西部周遊(4)
レクナク・リリーンが立ち寄った港街は活気に満ち溢れている一般的な場所だった。海産物のみならず、国外の産品なども入ってくるので仕事の分だけ人も多い。
買い物をするにも悪くなく、目玉商品を見つけられることも少なくはないので重宝する。ヒオルシアを装鎧少女と公言しなければ不快な思いをする必要もない。
「面白いもの、あるといいわね」
「変わったもの多いもんね」
逗留すること一週間、食は堪能して興味は外国産品に移っている。一応は教会にも顔を見せたのだが、妖精種がいない以外のトラブルは起こっておらず用はない。
「なにかしら?」
ウインドウに飾られた服に違和感を抱く。
目立ったデザインではない。異国のトレンドが入っているでもない。装飾が多くて上流向けのありふれた服なのだが、なぜか相場の倍の値段が付いている。
レクナクはヒオルシアに着飾らせるのが好きなので、つい目を奪われた。しかし、物のわりに高価にすぎる気がする。ただ、なにかが引っ掛かったのだ。
「ご主人、ウインドウに飾ってあるあれはなに? 外国人向け価格なわけ?」
出てきた店主に尋ねる。
「いえいえ、とんでもない。元は上流向けに作ったんですけど買い手がつかなくて置いてあるだけなんです。もうちょっとデザインに凝るべきだったんでしょうね」
「それ以前の値段じゃない」
「その価値はあるんですよ。なんでしたら触れてみてください」
店主はとにかく売り込みたいらしく熱心に勧めてくる。言われて触れてみると、妙に光沢の強い風合いに見合ったしなやかな肌触りがした。糸の木や獣の毛から作られたものとは一線を画している。
「なるほどねえ。これなら、きちんとトレンドを取り入れるか装飾過多なフォーマル用に仕立てれば売れたかもしれないのに」
微妙な仕立てだった。
「そうなんですよ。ですが、生地そのものはしっかりしていて高級糸で織られたものだってんで売れるかと思って仕入れたんですけどね、失敗してます。如何です?」
「中途半端なのよね。私も流れ者だからあんまり荷物になるものはちょっと。普段着にできるデザインでもない」
「そうですか? お客様ほど美しい方であればお似合いだと思いますけど」
どうにか捌きたい気持ちが垣間見える。
「さすがにこれ着て走りトカゲ乗れって勧められる?」
「いや、それはいささか問題が」
「でしょ? あきらめて」
決してお金には困ってないが、明らかな散財は避けたい。荷物を少なくしたいのも本音である。答えは明白。
「残念ですなあ」
店主も苦笑いする。
「他を当たって。売れるのを祈ってあげるわ。ん? これは?」
「それですか? こいつも売れ残ってるんですよ。さらに高級糸で作られた下着に近いものなんですけど、上流の方々はこういうものに御縁がない。巡り巡って、商業ギルドの職員に押しつけられまして」
「なに、これ」
箱の中に乱雑に放り込まれている下履きのようなもの。怖ろしく柔軟な素材で作られている。軽く引っ張っただけで驚くほど伸びた。確かに上に着けるものではないし、そういうデザインでもない。
「活動的なご職業の方向けの下履きのようなものなんですよ。汗を吸ってもすぐ乾く上質なものなんですが、如何ななんでも価格が価格でして」
店主に値段を聞いて顔をしかめる。
「なにやら、スパッツという下履きと聞いております。仕入れ値が仕入れ値なもんで、これ以上お安くするのも無理なので持て余しておりまして」
「試着させてもらえる?」
「どうぞどうぞ。そちらのお嬢様に合うサイズのものもございますけど?」
「出して」
試着用の小部屋に通されてスパッツを履いてみる。程よい締めつけがあって、歩くにも走るにもとても良い感じだった。
「めちゃよくない?」
「すごくいい。旅するのにもトカゲ乗るのにも楽かも」
ヒオルシアにも好評だった。彼女自身も非常に気に入っている。
「店主、これ買うわ」
曇っていた男の顔がパッと晴れる。
「本当ですか。一ヶ月も寝かせていて扱いに困ってたんです。何着か同じ仕立てにしたものもございますが?」
「全部出して。その値段でいいから」
「毎度ありがとうございます」
結局、二人で三着ずつ購入した。試着室で着けたものはそのまま履いてきている。動きまわるのに非常に快適。確かに汗ばんで張りつく感じもしない。
「とんだ掘出しものだったわね」
「びっくりー」
「そんじょそこらの戦士じゃ手を出しにくい価格設定だったけど、超高級生地製ってのも頷けるわ」
今後の旅行きを考えると散財とは思えない品質だ。履いてみると、薄手の素材なのに光沢が出てくる。肝心なところ以外は表に出しても大丈夫な見栄え。戦闘職の彼女でも、足を出すような可愛いスタイルをしても許せる感じの仕上がりになる。
「いろいろとあるものね。でも、今後は出会えなさそうなのが難点だわ」
「あんまり売れなさそうだもんね」
「値段のわりに用途が限られるんだもの。私たちみたいなお財布に余裕のある女性戦闘職じゃないと欲しがったりしないでしょ」
そういう仕立てのもの。試験的に作ったものなのか、仕上がりにもムラがある。今着けているものなど、縫い目がなくてどうやって仕立てたかもわからない代物だ。
「変な出会いだったわ」
「気持ちいい」
ヒオルシアが満足げなのでレクナクも嬉しくなった。
次回『機材更新(1)』 「皆が一番頼りにして慕っているのはあなた様なのをお忘れなきよう」




