西部周遊(1)
その美女が歩いているのはデレキセント教団のコタカッタ支庁である。司祭服でもなく戦士服でもない普通の装いでいるが、誰も咎めることはない。彼女レクナク・リリーンは教団本庁所属の装鎧戦士だからである。
通路をいけば立ち働く司祭が最も多く、彼女を見れば訝しげな面持ちになるも、胸に付けた記章が本庁所属自由戦士であることを証明する。彼ら彼女らはそれに気づくと道を譲って一礼した。
「閑散としたものね」
「すかすか」
返事をしたのは彼女の装鎧少女である。名は『ヒオルシア』。緑の瞳を持つなかなかに優秀な個体であった。
「ちょっと前まで、館内はともかく外は小妖精がうろうろしてたのに、今じゃ見る影もないんだもの」
「いなくなっちゃったね」
コタカッタ領内では小妖精の枯渇が顕著であった。支庁だけでなく、民間にも数多く見られた個体がまったくいなくなってしまったのである。ゆえに、必要でありながら買いあげる相手もいないという状態なのだ。
普通なら他国の支庁に申しでて譲ってもらうのが筋というのに、コタカッタの大司教は自身の保身のために泣きつくのを避けている。それが情けない現状を作りだしていた。
「王国にはまだ管理個体がそれなりにいるみたいなのに、国王に打診するのさえメンツが大事でできないとはね。あいつ、近く失脚するわ」
「これじゃ、他の教会と話せないもんね」
各地の教会が抱える問題から寄付金の管理状態まで、支庁が司らねばならない事柄は多い。そのすべてがほぼまわっていない状態にある。地方に人を動かしている所為か、妖精種だけでなく司祭も欠員気味であると感じられる。
「これ以上、コタカッタにいてもなにもなさそう。どこか他の国に行こうかしら」
「別にいいよ。あんまり北は寒いから嫌だけど」
「んー、コタカッタは温暖だったものね。北に行くと余計に寒いかもね」
隣国くらいで我慢しておくべきかと思う。身体を慣らしつつ北上するのがいいか、あるいは海路で西に行くか。いろいろと選択肢はある。
「その前にもう少し巡ってからにしようかしら。なんだかごたごたして、あまりゆっくり楽しめなかったし」
「なんにもできなかったし」
「それよね」
教会に持ち込まれたトラブルは幾つか解決した。メタルビースト討伐も三件だか四件だかこなしたが、誇れるような成果とは言えない。
「悔しいのは、あいつを取り逃がしちゃった件よね?」
「チャンスだったかも」
コタカッタ領内を荒らしている謎の装鎧戦士を待ち伏せして捕捉した。しかし、取り押さえようとして失敗した件が痛い。成功していたら大手柄だっただろう。
今はもう教会襲撃は下火になっていて待ち伏せもきかず捕捉は難しい状況。本庁から自由戦士として認められ、各国を巡ることを許されているレクナクであれど、王国を従わせたり情報を要求する権限はない。
「せっかく可愛い子がいっぱいいた教会生活を楽しんでたのに、あいつが全部かっさらっていくし、街の人に身分がバレていられなくなったし」
「のんびりできてたね」
「こうも国内が荒れてたんじゃ、どれがほんとの話なのかも怪しげなものだもの」
聞き耳も通じない。闇雲に国内を捜しまわっても徒労に終わるとなれば遠慮したい。そうでなくとも、もっと早く多くの手柄を挙げねばならないのだ。彼女の目標まではまだ遠い。
「じゃ、南に行って港街あたりで西側の国の情勢に聞き耳立ててみる? 良さげなとこがないか」
「うん、美味しいお魚も食べれるかも」
「そうね。もう少しだけ」
意見が一致した。
レクナクのように自分の装鎧少女と普通に話す装鎧戦士は教団にもいない。特異な目で見られることも少なくはないが、二十四歳の若さで彼女ほどの強さと実績を兼ね備えている者もいない。誰にも有無は言わせない。
「頑張って手柄を挙げたらヒオルシアにもお友達を迎えてあげられるから、今はお魚で我慢してね?」
「無理しなくていいよ。ウチはレクナクが一緒なだけで満足だから」
「あー、もう可愛いんだから。絶対寂しくないようにしてあげる」
「レクナクがもっと装鎧少女が欲しいだけでしょー?」
真理を突いてくる彼女の少女を抱きしめる。
彼女の目標はそれだ。教団内での発言力を高めて、より多くの装鎧少女を身近に置きたいのである。行く行くは多重装着を可能にするのが理想。より大きな力を得て、誰もついてこれない高みで装鎧少女をはべらせていたい。それくらい少女たちを愛でていた。
(こんなにも愛らしい存在は世界のどこにもいない。私がすべての装鎧少女を手にしたらこの世界から醜い争いなんてなくなって可愛い子たちに囲まれて優雅に暮らせるのよ。至高だわ)
それが強権の下に世界を支配することに他ならなくても構わない。ただ、より多くの妖精種を身近において、ずっと愛でていたい。彼女の願望はそれだけで語れるものだ。
「じゃあ、南下しましょ。走りトカゲくんは放置したからご機嫌斜めかしら」
「世話してもらえてるはず」
「あんまり揺れないトカゲ、また探すから我慢してね」
ヒオルシアを鞍の前に座らせて、特注のベルトで腰にまわす。そうしていれば少女は彼女に寄りかかっていればいいし、眠ったとしても振り落とされたりはしない。
レクナクはヒオルシア最優先の旅を続けているのだった。
次回『西部周遊(2)』 「ごめんな、ランゼ。もうちょい我慢して」




