マサキ対ウフルバ(5)
真っ先に仕掛けてきたのは女戦士シュミク・ジュレスであった。一足飛びに突っ込んでくると、構えた長剣の切っ先が自然と落ちており、そこから跳ねあがってくる。相手のボディばかり気にしていたら、死角から来る攻撃になる。
正輝は左手の剣を滑らせて切っ先を絡めるように受け止めると外へと流す。逆側に半身を泳がせつつ、自然に前に出た右の剣で薙げばがら空きの胴へと忍び込む形になる。
「ひゅう!」
素早いバックステップでオレンジの装鎧は遠ざかる。
「あらら、ちゃんと練れてるじゃない。なにが試しよ」
「しばらく使ってなかったから感触憶えてるか自信なかったんだって」
「ほんとに油断ならないんだから」
入れ替わるように飛び込んできたのはイソポ・ゴルサである。この優男とは以前もまったく絡んでいない。同道していても、正輝にはほぼ興味を持っていなかったように思う。確か、魔法師団の若い娘ばかりにかまけていた記憶がある。
「シュミクに認めさせるとはなかなか」
「彼女の意見なら耳に入れるってか?」
からかってみる。
「当然さ。敬意も愛もあるからね」
「俺の心情を汲んでくれる愛はないのか?」
「なんで男なんかに」
すげない答えが返ってくる。
偏った思考回路をしているようだが腕前のほうは抜群であった。軸足が逆になっているのを即座に見透かすと、躱しにくい角度からの一閃が飛んでくる。避けずに、そのまま踏み抜けると、ほぼ背中に近い位置を剣がかすめる。
火花を残して地面に飛び込み、左手の拳を大地に突いて側転。ボディが浮いたところに追い打ちが来るが、念動力で後ろに跳ねさせて躱した。斬撃を右の剣で打ち払って反動でもう一歩分の間合いを取る。
「ちょっと嘗めてた。こいつは軽々しく攻めていい敵じゃない」
「でしょ? 合わせてきなさいよ」
「仰せのままに、お嬢さん」
それほどの動きを見せる二人の連撃をしのいでいると他を見ている暇がない。静かに移動していたボダハ・タイデンが回避方向にいつの間にか居座っている。エメルキアの警告がなければまともに一撃を食らうところだった。
「ありがとな」
(いいえ、ランゼと二人である程度はフォローできます。存分に)
(見てる)
共有している一部感覚器は少女たちに頼ってもいい。他の装鎧戦士がどんな形で自我を共存させているのかは不確かだが、彼に関しては三人で戦っているようなもの。その点ではリードがあると感じている。
「あれが見えているとは油断なりませんよ? もっと密接な連携を心がけるように」
副官のテノコトが指示出しをしている。全体を把握するのが主な役目らしく、彼自身はあまり仕掛けてこない。ただし、視界から外せば予想外のところからの攻撃がありそうなので意識から外せない。
そこへ、時おりウフルバが踏み込んでくる。彼の剣閃は素早さだけでなく重さも一流であった。ラツッパの斬撃に勝るとも劣らない攻撃力は怖れておかねばならない。常に位置取りを意識する。
「なるほどな。こりゃ、王国最強とか謳われるわけじゃん。付け入る隙がないぜ」
「その我ら全員を相手に、これだけの時間しのぎ切る者はそうもいない。勝手はさせておけんということだぞ、マサキ」
「目こぼしとけよ。あんたたちの敵は俺だけじゃないんじゃね?」
守るべきは多いはず。メタル進化種も直接的な脅威だし、他国も虎視眈々と領土を脅かそうとしてくる。国内に目を向けても賊や他国からの工作も少なくはないだろう。彼だけに注目してはおけないのではなかろうか。
「自ら王国を敵だと抜かしておいて今さらだぞ?」
「っと、失言だったか。かもしれないくらいにしといてくんない?」
「具体的に貴殿は危険視されている。陛下のお耳に入ったのが運の尽きだ」
勅命が下っていたらしい。ならば、正輝にこだわるのも仕方あるまい。少々派手にやりすぎたかと思う。王国軍に関しては、降りかかる火の粉を払う程度の認識だったが、きれいさっぱり消火したのがいけなかったか。
「じゃあ、戦士団二つ失っても引くに引けないってな。まいった」
「結果を求められている」
「ウフルバたちを退けたとなりゃ、身動き取りにくくなりそうなんで遠慮したかったんだけど駄目?」
カマ掛けをしてみるが、相手はここが勝負と思っているらしい。彼が捕捉しにくくなっているのも原因か。眼の前にいるうちに、無理してでも方をつけたいと考えても変ではない。
「全滅させるくらいの気概でなければ切り抜けられんぞ?」
「そっかあ。出し渋ってる余裕はないってんじゃ、この先厳しいな。やれるとこまでやるっきゃないか」
「本気で来い」
シュミクの飛び込みを弾き返し、忍び寄るイソポの攻撃を受け流す。隙を狙うボダハへ牽制の視線を送ったところで最後のモーションに出た。なにもない空間に剣を振るったか思えただろう。
「エクステンド」
伸長した剣身が離れた位置から指揮をしているテノコトの脇を狙う。咄嗟に跳ねさせた長剣で受け止めているが、長身の男が数mも真横に飛ばされていた。
「なんだと?」
「冗談でしょ!」
間合いというものを無意味にした彼の攻撃に戦士団メンバーは一斉に飛び退る。同じことをされては敵わないと思っただろう。
(そうそう、不用意に近づいてくんな。そうすりゃ連携は取りづらくなるだろ?)
正輝は連携分断の一手をくり出した。
次回『マサキ対ウフルバ(6)』 「敵のあんたに言われる筋合いはないわよ!」




