街壁の中(1)
遠目に見ただけで膨大な労力の賜物だとわかる。そこの権力者はなにから民衆を守るためにそれほど巨大な壁を欲したか。あるいは、自らの権威を示すために欲したのか。正輝にはわからない。
「大型の飛びトカゲもいれば、メタル進化種の飛びトカゲもいる。敵国に目を向ければ飛行タイプの装鎧戦士もいる。そう考えたら、あれほどの街壁ってほんとに必要なのかってのは疑問じゃね?」
防げないものが多すぎる。
「そうかも。無駄?」
「そんなことはないわよ」
「ええ、もちろん意味はありますね」
徒歩だと、ウダマンまであと数時間という位置の高台で王都の威容を眺めつつ休憩している。彼の疑問にランゼッタは同調するも、ティナレルザやエメルキアはそこに意味を見出しているようだ。ロナタルテは我関せずとお菓子を齧っているが。
「例えば、マサキがあそこに住むとして街壁は不要と考えますか?」
エメルキアが問い掛けてくる。
「不要? うん、仕切り程度の認識しかないな」
「獣が襲来する。あるいは戦争で攻め入られて包囲される。そういう観点で見ているからですよね?」
「他になにかある?」
物には役目がある。
「それはマサキが装鎧戦士として迎撃すると考えているからでしょ? もし、私たちがいなくて変身できないとして考えたら?」
「どっちにせよ無力じゃん」
「そう、無力なの。なにが来ても外壁を飛び越えられたら抵抗する術もない。でも、飛び越えられない敵だとしたら」
ガード面での穴と考えてしまっていた。しかし、ティナレルザは穴はあって当然だと言っている。無力であれば、せめて飛び越えられない外敵だけでも防げられば安心できるのではないかと。
「そうか。一時的に飛び越えられない敵を留めておいて飛び越えてきた敵に対処する。そういう考え方か」
現代人である正輝はつい完成度の高いセキュリティを求めてしまう。しかし、ジノグラフの文明レベルでは求めても無駄という問題なのだ。
「なにをするか、誰がなにを求めているかの問題ですね」
エメルキアがヒントをくれる。
「ここの王様は、民衆を安心させるために街壁建造っていう労力を支払っているわけだ。お優しいことだな。その優しさをどうして妖精種にも向けられなかった」
「まあ、それは、ね」
「王は街壁で民衆を安心させ、越えてくる外敵に関しては別の対策を練ります。役目を問うなら、それが王の役目といえるでしょう」
仮定として、正輝が無力な民衆なら街壁の有り無しが生活に安心感をもたらし、為政者であれば対処の仕方を工夫するうえでの措置だと教えてくれる。至って順当な考え方だろう。
「同じなんだな」
納得した。
「前に、外に妖精種のエリアを作るなら城壁くらいは必要だって言ったろ?」
「ええ、そんな話もしたわね」
「そりゃ、基本的に侵入を防ぐべき対象が人間だって考えたからで、別の敵に関しては俺が変身して対処すればいいって思ったからだ。結局はそういうことなんだな」
間仕切りとしての機能しか求めていない。
「人間だって魔法を使えば城壁を乗り越えられるかもしれないけど、それくらいの魔法力があれば魔法師になるわ」
「で、仮に魔法師だったとしても、空をビュンビュン飛べるほどの魔法力はないと。身近でそれができるのは小妖精くらいか」
「だから、伝達と警戒に小妖精が適当なのです。はるか昔であれば協力体制を築けたかもしれない。でも、メタルの災厄以降は強要してでも役目を背負わせたくなってしまった」
「それに教団が一役買ったというわけか。当時の裏側もなんか臭ってきたな」
デレキセント教団だけの思惑ではなかったのかもしれない。当時の統一王朝も、妖精種の活用に強制力がなければ災厄を乗り越えられないと考えた可能性が高い。密約のうちに、流布する役目を教団に負わせたのではないかと思えてきた。
「機会があったら、統一王朝の記録も調べたくなってきたな」
黒い考えが正輝の頭にこびりつく。
「この歪んだ世界を作った本当の黒幕が誰だったのか気になる」
「記録があるとしても、それは統一王朝の存在した場所ですね。ウダマンではありません」
「しかも、絶対に外に出せない記録として奥深く隠されてるか、なんなら抹消されてるかのどっちかだな。ましてや、当時を知る人間なんて生きてるわけもない」
ゼアネルヒのように妖精種なら生きている可能性もあるが、その企てに関わっているわけもない。罪を問う相手もいないのは虚しいだけかとも思う。
「真実をつまびらかにするのも人間社会の意識改革の一助にはなるかもしれませんけどね」
エメルキアが無駄ではないとフォローしてくれる。
「まだ、先の話だな。コタカッタでまごついてるようじゃ、俺の寿命が追っつかない。でも、攻略するって考えるとこいつはなかなかにデカブツすぎる」
「ウダマンだけで十万近い人が住んでいるのですから」
「一対十万はきっついな。王様にすりゃ、そう思わせたいわけだ。住んでる数を人の力と考えるなら、街壁つくるのも正解って結論に達するじゃん」
思惑が透けて見える。
「敵対者を威圧する意味はあるかもですね」
「いわば、俺は国家転覆を目論む悪の化身というわけだ。上等じゃん」
「ときどきだけど、そのノリなんなの?」
ティナレルザのツッコミに正輝はニヤリと笑って応じた。
次回『街壁の中(2)』 「似合いません?」




