赤い目の怪人(2)
「デュアルビルド」
夜陰に紛れて変身した正輝は王都中央の城壁へと向かう。上から教団支庁を観察してどこになにがあるか確認するためだ。広く民衆に開かれた支庁には王城のような城壁がないので、脇の城壁上から全体が丸見えなのである。
「今日の昼に見た調理場があそこだろ? なら、準司祭の子がワゴンで料理を運んでたっていう部屋はあれになるか」
「たぶん」
指さしてティナレルザに確認する。
(では、あの建物がおそらく教団戦士の宿舎で間違いないですね)
(洗濯物の内容からもきっと)
「ロナが見たやつー」
二日前にも同じ建物から洗濯物を引き取る準司祭が見られていた。
城壁の上の赤い目の怪人というのは彼のことである。昼間、細工職人として支庁内に入った正輝は仕事をしつつ、時折ロナタルテとティナレルザを自由に飛ばさせている。
気晴らしという建前の偵察だ。準司祭の若い娘たちが立ち働いている様子から、どこになにがあるか把握しようとしている。
「しかし、赤い目の怪人ってのは傑作」
城壁上で確認作業をしている彼を見掛けた人間の流した噂である。
「目立つのは本意ではないけど、夜赤く輝いて見えちゃうのはどうしてもね」
「ボディの黄色いラインも見えてるはずなんだけどさ。この大きな目のほうが特に印象に残るのか」
(隠しようがありませんものね)
変身状態では身の内より溢れる念動力が光となって表れてしまう。レンズ状の目と、プロテクタを一部縁取るように配置された念動物質化パーツが夜は目立つのは致し方ない。
「こんな深夜に帰ってくるな。いい子は家で大人しく寝てる時間だって」
目撃された所為でおかしな噂になっている。
「仕方ないじゃない。このあたりは上流階級ブロックなんだもの。昼間働くでもないお坊ちゃまお嬢ちゃまが晩餐会だのなんだの楽しんで深夜に家に帰るのよ」
(本人が目撃した分は酒に酔っているからで誤魔化せるかもしれませんが、お世話する運転手さんは素面ですからね)
(ランタンの明かりが見えたよ)
ランゼッタの警告で城壁の狭間に身を隠す。
近くからはできるだけ見つからないよう努力はしているのだが、城壁上が高すぎて近辺のどこから見えてるかは把握しづらい。遠目に見えてしまうと、どうしても赤い目や星明かりに浮かぶ人型のシルエットが印象に残ってしまうようだ。
「ほんとは教団戦士が何人ぐらい待機してるかも調べときたいところだけどさ」
中からの偵察では数人の出入りしか姿を認めていない。
(朝から昼前には訓練とかしているのかもしれませんけど、その時間帯にここに登るわけにもいきませんし)
「俺もその時間帯は眠いって」
(毎日ここだもんね)
ネクリハたちが時間に余裕ができる昼前から昼下がりを訪問時間にしているのは正輝の都合でもある。真夜中の調査確認から戻って朝の遅い時間まで寝ている。昼下がりの夕方が近い時間になると夕餉の準備で彼女たちが忙しくなるのでお暇していた。
それから、街中で買い物など用事を済ませてから帰って食事をし、深夜まで部屋でトレーニングなどしつつ時間を合わせる。そんなサイクルで活動していた。
「出入り職人を偽装するにも仕事してるとこ見られておかないとね」
ティナレルザの提案でもある。
「できあがりの確認もしてもらわないと、ちゃんと仕事してるって感じにならないしさ」
(変とこ律儀なんだもん)
「ひえっ!」
遠く悲鳴が聞こえる。
(また見られてしまいました)
「どうしよもないねー」
「ある程度はな、ロナ。でも、噂が王城まで伝わって城壁巡回が強化されるまでには全体の把握をしておきたいところだけど」
変身状態であれば人の接近は感知しやすい。見つからないよう振る舞うのは難しくないともいえる。
ただし、絶対でもない。噂のうちはいいが、万が一にも実体のある不審者だと思われると見張りを立てられてしまうかもしれない。それは避けなければならない。
「肝心要の装鎧少女が閉じ込められている部屋が見つかってないのがネックなんだよな」
最重要ターゲットをまだ見つけていない。
「人の出入りが極端に少ないところだものね」
(準司祭たちもお世話の必要がない対象です。管理も厳重でしょうし)
(でも、誰かが精気供給のために出入りしてるはず)
中にいる時間帯ではないのかもしれない。
「どうせ粗末な服を着せてろくに洗濯とかもしてやってないんだろうし困ったな。なんか腹も立ってきたし」
(致し方ありません。使える道具という認識を教義として広める立場なのですから)
「勝手に歩きまわったりも許されてないんだろ。しまったか。少数でも小妖精を残しておけば話を聞けたかもしれなかったのにな」
完全に全員を里に引きあげてしまっている。変なとこで裏目に出てしまった。苦しみを長引かせるよりマシかとあきらめるしかない。
「しゃーない」
変身中の視力ならば夜闇でも通用するが建物の中までは見通せない。
「世話するでもなくとも、どこに閉じ込められているかくらいはネクリハたちも知ってはいるだろ。どうにか聞きだすか」
「それも支庁の中での話はやめといたほうがよくない?」
「誰に聞かれるかわかったもんじゃないな。連れだすか」
まだ疑われるには早い。
(お休みがあれば誘えばよろしいのでは)
「ルキさん、違う念まで伝わってきてます」
「うわきー。きゃははは」
ロナタルテにまで笑われる正輝であった。
次回『赤い目の怪人(3)』 「普段はそんななのか。年相応で可愛いの着てるんだな」




