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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
すれ違いレディ

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機材更新(5)

 正輝にとっては若干のスリルのあるピクニックを終えて妖精種(エルフィン)の里に戻ってきている。家の庭というか傍にはクロスカントリー車とバイクが二台ずつ。


「どうなさいます?」

 オブジェではない。

「クロカン車はあの伐採材を里に運んでくるのに使ってもらえばいいとして」

「バイクですね。カバーかなにか掛けて横に置いておきましょうか」

「いや、寝かさない」

 彼には思いがあった。

「バイクってのは乗ってなんぼのもんなのさ。寝かすくらいなら売る」

「愛着があるんじゃない?」

「あるぜ、ルーザ。だからこそ、誰か乗ってくれるのなら乗ってもらったほうがいい。そういう主義なんだ」


 ライダーの魂ではあるが道具でもある。飾っておくようなものではないのだ。それに機械構造というのは、使わなければ使わないほど急速に劣化してしまう。愛着があるからこそ、そんな末路を味わわせたくないのだ。


「でも、オープンにしたくない構造のパワーユニットだけど?」

 ランゼッタも不安を抱いている。

「どうせ、そのうち広まってしまうような技術さ。もしかしたら、隠そうとしたところで誰かが思いついてしまうかもしれない。後生大事に抱え込むような秘密でもない」

「だったらいいけど」

「それよりもジュラルミンの組成とか、出したところで解析もできないような秘密を抱えてる。そっちでリードを取ってればいいじゃん」


 アルミ一つ取っても、ジノグラフに出まわるにはしばらくのときが必要だろう。さまざまな面で劣らない自信がある。


「バラしてクロカン車に乗せる。今度の遠出でどこかの街で売る」

「わかりました。マサキがそれで納得なら」

「ちょっとくらい吹っかけてやるか」


 少しくらいなら、愛をお金に換算してもいいと思う正輝であった。


   ◇      ◇      ◇


 教団自由戦士レクナク・リリーンは、海を越えて西側諸国に向かうのを断念したところであった。コタカッタ王国の現状は意外にも早く伝わっていて、勢力図を塗り替えようとする動きが耳に入ってくる。

 地政学的に、海運の便があるコタカッタは東側を窺う橋頭堡として利用しやすい。今の戦国時代、飛び地となっても確保したい場所である。


「政治的に荒れてるところに行くと、教団も一枚噛んでたりして利用されたりするのよね、私みたいな自由戦士とか」

「面倒くさいね」

「うん、そんなのにヒオルシアを巻き込みたくないもの。それだったら物理的に荒れそうなコドアドネに行ったほうが難しさはないはずよ」


 人間同士の厄介な陰謀などに関われば、可愛い可愛い彼女の装鎧少女(エルフィン)がどんな扱いを受けるかわからない。蔑んだ目に少女をさらすのも嫌なのだ。それなら、腕一本でどうにかなる動乱の地に足を向けたほうがノンストレスでいられる。

 諸々を鑑みて、北のコドアドネ王国に向かうことにした。そこもすでにコタカッタ王国の内情を察して侵攻の気配を見せている。無論、国内にもさまざまな動きが表れ、応じて教団に否定的な手柄になりそうな人物も炙りだされてくると考えた。


「それなりに沿岸部を楽しんだし、王都ウダマンもすっ飛ばしてコドアドネに行こうかしら。それでいい?」

「ウダマンはいっぱい巡ったもんね」

「未練がなかったら北に向かいましょ。長旅になるけどごめんね」

「レクナクと一緒ならいいよ」


 思わず、ひしと抱きしめる。彼女の装鎧少女(エルフィン)はどこまでも可愛い。走りトカゲの旅は身体の小さい少女の負担が大きいのが懸念点だが、急がねば抑えることもできるだろう。


「それにしても、いいトカゲいないのよね」

「これだけ乱れてるとね」


 前の走りトカゲは寿命が近くて走れなくなってしまった。沿岸部を巡っていいトカゲを探していたのだが見つかっていない。目ぼしい個体は、危機感を抱く王国が買いあげてしまっているらしい。


「揺れないトカゲはいいトカゲ」

「小さい子は揺れちゃうね」

 できるだけ大きめの個体が揺れないからいい。


 なんの気なしにおしゃべりしながら歩いていると、とある機械屋の前に目を剥くようなものが置いてあった。ヒオルシアの手を引いてするすると吸い込まれてしまう。


「ねえねえ、これはどうしたの?」

 腕組みしている店主に尋ねる。

「このバイクか? いやー、旅の細工職人が置いていったんだけどよ、なかなかに吹っかけていきやがったもんで買い手がなかなか」

「え、ちょ、結構良さげなものに見えるけど?」

「物はいい。動かしてみたがとびきりいい。でも、仕入れ値がな」

 そうそう手が出ない価格設定になってしまうと言う。

「幾ら?」

「べっぴんさんにはまけてやりたいが、それでも五万だな。中古でそれは……」

「買った!」


 教団でもバイクを採用する噂はある。しかし、まだまだ噂の域を出るものではない。どうしても技術面では王国や民間に遅れを取る側面がある。武器などの生産には熱心なのに、機械関連を軽視する老人たちが幹部に居座っているからであろう。


「いいのかい?」

「ちょっと長旅する予定なのよ。新型車両まではとても手が出ないけど、このバイクならかなり楽になるでしょ?」

「おう、走りトカゲみたいに揺れないし、メタルライトがあるから夜でも走れるしな。買い得なのは保証する」


 よく見ればシートに余裕があり、しかもヒオルシアが足を掛けられるステップやグリップまで付いている。至れり尽くせりだ。


「なんて理想的な」


 レクナクはとてもいい買い物ができたと感動していた。

次回『巡り合いレディ(1)』 「慎重かつ大胆にってとこか」

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