マサキ対ウフルバ(8)
特に分担はしていないが、右手が利き手の正輝であればどうしても左の剣での防御が7:3くらいになる。威力のあるウフルバの剣は刃先を滑って手元まで来る。以前は作っていなかった鍔が彼の指を切断から守っていた。
(これからは必須だな。対集団戦でも、こういう使い手相手でも油断はできない。特にウフルバみたいなのは、隙あらば切っ先を滑り込まそうとしてくるじゃん)
伸びてきた切っ先を弾かず、手元を右で狙って引かせていた。
戦公はやや右に柄を引いた態勢の構え。そこから突きに来るか薙ぎに変化してくるかは動きだしてみないとわからない。
彼は左半身で突きだした切っ先をわずかに揺らしつつ待つ。左は防御とフェイント、右が基本的に本命というアクションになる。
「手加減なしかよ。とても味方に引き入れようと熱心だったやつのやることじゃないんじゃね?」
剣閃でなく冗談を飛ばす。
「我が戦士団を戦闘不能にした貴殿を相手に手加減などあり得ん。弱らせ、拘束してから話を進める算段は変わっていない」
「強欲じゃん」
「王国の未来を思えばのこと。貴殿相手に疲弊するよりは、譲歩してでも味方として他国への睨みにしたほうがよほどメリットがある」
ウフルバは戦公としてひたすらに純粋なのであろう。無論、王国への忠誠はあるだろうが、その先にあるのは国民の安寧だと感じさせる。でなければ、先の台詞は出てこない。自らの戦果を優先するのみになる。
「その熱心さがちょっとだけでも方向性を変えられりゃ、俺もあんたの味方でいられたかもしれないのにな」
「貴殿の願いは叶えられんのだ。現在のジノグラフの各種インフラ、伝達通信から安全保障まで妖精種の犠牲の上に成り立っている。そこを変えるのは国民に難儀を強いることになる。今さら受け入れてはくれぬ」
「まあ、犠牲と言わせただけで許してやらんこともない。もし、消費とか言いやがったらブチギレもんだぜ?」
戦公の表情がピクリと反応する。思わず口が滑りそうになったのを自制した結果らしい。その程度の感性なのでマサキはもう説得をあきらめているのだ。
「相容れぬなら決するしかあるまいな。貴殿の理念が上まわるか、私の信念が上まわるか、この剣で語ろう」
「口先のほうが得意だからあんたに付き合う義理もないんだけどさ。そっちじゃ納得できないんだろうからしゃーないな」
「言葉の果てに軋轢を残すよりは、はっきりと雌雄を決したほうがのちのちの禍根になるまい?」
ウフルバの振る舞いは武人のそれである。交渉ごとは文人に任せ、武勇を賭けの対象にする。どちらが得をするかは勝負で決めればいいという姿勢。どこまでも王国の剣でいようと思っているのだと感じた。
(変に利益が絡むより突き崩しやすいポイントなのに、こういう手合いは往々にして頑固ときてる。面倒くさ)
(この方は典型みたいな感じですもの)
(基準がシンプルなだけ揺らがないかも)
(もっと柔軟なら生きやすいと思うんだけどさ。いや、この世界じゃこっちのほうが安定するのか)
エメルキアやランゼッタの賛同の意識が伝わってくる。
ウフルバの剣は長剣にしては大振りで、大剣と呼べるほどのサイズはないもの。ジノグラフだと有力戦士は自前の剣を特注で打たせるケースのほうが多いのかもしれない。なので、長剣とか大剣とかの境目は曖昧でも変ではない。
「俺のは禍根じゃすまない。そうとしか生きられない形にひっくり返してやる」
「同意できん。人に多くの苦難を与えるだけだ。それこそが貴殿の気に入らんとこなんだろうがな」
「おう。妖精種の苦難を置き去りにしてるとこが我慢ならないじゃん」
突きのまま来た一撃は正輝の左で火花を散らし、あまつさえ体勢を崩すほどの威力がある。パワーだけで逸らした彼は右の切っ先をひるがえして脇を狙いに行くも、引いた剣にいとも簡単に叩き落された。
「ふっ!」
息を吐く。
「駄目だ駄目だ。あんたクラス相手に俺の剣は全然通用しない。自分の流儀でやらせてもらう」
「消すか。拳では一撃で決まらんぞ? 我が刃は触れただけで貴殿を斬る」
「あのな、その剣の構成面積のうち、刃の部分は数%程度しかないんだぜ? そこを当てるよりは俺の拳のほうが当たりやすいと思わね?」
「詭弁だな」
そのとおりである。当てる修練を積んできたから剣を使うのであって、様になるからではない。剣のほうが殺傷能力が高いのは言うまでもない。
「でもさ、剣は生身でも使えるけど、装鎧戦士の強みを活かすのなら打撃のほうが向いてるんだぜ」
「認める。身体能力バフはそう作用する。ただし、プロテクタを抜けてダメージを与えるのには、魔法をまとわせた剣しか適わぬと歴史が語っているのだ」
「まるで俺が脳筋のパワー馬鹿みたいな言い方すんじゃん。怒るぞ?」
「安い挑発に乗ってくれるなら与しやすいのだがな」
言葉遊びでしかない。
それぞれの向き不向きに合わせてぶつかる。それだけが現在の状況を終わりにする力がある。それはお互いにわかりきっていることなのだ。
(さて、実際にパワー馬鹿の俺がこいつの洗練された剣技にどこまで通用するかだな)
正輝は拳を緩めて、打撃の一瞬に懸ける準備をした。
次回『マサキ対ウフルバ(9)』 「もっと自分に素直に生きれば怖くなりそうだ」




