マサキ対ウフルバ(9)
ジョークのやり取りでウフルバは剣のほうが殺傷能力が高いと言ったものの、回転力でいくと打撃のほうが比ではない。なにせ、腕二本足二本を使えるのである。剣士とて足技くらいは使うが、格闘ほどの自由度はない。
「ほんのちょっとの刃に当たらなきゃいいってのはほんとだろ?」
「真理ではあるが、普通は刃を怖れるものだ」
マサキは刃に当たらないを実践する。躱すのはもちろん、剣の腹を叩いて逸らす。あるいは受けるにしても、プロテクタに極めて浅い角度で当てて滑らせる。刃筋を立てられなくては剣は斬れない。
普通にできることではない。装鎧戦士の強化された動体視力と反射神経を用いねば不可能だろう。ただ、彼に関してはそのバフがかなり高いのだと思われる。
(あの装鎧少女の能力も極めて高いのだろう)
バフ性能に個体差があるのは判明している。
(それに今回気づいた推論、装鎧少女の機嫌次第でさらに性能が上がるのを加味すればマサキの強さは証明できる。あれくらい大切にされていればずっと機嫌はいいはずだからな)
結果としてウフルバはマサキと五分の戦いを演じている。二重装着者相手に善戦だといえばそうなのだろう。しかし、幼き頃より戦公として鍛えられ、剣を身体の一部であるかのように育った彼としては、装鎧戦士であっても倒せない相手がいるのが意外だった。
「装着すれば敵なしなどと思ったのは若気の至りか」
「そうでもないんじゃね? あんた、生身でも相当戦えるはずだし」
少し買いかぶりだとも思う。装鎧戦士であるがゆえに、マサキの打撃の一部はあえて受けている。プロテクタがダメージ軽減してくれるからだ。もし、生身であればもっと防御に気を割かないといけないので、今ほど強気な攻めはできない。
「それよりは、どっちかって言うとしがらみのほうに縛られてる気がするぜ? 戦公だから王国に尽くさなきゃいけない。戦公だから何事にも戦士団を率いて当たらなきゃいけない。それがあんたを弱くしてる。もっと自分に素直に生きれば怖くなりそうだ」
「自由にか? 貴殿と手を組みたくば常識を捨てろと言うのだろう。魅惑的な誘いだが、私にも捨てられんものが多いのだ」
「だよな。それが人間ってもんだもんな」
時々肯定が返ってくる。マサキは自分も人間としての縛りがあるとわかったうえで殻を破ろうとしているのだ。多くを捨ててなにかを得ようとしている。本当は彼も人間社会に混じって生きていくほうが楽であるはずなのだ。
(それなのに、妖精種のために人類すべてを敵にするも厭わない、か)
凄まじい覚悟だといえよう。
「ならば、受け取るのみ」
「なんだ? 一人で納得すんなよ」
自身の力で一つの決着を得たいと願った。しかし事実、しがらみが彼の望みを許してはくれなかった。
「さすがに駄目か」
「馬鹿な。なぜだ」
周囲から人の波が押し寄せてくる。ジーギラ戦士団が健在ならば自重もしてくれようが、戦公であるウフルバ一人が戦っている状況を包囲陣の皆が良しとしなかったのだ。支援しようと駆け寄ってきてくれている。しかし、それは余計なお世話だと思えてしまう。
「来るな!」
「っても、無理そうだぜ。こうなりゃ、俺も……」
「よせ。その力で皆を攻撃するのは蹂躙に近い」
「いや、さっさと退かせてもらう。それなりの戦果で我慢するさ。じゃな」
マサキは踵を返すと一目散に去っていく。バイクと車を回収して、またいずことも知れぬ場所にひそむつもりなのだ。今のウフルバは強引にでも追跡できる状態ではない。
「無理をするな。デゼン戦士団と我が戦士団の負傷者の収容を頼みたい」
マサキの背中は遠ざかっていく。答えは得られないまま。次にまみえるのはいつになるだろうか。
ウフルバは定まらぬ思いを抱えたまま、まだ戦うしか道はない。
◇ ◇ ◇
報告を終えたウフルバに御前の臣公会議の沙汰が下る。コージャレ、デゼンの両戦公を援護しきれず失うという失態を問われたのだ。王国の弱体化はいうまでもない。
反逆装鎧戦士討伐からは外され、北の国境周辺へ向かわせられる。体のいい左遷であるとともに、挙兵の動きが危ぶまれるコドアドネ王国への睨みとして使われる。
「申し訳ございません。我らが閣下の足を引っ張るなど言語道断でありますれば」
テノコトは北に向かう道中、反省しきりである。
「構わん。我が戦士団のこと我が責である。マサキが強敵であったのは誰にも否定はできんのだからな。デゼン公は戦死。コージャレ公は装鎧少女剥奪。誰が一人でこれだけのことができようか」
「臣公会議も情状酌量のうえでの処分ということなのでしょう。北の国境がきな臭いのも事実なので、そちらに差し向ける理由にされたのかもしれません。不便を掛けるのはいくら謝っても足りませんでしょうが」
王都ウダマン暮らしに比べれば不便なのは否めない。どうあれ、野営地で補給頼り、もしくは獣を狩っての自給自足となる。
「まあ、いい。私もたまには王城の面倒事から遠ざかって気が休まるというもの」
笑ってみせる。
「それに、コージャレ公の戦公慰留もありがたいご判断だった。これからは武人として後進指導に当たられるそうだったからな」
「実に晴れやかなご様子でしたし」
「荷を下ろしたのだろう。ならば、我らもゆったりと構えていようではないか」
ウフルバ自身も意外と晴れやかな気分だった。
次はエピソード『すれ違いレディ』『西部周遊(1)』 「これ以上、コタカッタにいてもなにもなさそう」




