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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
王都ウダマン

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街壁の中(2)

 その男は、コタカッタ支庁大聖堂の中において少々目立っていた。それもそのはず、王都の店先からもほぼ姿を見せなくなった小妖精(リトルエルフィン)を連れているからである。

 簡素な装いに黒髪黒瞳、二人の見目麗しい少女も伴っているので誰もが目を奪われる。教団の戦士服でもなければ王国の軽鎧も着けていないうえ、剣も提げていないことから戦士でないとわかる。そうでなければ少女を装鎧少女(エルフィン)だと疑うものも出てきていたであろう。


(でも、小妖精(リトルエルフィン)というのはちょっと……)

 問題があるとネクリハは思う。


 彼女はこの支庁で準司祭を務めている。二十一歳と若いので下っ端もいいところだが、彼女のような準司祭は支庁にそれこそ何百人もいる。それくらい、いろいろな人が出入りし、さまざまな行事が行われており、動員される手も必要だということ。


「こんにちは。本日はコタカッタ支庁になにか御用でしょうか?」

 心配になって声掛けする。

「っと、申し訳ない。俺、田舎者でさ、物見遊山に立ち寄ってみただけ。邪魔だったら消えるから」

「いえ、信者の方に邪魔などとは申しません。ただ、お気をつけになったほうがよろしいかと思いまして」

「なにに?」

 男は愛想よく訊いてくる。

「最近は王国内から小妖精がいなくなってしまっています。その折り、そんなふうに連れ歩いていらっしゃるといささか困ることになるかもしれません」

「そうなのかい?」

「王都の店先で見掛けないとは思われませんでした?」

「そういや、確かに。俺の住んでるとこだとこれが普通だったから気にしなかった。ありがとさん」


 朗らかな笑みがネクリハの胸を打つ。素朴な青年という感じなのだ。ただし、顔立ちは驚くほど整っていて、人好きのする造形からも目が離せなくなっていた。


「忙しいところ助かった。悪かったね」

「いえ、朝からのお務めも一段落したお昼前のこの時間帯は少しは」

「そっか。俺、マサキ。君は?」

「ネクリハです。支庁で準司祭を務めさせていただいてます」


 準司祭といえば聞こえはいいが要するにお手伝いである。司祭より上ならば支庁の敷地内に宿舎があるが、彼女のような準司祭は家から通い。早朝に登庁したら夕方まで働いて家に帰るという毎日。


「へえ、そんな肩書があるんだ。地方の教会だとそういう人見なかった」

「はい、各地では司祭だけでもまわりますので。支庁ともなると大勢の方が働いておりますし、身の周りのことをするお時間も取れないほど忙しくしていらっしゃいますので」

「そっか。君も大変だな」


 口では言うものの、実際に司祭の方々が本当に忙しくしているわけでもない。支庁務めの特権として下働きに世話させているのだ。地方の教会とは違う、格上の存在と見せ掛ける方便。行儀作法は求められるも給与は悪くないので人気はある。


「でも、この準司祭服をまとうだけで神にお仕えしているって気分になれるんです」

「そんなもんかね。俺にはよくわからない」

「似合いません?」

「いや、可愛いと思うぜ」

 恋愛ごとに慣れていなくて、褒められると思わず舞いあがってしまいそうになる。


 ネクリハのように二十一歳で未婚となると普通は行き遅れと言われるもの。しかし、十七歳の頃から務めあげていれば、司祭に取り立てられることも少なくない。

 退けば退いたで、元準司祭となれば引く手数多となる。支庁で通用した行儀が身についていれば上流の家からも求婚の声が掛かったりもする。


(けど、こんな出会いもあっていいのかも)

 マサキのような純朴な青年との恋にも憧れがある。


「ここにいた、ネクリハ。ちょっと手伝って」

 同僚の準司祭から声が飛んでくる。

「どうしたの?」

「また、製粉機の調子が悪いの。最悪手作業になるかもしれないから人手集めてるのよ。私は職人ギルドに人を頼みに行ってくるから」

「大変。マサキさん、ごめんなさい。ご案内できそうにないです」

 淡い想いはここまでのようだ。

「そりゃいいが、製粉機が壊れたのか?」

「少し前から調子悪くって再々」

「俺、流しの細工職人なんだけど役に立てる?」


 唐突な申し出に面食らう。同僚に相談してみると一も二もなく腕を引っ張られていた。


「おいおい、こっちは大聖堂でもバックヤード……、関係者以外お断りのエリアなんじゃね?」

 マサキは引かれるままに困り顔をしている。

「それどころではないんです。もし、製粉を手作業でするとなると、今夜の夕餉を遅らせてしまうことになって司祭様方に大目玉を食らってしまいますので」

「まあ、製粉したのを買ってくるにも割高だし荷物になるか。男手が少なけりゃ仕方ないな。わかるかどうか知らないが見てみよう」

「お願いします」


 マサキは連れていかれるままに製粉機の前へ。ひと目見ただけで失笑している。破顔しても格好いいのはルール違反だと思ってしまう。


「わかるの?」

 同僚も頼りとばかりにすがっているが、その目には違う色も浮かんでいる。

「直るとすごく助かります、マサキさん」

「ずいぶんと乱暴なことをしたもんだ。どこの職人に改造させた?」


 少し前に改造したのを言い当てたマサキにネクリハは驚いた。

次回『街壁の中(3)』 「まあ、今日かぎりでサービスしてやるか」

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