機材更新(2)
頼んであったミョウバン石採取量は十分。以前は織り機の材料にするだけだったので精気の泉近くの物だけで賄えた。そこから川に至るまでの水路に蓄積していた分を掻き集めてもらっていたので山となっている。
「じゃあ、アルミ粉末とニッケル鉄の砂とを混ぜて流体金属で合金化して成形する」
正輝が方法を示すとランゼッタが「おー」と拳を掲げる。
「結局、流体金属を消費してしまうんですね?」
「あ、すみません、ルキさん。できるだけ節約しますので」
「まだ言ってるの? どうせ、大した量持ち歩けないんだから勘弁してあげたら?」
フォローしてくれるピトレスカに感動する。
「この人は経済観念に怪しいところがあるんです。咎めないと際限なく使ってしまうので」
「で、ルキが財布の紐も流体金属の栓も握ってるって? まあ、正輝がそれでいいのなら構わないけど」
「努力します」
危うかった。もし、あのメタルイノシシを狩れていなかったら機材更新は禁じられていたかもしれない。
「さて、気を取り直して」
「マサキ、格好悪い」
ランゼッタにまで詰められる。
流体金属を節約するとなると還元できなくなるので慎重な作業が必要だ。成形は途中からでも修正は効くものの、一定以下の含有率になると成形後にメタルの回収ができなくなる。
仕組みは未だ解明できていないが、そういうルールがあるのであまり失敗できない。ちなみに、あとで流体金属を回収、還元すると成形したパーツはぼろぼろの欠片になってしまう。
(まあ、一度造った技術的ベースがあるから失敗は少ないだろ)
多少の気持ちの余裕はある。
今回は前回の模索を含めて、幾つもの改善点を掲げていた。まずはパワーユニット。これは構造的に変える部分はない。ただ、配置をドライブシートの前、車体のノーズ部分に置く。いわゆるフロントエンジンだ。
そこからバイクで培った無段変速機構を経て、独立懸架した両輪に接続する形にする。なので、通った輪軸というものが存在しない。しかも、接続先は前輪である。
「新たなクロスカントリー車はさまざまなシチュエーションに敵した前輪駆動にする」
高らかに宣言した。
「適したって?」
「荒地踏破性とか登坂性能の高い構造なのさ」
「おー、それはいい」
ランゼッタが手を叩く。
「その分、ちょっと、いやかなり構造は複雑になる。覚悟がいる」
「失敗できないもんね」
「うっ」
胸に刺さるひと言がくる。事前によく話し合って、できるだけ間違いのない部品作りを心がけないといけない。
「だ、大丈夫。どれも一度作ったものの組み換えにすぎない。きっとな」
絶対の自信はない。
「そうか。後輪がそれぞれ独立懸架しただけになるんだったら、積載スペースはとっても広く取れるね」
「今度は後部席も前向きに付けて、ベンチシートで広く取れるようにする。で、ラゲッジスペースはベッドでも置けるような平らにできるぜ」
「流体金属積めなくなったらルキに怒られるよ」
彼は「うっ」と胸を押さえた。
「例え話なだけさ。ほんとにベッドを置くわけじゃない」
「お願いしますね?」
「はい、問題ないです、ルキさん」
シャーシに配置を描いていって、大雑把な図面にする。ランゼッタと話し合いながら進めている傍らでは、ルイゼトネが集中してベアリングを量産してくれていた。車の要となるパーツを教えたとおりに丁寧に仕上げてくれている。
「はー、よく働いた。って、全然進んでないじゃない!」
やってきたティナレルザにツッコまれる。
「頑張ってるのイーゼだけってどうなの?」
「まだ、細かい打ち合わせ段階なんだって。ルーザはなにしてたんだって?」
「ポリエステル糸とかスパンデックス糸を作ってたに決まってるわ。今のところ目ぼしい収入源はそれだけなんだから大量に必要でしょ?」
もっともな指摘をされた。
「ルーザはよく考えてますし、ロナも頑張ってくれてます。マサキも使うことばかり考えないでくださいね。どうせ、この車の設計図は売れないのでしょうから」
「うわ、図星突かれた。確かに性能的リードの維持考えたら売れないけど、それはみんなを守るために必要な措置なんだぜ?」
「わかってますから、イーゼのように丁寧なお仕事、お願いしますね」
こういうときのエメルキアの笑顔は怖い。監視されているうちは迂闊なことができなかった。
「お茶にしない? せっかくトーレスが糖桃から砂糖を作っておいてくれたんだからさ」
買ってきた麦粉もふんだんにある。
「そういえば、畑のほうはどうなのかな?」
「麦はそろそろ収穫できそう。野菜は昨日や今朝のテーブルを見れば説明するまでもないでしょ?」
「うん、なかなか豪勢だった。野草も趣があっていいけど、畑の野菜はまた違う美味しさがあるじゃん」
どうにか話を逸らすのに成功する。
「ええ、皆には好評。わたしたちは川の魚と野菜でだいたい賄えるもの。肉の蓄えはほとんどマサキのためにしてるようなものよ」
「助かる助かる。いやー、ほんと、食も充実してきたよな」
「これからは情勢的に街にも立ち寄りにくくなるかもしれませんので、里にいるうちに堪能しておいてくださいね」
(ルキの当たりが強いな。こぼさないけど、これからは本格的に王国を相手しないといけなくなるから不安に思ってるのかもしれない。フォローしておくか)
正輝は里でもいろいろとやらなくてはならないことが多そうだった。
次回『心と身体の距離(1)』 「別にご機嫌取りをしようってんじゃないぜ」




