マサキ対ウフルバ(1)
とうとう包囲陣の体をなさなくなってきた。伝令が来るたびに地図上の配置は修正を余儀なくされ、輪は歪になり果てる。厚みも失い、完全に隙だらけの体たらくになってしまっている。
「このままではいつ抜けだしているかも把握できません。もっと伝令を密にさせて立て直さねば」
シュラウナが言い募ってくる。
「駄目だ。これ以上走らせれば戦士たちがもたん。疲弊して警護も難しくなれば、魔法師団は動きを渋るようになる」
「我が身可愛さでしょう? 戦公ウフルバの命に従えないようなら処罰すると言えば動きます」
「それではろくに機能すまい。あれらにも守りたいものがある」
自身とか生活とか。
「王国以外というのならば、国庫から禄を食む価値もありません。王国軍に属していたいなら任務に命を懸けるのが当然でありましょう?」
「皆がそうとまでは考えられぬ。汲み取って動かすのも将の役目だ。憶えておけ」
「志が足らんのです」
言い聞かせてもデゼン公は憤慨の度を深めるだけ。失策続きなのが精神を追い詰めているのだと思われる。
(まだ、マサキと衝突しているほうが状態的にマシか。十分に狭まってはいないが、こちらから打って出るのもありかもしれんな)
できるだけ万全の状態で当たりたかった。索敵しながらとなると多少は消耗する。しかし、精神を削られるのは今も同じであるならば動いていたほうがガス抜きになるかもしれない。
「では、出撃準備……」
「あれは? 確認! 小妖精が偵察に来てます!」
シュラウナの戦士団の一人が警告を発する。
「見つけたか! 逃がすな、追え! 敵のところに案内してくれる!」
「了解!」
「待て、デゼン公。向こうのペースに合わせるな」
止めるも、シュラウナ以下の戦士団はバイクにまたがって走っていく。分断させられるわけにもいかず、ウフルバも配下の戦士団に出撃指示を出さざるを得ない。
「デゼン戦公のおっしゃるのも本当では?」
テノコトが尋ねてくる。
「かもしれんが、罠かもしれん。見つけたのでなく、見せられたのだとすればどうなる?」
「待ち伏せですか。だとすれば危険です。追いつかねば」
「それも厳しい。あまり急がせるな」
混乱した状態でアンブッシュを受ければ一気に分散させられるかもしれない。マサキの思うツボ。彼の戦士団だけでも統制の取れた状態でなければ勝負は最初から決まったようなものである。
「わかっているな?」
「はい、我ら戦士団で集中攻撃してマサキを消耗させるのですね。弱らせたところで閣下が仕掛けると。ですが、本当に捕らえるおつもりなのですか?」
「可能ならばな。研究者はあれを欲しているし、私もまだ説得に意味がないとは思っていない」
まだ、マサキに王国戦士団の威力を見せつけられていない。いつも、いいように撹乱されて始末されているのだ。ここで、連携の取れた本来の力で圧倒して見せれば、王国の組織力を外から切り崩すのは無理だと思わせられる可能性がある。
「き、来た!?」
「なに? 偵察ではなかったのか! 総員、装着!」
まるで、空を飛んできたのではないかという前転大ジャンプで彼らの前に降り立つマサキ。当然、すでに装着済みである。大柄のボディは二重装着だからか。
敵情偵察からの攻撃だと思い込んでいたシュラウナと彼の戦士団は対処に遅れる。ただし、マサキの着地点まで距離があり、装着するに十分な時間が取れていた。
(奇襲になってない。直前に飛び込めばいいものを)
不審に思う。
(いや、当然か。彼ならば同乗している装鎧少女を直接攻撃するわけがない。装着して、ダメージも装着者が負う状態にならねば攻撃できないのか。装鎧少女を剥ぎ取るという目的からも外れる)
その行動原理から解明できる。ならば、小妖精を飛ばして追わせたのはなぜか。戦士の集団を引き伸ばすために他なるまいと感じた。
「デゼン公、仕掛けるな! 合流して立て直せ!」
「なぜです! もう目前なのですよ!」
乗車したまま抜剣して斬り掛かるデゼン戦士団。バイクのステップに立ちあがり戦闘態勢になる。しかし、斬撃を躱され前輪を軽く蹴られただけで見事なほどに転倒する。
「わかれ! バイクの特性はマサキのほうが熟知している!」
「それで!」
すでに後の祭りである。シュラウナの戦士団七名はすべて転倒させられ、地面に突っ込んでいるものばかり。当の戦公もバイクを降りられる距離にない。
「ならば!」
シュラウナはバイクのみをマサキに向けて突っ込ませる。戦法としては悪くない。ただし、彼ならばそんな方法も十分に予想できている。
若き戦公が跳びあがったと同時にマサキもダッシュからのジャンプをしていた。空中で前転からのキック姿勢に入り、着地と同時に斬り掛かるつもりだったシュラウナを蹴り飛ばしてしまう。
「がはぁ!」
幸いしたのは、すべてが空中で行われたこと。シュラウナが大地に踏ん張っていたり、マサキが軸足を地面に置いていたりしたら、この一撃だけで戦闘不能にされていた可能性もある。
「デゼン公?」
「げほっ! うぐっ!」
咳き込みながらも立ちあがるシュラウナを助け起こす。事前に戒めていた彼の戦士団が半円状に並んでいたためマサキも不用意に仕掛けられない。
「総員、装着」
ウフルバとジーギラ戦士団は整った態勢でマサキと対峙することに成功した。
次回『マサキ対ウフルバ(2)』 「よくわかってんじゃん。やりにくいぜ」




