機材更新(4)
まず成功したのは、器用さに勝るティナレルザとイメージが早かったランゼッタである。植物油から成形物を引っ張りだすと眺めている。それは透明なブロックだった。
「これ、成功?」
「なんか違う。前のバイクのカウルとは似ても似つかないっぽい」
「いやいや、たぶんそうでもないって」
ランゼッタのものが大きいので預かって観察する。見た目はアクリルに似た感じだが、少し違う感触だった。
「ABS樹脂的なものを想像してたんだけど、これ違うな。どっちかっていうと、ポリカーボネートじゃん」
割れないガラスとも呼ばれるプラスチック系素材である。耐衝撃性に優れ、プラ系レンズなどに用いられることが多い。
「傷つきやすいってウイークポイントあるけど、特性としては非常に向いてる」
どうにか利用したい素材である。
「傷つくのがよくない?」
「悪いわけじゃないけど、見た目がな。貧相になってくる」
「じゃ、コーティングしよ。柔らかいアルミのほうがいい」
ランゼッタはポリカーボネートで板を作ると、それにアルミ粉末を流体金属で練ったもので塗り固めていく。テストピースはそのまま地金の銀色のままだが、メタルが混ざっているので好きな色に発色させられるという。
「おー、一発解決か。すごいな、ランゼ」
「えへー」
「見事なもんだ。程よく弾性もある」
アルミコーティングは非常に薄く、ポリカーボネートの弾性を残している。想像以上の出来だった。
「成形しよ。マサキ、イメージ」
「頼む」
皆で手を合わせて共有する。分割成形して溶着し完成品にする工程だ。最終的にランゼッタがコーティングしてできあがる。
バイクのフロント、パワーユニットまわりの風防として取り付け。あとは、後輪まわりにサスペンションの泥除けとして配置もした。構造的にマフラーというのが存在しないので、物足りなさを感じていたあたりに付けるとよりバイクらしさを演出できる。
「あとはライトだな。流体金属球はガラスにしても、レンズはやっぱりポリカーボネートの透明がいい」
如何にもな感じのライトでなく、今回は両目のようにスリットタイプのライトをカウルにはめ込む。一層格好いい形状になってきた。テールライトに赤いガラス球を入れた拡散レンズを付ければ完成である。
「できた! こいつは最高だぜ」
「なかなかに趣味を入れましたね」
「性能的にも2ランクくらい上だ。軽いから速いぜ」
パワーはそのまま、ボディの軽量化に成功している。強度も上がって言うことなしである。愛着もひとしおだ。
「クロカン車と一緒に試乗しよう。テアやトーレス、他に希望者も連れてな」
「明日はピクニックー!」
ロナタルテが一番喜んでいる。
正輝もテンションの上がる一品となった。
◇ ◇ ◇
妖精種の里から川に出て、水深の浅いところを渡って西側連絡路に入る。基本的に森の中を通した道だが、ところによっては少し開けた場所がなくもない。
路肩には道を切り開いたときに出た伐採材が点々としている。薪として利用するもよし、材木とするもよしで放置してある。
「あいにくと晴れたり曇ったりな天気だけど、じっとりはしてない。次の開けたところで昼にしよう」
「わかった」
運転は快適なようでランゼッタに疲れは見えない。存外にスピードが出やすいのか、最初の頃は妙に車間を詰めてきたりもしたが慣れてきたようだ。
「っと、なんだ?」
カーブでスピードを緩めたところで路肩の茂みがざわついている。なにせ森の中、注意すべきは野生動物との接触事故になる。
「猫ですね」
「ネコー」
「こんな森の中に……か?」
正輝は絶句した。
そいつはとても猫と呼べるような獣ではない。体長は1.5mはあろうか。模様のある毛皮を優美に躍動させながらバイクの前を横切ろうとして途中で振り向いた。
「マジですか?」
その目は彼を仕留めるべき獲物か値踏みするようなもの。黄色っぽい白目に浮かぶ黒い瞳は、今は満腹を表しているのかふいと逸らされる。また、のっそりと茂みを割って森へと帰っていった。
「あんなのいるの? いや、いるだろうけど、どこが猫?」
「え、大きい猫じゃないですか。わりと一般的な。どこの森にもいますよ」
「うん、おっきいネコー」
どうやら猫科は細分化されていないらしい。人里にもいる小さな猫と森や草原に生息する大きな猫という分類。可愛らしい猫との遭遇と勘違いした彼は肝を冷やした。
(いや、あれはヒョウとかそういうのだろ!)
どうせ伝わらないとあきらめる。
「とりあえず、彼の昼飯にはなりたくないから戻ったとこで飯にしようか」
「そうです? あの感じだと大丈夫だと思いますけど」
「ルキが言うならそうなんだろうが、俺は猫と戦うのに万が一にも変身したくない」
自然美がすぎて罪悪感がある。ジノグラフの生態系には不必要に干渉したくない。危害を加えられないかぎり共存したかった。
「パムール島にもいた?」
「いましたよ。餌と思って襲ってくるので、わたしが再三に渡って懲らしめたら家の近くには現れなくなりましたね。あの一帯を避けて暮らしていたみたいです」
「ルキさん、百獣の王?」
知らなかった事実に今さらながら寒気がした正輝であった。
次回『機材更新(5)』 「バイクってのは乗ってなんぼのもんなのさ」




