巡り合いレディ(3)
音さえ斬り裂くのではないかというほどの突きが来る。前に戦ったときのように教会内ではないので足場はいい。軽快な足さばきが可能な街道脇での条件は彼女に有利に働くと正輝は感じた。
(避けるのでいっぱいか。余裕がないと話もできないじゃん)
下手すると負ける。薙ぎ払いは少々当てられてもいいが、瞬速の突きを心臓だの頭だの急所に受けるとアウトだ。おそらくプロテクタを突き抜けてくる。
「悪いけど、遠慮してらんない」
「なに?」
「デュアルビルド」
車のドライブシートにいたランゼッタが光に分解されて漂ってくる。一度身体から外れて浮いたプロテクタが混じり合って変化し、再び張り付いてボディを形成した。パワーフォームなら防御も上がって危険度は下がる。
「話には聞いてたけど、あんた、本当に二重装着できるのね?」
さすがの彼女も鼻白んだ空気をかもす。
「そんな呼び方もあるのか」
「ええ。まじまじと見たのは初めてだけど」
「教団でも珍しい?」
やや意外な台詞だったのである。
「そうでもない。多くはないけどいる。ただね、連中、誰かとつるむことほとんどないのよ。それくらい圧倒的。私と同じ自由戦士だから認められるけど」
「自由戦士ね。なんとなく想像ついた。コタカッタ支庁との利害関係が見えなくて、あんたがどういう立場なのかわからなかったんだよな」
「喧嘩売ってくるわりに教団内部のこと知らないのね」
鼻先に向けてレイピアの切っ先を揺らしてくる。あからさまに挑発されていた。圧倒的というわりに臆した様子がない。
「そんな開けっぴろげな組織か? ぶっちゃけ、どろどろしたものを感じるんだが」
裏側は、という意味で。
「ご名答。なかなかに腐ってる」
「他人に聞かせられないようなことを。ま、想像に難くないけど」
「たばかろうっても無理でしょ? あんた、思ってたよりずっと頭いいみたいだし」
見透かされたような台詞を投げ掛けられる。
「さっさと縁切ったほうがよくね?」
「いやよ。あそこには私が欲しいものがたんまりあるんだもの。そうだった。あの子たちを返しなさいよ」
「そういや盗人扱いされたんだった、身に覚えがないってのに。サイコブレード」
両手に念動の刃を生みだして突きだけは弾いていく。一対一であればどうにか捌ける密度だ。パワーも上がっているので連撃の密度そのものも下げられる。
「それの仕組みも吐きださせたいところだけど、まずはあの子たちをどこに放したか自白しなさい」
まるで攻め立ててくる刑事のようだ。
「覚えがあるとすりゃ小妖精のことか?」
「他に誰がいると思ってんの。やっと懐いてくれたとこだったってのに」
「彼女たちならある場所で安全に暮らしてる」
里に逃がした。
「嘘おっしゃい。そんな場所がどこにあるってんの。適当なこと言って」
「作ったんだよ。そうじゃなきゃ、連れまわす羽目になるじゃん」
ワンステップで間合いを取る教団戦士だったが戦意は消えていない。頭を整理するのにひと呼吸必要としたか。
「あり得ない。教団を撹乱するために小妖精を奪ったんじゃないわけ?」
訝しげな声音だ。
「あの子たちを無造作に放ったって飢えさせるだけなのに?」
「するか。ちゃんと飢えることもなく暮らせるとこがあるんだって」
「信じさせたいんなら連れてきなさいよ」
迫ってくる。
「それだけは駄目。人間には誰一人も絶対に知られちゃなんない」
「そんなこと言って、やっぱり嘘なんじゃないの?」
「結構な数の妖精種がいる。考えてみろって。もし、飢えた小妖精がいるんだったら人里に出てきて噂になってるはずじゃね?」
牽制のように突きが飛んできていたが、それも収まってきた。正輝の言うことが理に適っていると思いはじめた様子。
「見ないと信じない」
「教えられないって」
押し問答になる。
「そもそもだ。教団はどれくらい妖精種のこと知ってる? 吸精の妖魔に仕立てあげたいから見せかけているだろうが、彼女たちが自活できるのだってわかってんじゃないのか?」
「そんなわけ! ……あるの?」
「細々とではあるけどな。それをどうにかする環境ってのも作れるのさ」
迷いが攻撃を鈍らせている。彼のほうから間合いを切って相互に窺い見ている状態にした。
「どうにも話が合わない。ここは一つ休戦といかないか?」
「いいわよ。あんたのほうから装着を解くなら」
警戒されている。
「とか言って攻撃すんなよ?」
「信用しなさいよ。敵を信用しろってのもあれだけど」
「敵どころか人間全般信用してないけどさ」
「それってどうなの?」
解除を唱えて変身を解く。すぐ傍にエメルキアとランゼッタが元の姿で現れた。女戦士もその様子を見ながら変身を解除する。
「可愛い格好させてるじゃない。少しは言うこと聞いてあげる気になった」
「助かる。あんたと戦うのは俺にもリスクなんだ。避けられるなら避けたい。俺は正輝。マサキ・コーノギって名乗ったほうが呼びやすい?」
「名乗らないのも失礼よね。レクナク・リリーン。さっき言ったとおり、デレキセント教団の自由戦士よ」
奇縁にして、ようやく彼女の名前を知ることになる。叩き潰す相手の名を知りたいと思うほど酔狂ではない。ただし、レクナクの装鎧少女が足にすがって現れる様子を見ると、本当に敵なのか怪しいところ。
正輝は話し合いの余地があると信じて口を開いた。
次回『巡り合いレディ(4)』 「駄目よ、ヒオルシア。あんまり近づくといかがわしいことされちゃう」




