じです。基準は知りませんけど偉い方々がお選びになられます。この前いらっしゃった年嵩の司教様とか」
「あれ、司教様だったのか。ベテランの司祭かと思ってた。失礼だったかな」
「そのくらいでお怒りになられるようなお方ではないです。心配いりません」
準司祭たちが一番頼りにしている司教である。それこそ大司教より尊敬しているかもしれない。
「んで、ネクリハはどうして準司祭になりたいって思ったの?」
気軽な話題に変わって安堵する。
「最初は両親の勧めだったんですけど……」
「なんか、外騒がしいな。なんだ?」
「そうですね」
話どころではない賑やかさだった。このあたりの人が大勢表に出ているようで、食事処の店員さえ駆けだす始末だ。
「ずいぶんと派手な車だな。走りトカゲの装具まで派手派手じゃん」
行列がやってくる。
「あれ……」
「知ってんの?」
「車に付いている紋章、コドアドネ王国のです。戦士の方が持ってる旗も」
三角旗がひるがえる。
「コドアドネ? そうなのか。俺、国内ばかり流してるから詳しくなくってさ。隣国だろ?」
「ええ、北の国の方々みたいです」
「なんで、そんなんがウダマンに現れるんだ?」
訊かれても、ネクリハには知り得ない話である。もっとも、周囲の様子を見れば、到来は前もって噂になっていたのかもしれない。最近はマサキのことに夢中で、街の噂に耳を傾けてなかった。
「どなたです?」
「コドアドネの戦公モーズオ・ダラッハ様が特使としていらっしゃったって昨日から噂だったろ? 知らないの?」
店員が教えてくれる。
「昨日は支庁に詰めていたので知りませんでした」
「そうだった。ごめん。昨日先触れがあってな。失礼のないようお迎えするようにって」
「先触れが。そうだったんですね」
マサキも頷くと視線を行列のほうへ。きらびやかな軽鎧をまとった人物が立派な走りトカゲにまたがっている。鞍の後ろには装鎧少女も繋がれているので戦公モーズオ・ダラッハが彼なのだろう。後ろには同じくコドアドネの王国戦士が二人従っている。
「特使とはな」
マサキがポツリと言う。
「ええ、なぜこんな時期に」
「こんな大変な時期だからさ」
「どういうことです?」
不思議なことに思える。
「君はこう考えたんだろ? コタカッタは騒動が広がって弱ってる。それなら仲良くしようとするんじゃなくて、問答無用で攻めてくるんじゃないかって。でも、意外とそうじゃない」
「そういうものなんですか?」
「外交ってのは面倒なもんでさ、片方の手で拳を握りながら、もう片方で握手の手を差しだすなんてのは普通にやる。しかも、この時期に特使を差し向けるってのは、たぶん国情偵察の意味が強そうだ」
情報は入ってくるものの、どの程度混乱しているかは空気として感じてみないと詳しくはわからない。なので、攻撃の対象にはしにくい特使という形で送り込んだ可能性が高いと言う。
救援を求めているか、あるいは不可侵合意の取り付けか。コタカッタが求めてくるなら話は聞くぞという姿勢。その裏で侵攻の手筈は進められているかもしれないというオマケ付きの説明を受けた。
「なんて回りくどいことを。神が仰せのように、融和を旨とすればいいのに」
「どの口で言うかな」
彼が小さくこぼした言葉の意味がネクリハにはわからなかった。
次回『赤い目の怪人(5)』 「あとはどの程度荒れているのか測るのみ」




