街壁の中(6)
ネクリハが待っていると望みの人物がやってくる。しかも、見たことのないような金属箱車で乗り付けてきた。そのへんの職人の収入で買えるような代物には見えない。
(もしかして、マサキって優秀でお金もち?)
そんな期待まで抱いてしまう。
王都ウダマンのギルドの職人を上まわる技能の持ち主なのは間違いない。そのくらいの腕前でなければ流しの細工職人で食っていくのは無理なのかとも思う。
「お待たせ。こいつを置いとけるとこあるかい?」
「裏手に。そちらの勝手口から入れますので」
「案内頼む」
少女たちが後ろの座席に移ってくれたのでマサキの隣に乗り込む。王都でもまだ珍しい金属箱車に乗れたのは家族にも自慢できそうだ。
「話は通った?」
「はい、よほど高額でなければという条件ですが」
「材料費は頼むぜ。工賃は勉強してやるからさ」
「大丈夫ですので、きちんと請求なさってください」
実際問題、予算を引きだすのは難しくない。支庁の司祭たちは世話されることに慣れすぎて自堕落になっている。要は、女性の多い準司祭たちにそっぽを向かれると生活が疎かになってしまう。弱みを握っているに等しいので、職務効率に関わるときくらいは強く出られるのだ。
「そんな空気感なんだ」
説明するとマサキはウケている。
「司祭候補の助祭さんたちでさえ最初から支庁務めだと自分のこともできません。たぶん、教会に配属されると苦労なされるんじゃないかと」
「立派な説教してるけど内実はそんなもんか」
「ほとんど家業みたいになっているので世間知らずの方が多いです」
話が弾んだまま裏手に駐車する。荷台から大きな袋を抱えあげる彼は、見掛けによらぬたくましさを見せる。腕など、戦士もかくやというほど鍛えられていてうっとりとしてしまった。
「悪いね。さすがにこんな重たいもんを担いで出向いてくるのは大変でさ」
「いえ。お願いしたのはこちらですので」
「その分、仕事はする」
公言するとおり、マサキは改造された機械類を端から改良していく。その手際は慣れたもので、確かに職人なのだと思いださせてくれる。
「とりあえずこんなもんか」
昼下がりまで掛かってひと通り改良を終えた。
「助かりました。如何ほど用意します?」
「明日にしよう。ちょっと考えがあってさ」
(明日も会える。嬉しい)
ネクリハの胸は高鳴った。
翌日、裏手で待っているとマサキが車を乗り入れてくる。時間帯が昼前くらいなのは準司祭が応対できるような配慮なのだと思っていた。
(もしかして、わたしに会いたいからだったりして)
淡い期待を抱いたりもする。
「製粉機の調子はどう?」
「絶好調です」
「そっか。じゃ、もっと効率よく働いてくれるようにしてやろう」
今日も材料の大袋を抱えて関係者エリアに入るマサキ。製粉機の前に陣取るとなにやら寸法を測りはじめる。チェックしたあとは胡座をかき、二人のきれいな少女を膝に座らせるとそれぞれに細工の指示をしている。
「そうそう、コの字の部分が回転するから中折れにして、こっから先は前後するだけ。上手いぜ」
そんな感じで説明をすると見る間に細工物が組み込まれていく。できあがった部品を彼はまるで当たり前のように形にしていった。
「パワーユニットの回転する力は余り気味だからさ、別の仕事もさせる。テーパー歯車とクランクを使ってピストン運動させるとこのリング上の部分が揺れるだろ?」
「はい」
「じゃあ、ふるいを持ってきて」
輪になった皿にふるいを載せ、中に挽いただけの麦粉を掬って入れると勝手に粉をふるってくれる。残った籾殻はふるいから捨てねばならないが、手間は格段に省かれ労力も掛からない。
「こういうのを改造っていうのさ」
「すごいです。こんなことできるなんて」
「どうやって動いてるか不安だろうから見えるようにしてあるが回転部分は危ない。髪とか巻き込まないようカバーをしとくぜ」
至れり尽くせりである。夕餉の平パン用の麦を挽いているとあっという間に出来あがっていく。いつもは粉を挽きながら横でふるいに掛けていたのに今は製粉機の仕事を見ているだけでいい。
「なんてすごいのかしら」
いつもの同僚もきており、さらには準司祭たちが輪を作っていた。
「めちゃ格好いい職人さんが来てるって聞いたから見にきたのに、こんな優秀な人だったなんて」
「ネクリハったら独り占めする気?」
「いけないんだ」
騒ぎになってしまっている。見掛けた助祭がやってくると、マサキを見て歩み寄ってきた。
「そこの男、小妖精を連れているな。教団に寄進したまえ」
横柄な態度で迫った。
「勘弁してくれよ。この子は俺にとっちゃ家族みたいなもんなんだ。あんた、信心があるなら家族を売れって言われて差しだすのか?」
「人と妖精種は違う。そいつらは道具だ」
「違うって言ってんじゃん。わからないやつだな」
マサキが立ち上がると助祭より頭一つ高い。身体つきも明らかに劣る助祭だがまだ虚勢を張って睨みつけていた。
「なに言ってらっしゃるんです、助祭様。そもそも、あなたが売り込みに来たギルドの職人に改造させた部分が悪かったんですよ?」
「それは君たちに良かれと思って」
「良くなかったんです。お陰で手間が増えただけでした!」
口々に非難された助祭はほうほうの体で逃げだしていった。大体が若い娘の準司祭への下心を感じさせる話だったのだ。
「すみません、マサキさん」
「いいってこと。庇ってくれてありがとな」
彼が笑むと、準司祭たちは「きゃあ」と盛りあがった。
次回『赤い目の怪人(1)』 「か、怪人だ」




