巡り合いレディ(1)
再び西側に出てきていた正輝は、バイクを売ったのちに沿岸部を巡って聞き耳を立てた。やはり、きな臭い情勢が入ってくる。王国の目が彼から逸れるのは歓迎ではあれど、あまり国土が荒れるのは立ちまわりが難しくなってしまう。
「早い段階でいっぺん王都ウダマンを窺っておくべきか」
悩みどころである。
「別に王権をどうこうしようとは思ってないけど、妖精種だけは吐きだしてもらわないと困る。妙にガードが固いじゃん」
「ですが現状、小妖精ならともかく装鎧少女を失うということは亡国とイコールでもありますので」
「やっぱ、そんな感じになる? 結局、他国の勢力を導き入れるのと同じ意味になっちゃうか」
いつまでも皆を妖精種の里暮らしにしておきたくない思惑がある。あそこは安全ではあるが不便でもある。王国を弱体化させ、東側でもいいので一都市だけでも占拠して安定した状況を作りたい。
「規模的には街ぐらいでもいいんだけど街壁がないとな。守りにくい」
いろいろと条件があるので吟味が必要だ。
「正直、私たちに干渉してこないのなら人間がいてもいいと思ってるのよ」
「それは考えもんだぜ、ルーザ。ここの人間は息を吸うように妖精種を虐待するからさ」
「住み分けする仕切りを設ければいいんじゃない? ここからは人間立入禁止みたいにして」
島や里と同じ禁域を都市内に設置する考えは悪くないかもしれない。利便性と住みやすさが確保できる方法だ。しかし、理想論だとも感じている。
「難しいな。かなりの改造が必須になると思う。しっかりと時間を掛ければできなくもないけど、その間に横槍が入るようだと進まないじゃん」
「それよね。整備しようと思ったらマサキ以外も戦えるように、せめて自衛ぐらいはできる状態にしなくちゃね」
「それに関しちゃ考えがなくもない。ただし、そっちも時間は要るから地保固めができてからでないとさ」
常々、エメルキアやティナレルザは味方にできる人間も入れられればと主張している。むしろ難色を示しているのは正輝のほう。どうにも信用できない思いが捨てられない。
(勢力として確立すれば、利用としようとするのも人間ってやつなんだよな)
ずる賢さは飛び抜けている。
それならば別の選択肢を取るべきだと考えている。彼には技術的リードがあるのだ。妖精種というそれを実現する仲間がいる。小さいながらも独立独歩の道はなくもない。人間すべてを駆逐するのは非現実的だ。
「とりあえず、このまま北寄りに進んでみよう」
まだ語れるのは夢だけ。
「様子を窺いながら方法を模索するのが妥当じゃね?」
「ですね。実際のところ、わたしたちはウダマンや王城のことをほとんど知りませんので」
「攻略しようにも見てみないとね。バイクや車もそこそこ増えてきたから潜入もありでしょ」
「慎重かつ大胆にってとこか」
妖精種が苦しんでいるのはコタカッタ王国だけではないのだ。うち、一つだけの攻略に手間取っているようでは先が思いやられる。
(ルキやルーザの言うことももっともなのかもな。人類社会に一人で立ち向かうのは誰から見ても無謀。でも、人材は吟味しないと、危険視する勢力が内側から崩しに来るのを避けられない)
現状、わずかにでも理解を示しているのは戦公ウフルバくらいのもの。それとて、正輝の心情を推し量っているだけで意識に変化があるのではない。もたらすべきは意識改革である。それには大きな力を示して便宜的でも正義を唱え、正当性を見せるしかない。
「潜入は難しくないような気がするんだけどさ」
正輝は見越している。
「安易じゃない?」
「そうでもないはずだぜ? 王都ってのは王国でも一番栄えている都市でもあるんだろ、ルーザ?」
「大概はそうだけど」
誰もウダマンに行ったことがないので一般論。
「そういう都市ほど人間の流入を妨げたがらない。そうしないと、そこに住む人間の需要を満たせないからさ。締め付けると経済がまわらなくなって弱ってく」
「治安が悪くなろうとも?」
「だから、出入りの管理をギルド記章みたいなヌルい手段にしてる。こんな、記名もない代物で身分証明になる考え方が甘い。誰かから盗むも奪うも、なんなら偽造するも可能だろ?」
各種ギルドは国際機関として一定の信用を得ているものの、構造的には脆弱としか見えない。互助組織的な仕組みでふわっと運営されているように感じている。
記章による入出管理上の問題が生じても各ギルドが責任を問われることも少ないのだろう。各王国も、便宜的にそれで良しとしている風潮に思える。つまるところ、警備強化でしか治安は守れないという考えが根底にありそうだ。
「まともに管理する気がないやり方じゃん」
「まあ、そうよね」
立ち寄った街を背にゆったりと進んでいると、背後から聞き慣れた音が響いてくる。あまりに日常に溶け込んでいて、すぐにピンとこないほどの音。しかし、現実には聞こえてこないはずの音だった。
「バイクのパワーユニット?」
「でも、これは」
彼が愛用するバイクの構造は他と違うのでパワーユニットの立てる音もそれなりに違う。なので、聞き慣れているのに聞こえてこないはずなのだ。
「誰?」
「え?」
正輝たちを抜かしていくバイクは当然その音を立てるものだった。
次回『巡り合いレディ(2)』 「だったら力づくで吐かせるまでよ。装着!」




