赤い目の怪人(3)
ネクリハはつい浮かれてしまう。マサキに休みの日があるか聞かれ、二日後と答えるとデートに誘われた。普段、手間を掛けさせているお礼という話でも、意中の人物に誘われて嬉しくないはずもない。
「待ちました?」
支庁の前で待ち合わせ。
「いつもの時間じゃん。今日は車じゃないのと俺一人ってだけ。妹たちには留守番させてる」
「でした。どこか案内してほしいところあります?」
「食事できるとこだな。あんまり高いとこは困るぜ」
予め王都ウダマンは明るくないと言い含められている。彼女からも案内がてらという提案をした。どうせ高級店など縁がないので案内できはしない。
(おしゃれしてきちゃった。いつもの地味な司祭服じゃないとこ見てもらえるのいいかも)
会うのは支庁になるのでいつも司祭服になる。それも、正司祭や助祭のように金銀の刺繍が施されているものではなく茶色の刺繍糸で彩られている地味なもの。教団内での地位を自認させるためとはいえ、準司祭たちには不評な装いなのは否めない。
「普段はそんななのか。年相応で可愛いの着てるんだな。似合ってる。印象変わるもんだ」
欲しい言葉を自然とくれる。
「マサキさんは変わらないんですね」
「旅暮らししてると格好なんてそんなに気にしないもんさ。動きやすいのが一番。ほんとなら支庁なんて厳かな場所に出入りするような身分じゃないし」
マサキは簡素なシャツにベスト、パンツスタイルといった格好をしている。ただ、デザインはともかく、なにか高級感のある光沢を感じさせる生地で仕立ててあると感じる。ネクリハたちとは違うところにお金を掛けているのかもしれない。
「そうですか? あなたほどの腕前があれば、その気になれば王国に取り立てていただくのも夢ではないと思うんですけど」
技能は折り紙付きだ。
「そういう堅苦しいのは好みじゃない。流しでやってるのは、気ままでいられるからさ」
「好きに生きていられるのはそれだけのお仕事ができるからです。わたしみたいに庶民ではそんな生き方できません」
「かもな。でも、ネクリハが準司祭でやっていけてるのは、可愛くて愛嬌があるからじゃん。じゃなきゃ、あんな人の出入りが多いところで皆に好かれたりしない」
こそばゆくなりそうな褒め方をされる。肯定はしづらいものの、気分は良くなる一方だ。
(その可愛くて愛嬌のある庶民の娘は、あなたが望むなら奥さんとして旅暮らしも頑張れると思ってますよ、なんて)
妄想が捗ってしまう。
「街の様子は普通っぽいな」
評判の悪くない食事処に収まってから彼が言う。
「普通って?」
「この前、赤い目の怪人の噂のこと教えてくれたろ? だから、このあたりじゃ怯えてる人が多いのかって思ってさ」
「噂話ですからね。半分は面白おかしく受け取っていそうです。それに、城壁に現れる『赤い目の怪人』ですから。上流階級ブロックの話で、庶民には関わりないって思ってるから他人事でいられます」
心持ちを説くとマサキは肩をすくめる。
「そんなもんか」
「王城の中がゴタゴタしてたってわたしたちには影響ないですし」
「でも、君もちょっとは影響受ける立場じゃん」
確かに準司祭として支庁に仕えるネクリハだと教団の混迷具合が影響する。それは王城も同じことであろう。すべての原因は謎の反逆装鎧戦士の仕業である。
「まあ、最近のコタカッタはおかしなことばかりですね。ほんの半年前までは落ち着いた日々のくり返しでしたのに」
ずいぶんと様変わりしたように思う。
「大司教猊下などはとても困っておられるかと思います。でも、わたしたちの立場だとやっていること変わりありませんし。お仕事してて、小妖精にイタズラされることがなくなって良くなったなって感じで」
「だから、面白おかしい噂話にも花を咲かせていられるってか」
「はい」
はっきりと言うとマサキも苦笑いする。
「じゃ、どっちかって言うと怖いのは教団を目の敵にしていそうな装鎧戦士のほう?」
「あはは、ご存知ですよね? そうかもしれません」
「そんなでもないんじゃね? だって、地方の教会と違って支庁には結構な数の教団戦士が詰めてるはずじゃん。そんなとこいきなり襲ってくるとか思ってないだろ?」
図星だった。支庁はかなりズタズタにされているが、これ以上悪くなることはないと感じている。守りは整えられており、彼女たちもその庇護下にある以上は安全だ。
「王国が転覆するような羽目にならないかぎりは。ということは、ないって思ってるのと同じ意味になりますか」
微妙な笑いになってしまう。
「ま、そのための教団戦士だもんな。ネクリハや他の娘たちも、普段はなんの役にも立ってない教団戦士の世話までしなきゃいけないのは、いざってときに守ってもらえるからじゃね?」
「はい。ここだけの話」
「なんだ?」
声をひそめる。
「神に選ばれたとか言って威張り散らしている戦士の方たちなんですから、もしものときくらいお仕事してくださらないと堪ったものではありません」
「だよな」
「ええ、二十人もいらっしゃって、一人の装鎧戦士に負けるようでは役立たずです」
マサキは「そんなにいるのか」と驚いている。
(楽しんでいただけてるみたい。嬉しいな)
ネクリハは純粋にデートを楽しんでいた。
次回『赤い目の怪人(4)』 「こんな大変な時期だからさ」




