街壁の中(3)
ネクリハがマサキに見せたのは円筒式製粉機である。凹凸のある横置き外筒の中に籾ごと麦を入れると、中の棒状の石のスリコギが回転して麦をすり潰して粉にする方式の機械。
円筒内の螺旋に切られた凹凸に従ってすり潰された麦粉と籾が出てくる。あとはふるいに掛ければ麦粉だけ取りだせる。わりとシンプルな構造をしているものの、動かなくなると彼女たち準司祭の手に負える代物ではない。
「マサキはこれを知ってて直し方がわかりますか?」
そんな口振りだ。
「それぞれは見たことある。それに原因は一目瞭然なんだよな」
「え、そんなに簡単なこと? それぞれ?」
「こいつは従来の回し車の部分を、車とかに使うパワーユニットに置き換えたもんさ。楽に動かせるからとかって言って改造したんだろ?」
一言一句そのとおりだった。
「そうです。でも、改造したのはギルドに頼んだ職人さんなんですけど?」
「文句言っていい。これをやった職人はパワーユニットの構造を理解してない。単に高効率に回転力を得られる機械だと思ってる。大間違い」
「違うんですか?」
実際に製粉作業は楽になっていた。最初に回りだすまでは魔法の力がいるが、一度回りはじめると小さな力でずっと回ってくれるので都合がいい。
「このパワーユニットは車とかに使うように、楽に大きな回転力を出せる構造になってる。ところが製粉機のほうの仕組みは旧来の回し車で出せる力にしか耐えられない。アンマッチなのさ」
簡単に解明してしまう。
「それで壊れてしまったと?」
「壊れたってより疲労したのさ。スリコギのシャフトに必要以上に力が加わったもんだから、あっという間に摩耗しちまった。で、軸ブレして外筒の壁に噛みついて止まる。それだけのこと」
「それで、修理は……」
緊急事態なのである。
「シャフトを変えれば動くようになるけど、また壊れること請け合い。この組み合わせにするなら軸受とシャフトの材料ごと変えるしかない」
「直せるのならお願いしてもいいですか?」
「いいけど金……、まあ、今日かぎりでサービスしてやるか」
マサキが腰袋からいろいろと取りだす。金属の粉と流体金属だった。適当な容器が欲しいというので持ってくると、その器の中で金属の粉とメタルを練る。
スリコギに繋がっていたシャフトを外し、別の細い金属棒に入れ替えた。軸受のところになにか輪っかのような部品を噛ませるとちょうどいい太さである。あとはパワーユニット側とスリコギ側をピンで固定して終わりを告げた。
「え、こんなに早く?」
時間にして十五分ほどでしかなかった。
「動かしてみれば?」
「あ、はい」
「軽くなってるはずだから、そんなに力入れないほうがいいぜ」
驚くほどスッと回る。しかも、以前とは比較にならない速さで回りはじめた。彼が試しに横にあった袋から籾のままの麦を上から投入すると、あっという間にすり潰された麦粉が出てくる。
「直った。こんなすごく簡単に?」
同僚の準司祭も感嘆している。
「しかも、こんなに早く製粉できるようになってます」
「あんま早いときれいな粉にならないかもしれないから加減してくれ。慣れるしかないけどさ」
「でも、修理に流体金属使ってたけど大丈夫?」
流体金属はそれなりに高価なものだ。一般家庭では節約しながら大事に使わねばならない。
「だから、今日かぎり。何回もは勘弁な。次は頼まれても金取る」
ネクリハの親切のお礼だと言った。
「俺はこのとおり問題を見極める目はあっても修理に使う部品を作れない。魔法力が弱すぎてさ。だから、この子たちに手伝ってもらわないと使えない職人でもあるんでね」
確かに部品を作っていたのはマサキが連れている二人の少女であった。彼はどんなものをどういうサイズで作るかを教えているだけで交換以外は手を出していない。
「妹さんなのでは?」
子供と言われたらショックである。
「引き取ってきた子なんだ。地方の村にいた孤児らしくてね。育てるかわりに仕事を手伝ってもらってる。だから、似ても似つかないくらいきれいな子たちだろ?」
「いえ、マサキさんも美け……、いえ、なんでも」
「独り立ちするまでは家族だな。そういう意味なら妹」
二人を引き寄せて頭を撫でると美少女たちは嬉しそうにしている。
「そうだったのですか」
「もしかして、俺の子だと思った? そんなに年食ってるように見える? ちょっとショック」
「そんなんじゃないです」
おどけてみせるマサキ。冗談なのだとすぐにわかる。彼女たちを安心させようとしているのだ。
「でね」
同僚が切り出した。
「これの改造した職人、他に洗濯機とかいろいろ似たような改造していったんだけど大丈夫か見てくれない?」
「そんな、ご迷惑になってはいけませんし」
「別にいい。乗りかかった船だしな」
同僚と一緒に洗濯場や薪割り機が置いてある場所を見てまわる。マサキは一貫して苦い面持ちのままだった。
「適当な仕事してるな。長くは持たないぜ」
総評を告げる。
「故障しないように改造できる?」
「できる。でも、今日は材料の手持ちがない。オマケは今日かぎりだから改造費はしっかりもらうから上に掛け合ってみるといい。明日、また顔出す」
「それでお願い。あたしたちには死活問題なの」
同僚も彼と繋がりを絶ちたくないのだろう
「いいんですか?」
「おう、仕事としてなら請ける」
(また会える。嬉しい)
ネクリハは心を踊らせていた。
次回『街壁の中(4)』 「俺って、そのへんの一般人にしか見えないじゃん」




