巡り合いレディ(2)
最初に目に入ったのは正輝が愛用していたバイク。売ったので、誰かが乗っていたとしても変ではないのは理解できなくもない。問題は乗っている人物のほうだった。見覚えがあったからだ。
「げ、どっかの街にいた暴力女司祭!」
「あ、謎装鎧戦士男!」
すれ違いざまにお互いを認める。彼は泡を食って停車し、彼女は驚くべき反射神経でスピンターンを決めて車首をこちらに向ける。
「あんた、なにしてくれてんの! 私の可愛い子ちゃんたちを返しなさい!」
「は、なに言ってんだかさっぱりわからないぜ?」
怒鳴り合うも噛み合わない。正輝にしてみれば、教団の刺客の装鎧戦士という認識。彼女からなにかを奪った記憶は微塵もない。
「しらばっくれるんじゃないわよ。決まってるじゃない」
「いや、なにが決まってるんだよ。わけわかんないぜ?」
しばしの沈黙。意見の相違は容易に埋まりそうもない溝を表していた。
「あくまで認めないわけね? だったら力づくで吐かせるまでよ。装着!」
「吐くもなにも、なんのこと言ってんのかまったくなんだが。ビルドイン!」
言っていることは違ってもやっていることは同じである。両者、変身して攻撃と自衛の意を示す。敵対している以上是非もない。そそくさとスタンドを立ててバイクから降りる。その様子さえ、線対称のようで緊張感に欠けた。
「ところで、そのバイクさ」
「なによ。盗人が他人の持ち物にケチ付ける気?」
「いや、俺が乗ってたやつなんだ。ちょっと前に売ったけど、あんたが買った?」
目にも鮮やかな青いボディを持つ装鎧戦士の表情は窺えない。不透明のバイザーゴーグルの向こうの美貌を透かし見るのは無理だが、教会で出会ったときの鮮烈な印象は残っている。
「そうなの? なんだか、私のためにあつらえたような仕掛けが備え付けられてるんだけど、あんたの仕業?」
「仕業って。別に俺が使いやすいように造ってあるだけじゃん」
「使いやすいって。ああ、あんたもあの可愛い子ちゃんを前に乗せてたの? やらしい」
「やらしいってなんだよ!」
謂れのない中傷を受ける。
教団戦士は軽やかな刃鳴りとともにレイピアを抜く。軽くて切断力に劣る、とても正輝のプロテクタを斬り裂けるような獲物には見えないが馬鹿にできない。刃にまとわせた念動力が切れ味を何倍にもしている。実際に、前回の戦いでは幾つも傷を付けられた。
「抱きかかえるように乗る体勢になるじゃない。そんなに密着したいっての?」
「違うわ! 場合によっちゃ結構スピード出すから風圧に投げだされないようにするにはそこしかないだろ?」
「まあ、そうかもしれないわね。このバイク、妙に走るんだもの。本気出したときビビっちゃったわ」
聞く耳持たないほど睨まれているわけではないらしい。兎にも角にも彼を討ち果たすのを使命と信じて食って掛かる姿勢は見えない。なにかの事情を抱いているように感じる。
(そういえば、前もなんか言ってたような。なんだっけ?)
記憶が定かでない。
判断に迷う状況だ。車のランゼッタも逃げだすべきか窺っているも、なんの合図も出せない。おそらく、真っ向勝負だとデュアルビルドが必要になってくる。
「ともあれ、面倒ね。出会っちゃった以上は見過ごすのもあれだし」
相手も迷いが生じている様子。
「急ぎなら引き止めたりする気ないぜ?」
「コドアドネにでも行こうと思い立ったところなのよ。コタカッタはもう先が怪しくて、いても意味ないから」
「どうぞどうぞ」
あえて戦いたい相手ではない。というのも、彼女の装鎧少女の挙動を鮮明に憶えているからだ。
初めて会ったとき、少女はこの美貌の司祭服の影に隠れるようにしていた。安心した瞳で。無理に引き剥がす必要を感じなかったので、あのときも速やかに逃げに転じたのである。
「でもね、あんたが教団の邪魔になってるのも確かなのよ。よければ、降参してくれない?」
「無茶言うじゃん」
(思いだした。前も、どこか他人事みたいな会話したんだった。今も邪魔になってるとは言っても、自分たちのじゃなく教団のという口振り。なんか、一線引いてる。それなのに見過ごせない? なんでだ?)
記憶は繋がったが疑問は残る。
「俺を討てって命令が出てるんじゃないのか?」
カマを掛ける。
「出てる。でも、そんな賭けに乗るほど簡単な相手じゃないのは思い知らせてくれたじゃない。私にとってはリスクしかない。間違ってもヒオルシアを引き離されるようでは堪んないの」
「リスクなら回避すべきじゃね?」
「手柄になるのは間違いないから天秤にかけてるわけ」
重大なワードが出てきた。
「手柄。なるほどな。欲しいのはそれか」
「それ以外になにがあるの。こんな、ずっと続けていられないような仕事。リスクは下げてリターンを大きくが基本だわ」
「若いうちから楽して稼ぐこと覚えると苦労するぜ?」
「余計なお世話」
(なんで噛み合うか理解した。こいつは教義なんぞどうでもいいって思ってる。ただ、手柄を挙げて手に入れたいなにかがあるんだな)
容易に想像がつく。
(つまりは退きどころがある。下世話にいえば損益分岐点があるってわけだ。そこをくすぐるとこの厄介な敵を遠ざけることもできなくはなさそうだ)
正輝は見極めと交渉が必要だと感じた。
次回『巡り合いレディ(3)』 「話には聞いてたけど、あんた、本当に二重装着できるのね?」




