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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
王都ウダマン

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赤い目の怪人(1)

 臣公や戦公、魔公など王城に仕える者たちの邸宅は城下すぐ近くに建てられる。そんなことが代々続くと王城近辺は公の地位にある者と、その親類が住まうブロックとなるもの。

 その若い男も臣公の家の親戚筋に当たり、上流ブロックに住んでいた。相応の高級酒場で酒をあおり覿面に酔って帰り、車を邸宅に着けさせたところで降りる。危うげな足元でエントランスに向かう途中、いつかはその中で仕えるのだと城壁を見あげた。


「はひっ!」


 そこには赤い輝きを放つ大きな目が浮かんでいたのである。恐怖に腰を抜かした男が目を離せないでいると、しゃがんでいたそれが立ちあがる。それは人のシルエットをしていた。


「お、襲われる」


 気づいてしまった彼を消そうとするのではないかと怖れたが、そのシルエットは城壁から飛び降りて、際の邸宅の陰に隠れて見えなくなる。

 それさえも異常な行動だ。城壁は20m近くの高さがあるのだ。魔法師クラスの力があれば飛び降りられるかもしれないが、常人では無事に済まない。


「か、怪人だ」


 酔いが一気に醒めた男は邸宅へと転がり込んだ。


   ◇      ◇      ◇


 マサキはその日も来てくれていた。


 あれから、洗濯機の回転板を改造して衣類が絡みにくいようにしてくれたり、竈や製紙機に使う薪割り機をパワーアップしてくれたりしている。彼が来ると、準司祭の娘たちが集まってついてまわるようになったのは不満であるが、知り合ったことは何度も感謝されていた。


「なんで、こんなことを思いつけるの?」

「俺は魔法が下手だろ? 身近なもんを効率良く動くように細工しないと大変じゃん」

「そうだけど、よほど知恵者でないとこんなには」

 同僚もマサキに首ったけだ。


 モテモテである。金属箱車の噂も広まり、それなりに稼ぐ職人だという認識も相まって、下手な助祭の手つきになるより彼のほうが優良物件だと言われるようになっている。


「君が例の細工職人かね?」

 年嵩の司教がやってきたので準司祭たちは控える。

「先日は申し訳ないことをしたと聞いている。聖職者ともあろう者が信者の方々に強制的に寄進を迫るなど以ての外。私からも詫びよう」

「いや、司祭さんたちの縄張りに入り込んでるのは俺のほうなんだ。目障りなら追いだしてくれ」

「この娘たちの助けになってやってほしい。対価は払う。支庁が大変なときとあって皆が忙しくしている。そんな折、君のような優秀な職人を迎え入れられたことは僥倖である。神の思し召しと感謝を捧げよう」

 人格者である司教はマサキにきつく当たるようなことはなかった。

「それなら仕事はするさ。自由にさせてもらうのはありがたい」

「うむ、頼めるかね」

「了解だ」


 言質を取ったに等しい。司教が歩み去ったところで準司祭の娘たちは飛びあがって喜んだ。ネクリハも喜びを噛みしめる。


「と言ってもな、目ぼしいところは手ぇ入れちまったしネタが尽きそうだ。ちょっとばかり考える時間をくれ」

 マサキも苦笑い。

「ええ、お好きなだけご覧になってください。司祭様のお墨付きもいただいたので誰も咎めたりできません」

「わかった。うろうろするけど邪魔にはならないようにするからさ」

「いつでもお声掛けしてください」


 これで彼は出入り職人認定だ。機械類は便利になるし、彼女の恋心も満たされる。不躾な言葉遣いも親しみとしか感じられない。


「あの、城壁の赤い目の怪人のことはご存知です?」

 話題に困って振ってみる。

「知らないな。なんか噂になってるのかい?」

「夜になると、城壁に真っ赤に輝く大きな目をした怪人が現れるのだそうです。いつか誰か襲われるのではないかともっぱら」

「そっかぁ。俺は下町の宿にいるから、支庁があるような上流ブロックの噂には縁がなくてね」

 以前もそんな話をしていた。

「わたしも下町近くの家から通いなので夜はこのあたりにはいないんです。でも、なんだか不気味で」

「君みたいな若い子はそんな噂があると怖いだろな」

「昼間に出たって噂はありませんし、本当の話かどうかもわからないんですけど」


 支庁には教団の装鎧戦士(エルフィンアーマー)も控えているので危険だとは思えない。如何な怪人でも幾人もの装鎧戦士に敵いはしないはずだ。


「ここは城壁のすぐ近くじゃん」

 マサキは不思議そうにしている。

「教団の装鎧戦士さんもいるだろうし、城壁内には王国戦士が大勢いるんじゃね? 最強の呼び声高い戦公ウフルバとかも控えてるんなら怖くないだろ」

「いえ、ジーギラ戦士団の方々は北の国境に遠征に出られておいでです。わたし、出征の様子をお見掛けしましたので」

「あ、ウフルバ、いないのか」

 何気なくこぼす。

「ウフルバ様をご存知なので?」

「あー、前にちょっとな。王都じゃなく、別んとこで知り合う機会があって、ちょっとだけ話させてもらったことがあんだ」

「そうでしたか。でも、マサキさんの言うとおり城壁内には屈指の戦公様方がいらっしゃるので大丈夫ですよね?」

「たぶんな」


(ウフルバ様ほどのお方なら、マサキさんの優秀さをひと目で見抜いて助力を仰ごうとしたのかもしれません。バイクや金属箱車とか王国も機械化を進めておりますし)


 ネクリハはそう理解した。

次回『赤い目の怪人(2)』 「いい子は家で大人しく寝てる時間だって」

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