破綻する包囲陣(3)
「飛んでけー!」
小妖精たちが喝采している。
変身した正輝は彼女たちの誘導のまま、移動しては巨大土錐を放ってまわっている。ダメージと混乱、そして離反が目的である。この作戦は、ギルド戦士の存在を見破ったティナレルザによって提案されたもの。
「戻ってこーい」
わらわらと小妖精が帰ってきてカラフルなボディに張り付いてくる。
「ごほうびごほうび」
「こら、ずっと吸い放題にしてもらってるでしょ!」
「咎めてやるな、ルーザ。どんな感じ?」
彼女には状況確認をしてもらっている。
「やっぱりギルドの戦士はいなくなってる。少数の王国戦士と車の魔法師団で包囲を狭めようとしているわ。無茶するものよ」
「それ以外にないってとこなんだろ。こっちはできるだけ見つからないよう動きまわればいい」
「これ以上、ダメージが必要? 戦公をおびき寄せる効果を除けば、いつでも突破できそうなものだけど」
「いや、王国の連中には十分に恐怖を味わってもらっとく。噂になって、今回以降にも効果を発揮するようにな」
深い思惑を明かすと、ティナレルザは呆れたというジェスチャーをする。ロナタルテは「ズル賢ーい」と褒めているのか貶しているのかわからない賛辞を送ってきた。
「いいけど、ジーギラ戦公たちと対戦するまでにそんなに消耗して大丈夫? この状態だと、マサキはバイクに乗って車も動かして移動してるのに」
「そんなに疲れないぞ。みんなのお陰でのんびりと狙いを定めるだけだからさ」
白兵戦をするより全然マシだ。
「ほんと、底なしなんだから。お腹減っても知らない」
「今朝もたっぷり食べたろ? 昼まではもつはず。もつかな?」
「ほら」
(あはははは)
エメルキアとランゼッタが笑っている意識が伝わってくる。バイクにまたがり直すと、フィギアサイズの仲間に車に戻るよう言い聞かせる。
正輝は次の地点までティナレルザの先導に従って移動した。
◇ ◇ ◇
ウフルバの下へ報告は来るものの、それは攻撃を受けてから数分以上の遅れ、遠い地点では十分以上遅れてから到達している。そして、与えた命令が付近の包囲の魔法師団に伝わるまで同じだけの時間が掛かる。
(これではまともな作戦行動などできない)
当初からマサキとの接触に利用するつもりではあった。そのために小妖精を渡すのは致し方のないこととして考えて。しかし、こうも簡単に全数があちらになびいてしまうとは想定していなかったのだ。
(マサキの受け入れキャパシティを飽和させるだけの数を揃えてきたつもりだったが。まさか、吸い取られてしまうとは)
今や彼の動向は見えず、味方に声は届かずの状態。
(あの男が小妖精を飢えさせたまま放置はしない目算なのに、それが成り立たない? 戦闘に必要な精気まで使い果たしたから包囲陣を直接攻撃している。いや、魔法攻撃をしてきているのだ。そうではない)
まるで、マサキのところには精気が湧く泉でも備えられているかのように感じる。そうでなくば辻褄の合わないことが起こっている。
「損傷した車は放棄。無事な魔法師は他に分乗して包囲を狭める行動に移れ」
命令を与えて伝令の戦士を帰す。本来、そういう使い方をする者ではない。交代で走っているようだが、騎乗する走りトカゲも消耗してきている。このままでは前進もままならなくなってしまいそうだ。
「苦戦していらっしゃるのね」
「コージャレ戦公」
彼のところにやってきたのは女性戦公だった。
「そう呼んでもらえるのもウダマンに帰り着くまで。御前に上がったら解任されてただの人ですわ。もしかしたら一介の戦士としてならまだ使っていただけるかもしれませんけど」
「そうは思わん。貴公ほど王国への貢献度の高い戦士を放逐するなど」
「装鎧戦士は剥がされたらそれまで。貴公もそれはよくわかっていらっしゃるでしょう?」
同じ装鎧戦士であるからこそ。
「失脚は間違いないですわ」
「しかし」
「案外と悔いはなくてよ。最後にあれほどの戦士と刃を交えて敗れたんですもの。まあ、彼に刃さえ使わせられなかったのですけど」
妙にさっぱりとした面持ちである。意外に思えたがすぐに思いなおした。コージャレ公は純粋たる武人なのだ。勝敗が将来を左右する世界に身を置くことを良しとしている。まさか、戦場で死すのが良しとまでは思っていないようだが。
「ジーギラ公、あなたが彼になぜこだわったか得心しましたわ」
笑顔で告げてくる。
「本気で戦うだけに値する男。口ではなんだかんだと言っても、気持ちはいつも前を向いていると感じました。情熱と、それを裏付けするだけの実力。備え持っているからこそ見えているものが違う。ええ、もしかしたら似ているのかもしれませんわね、貴公と」
「コージャレ公にそこまで買ってもらえているとは思ってもいなかった」
「あら、わたくし、王国の未来を担うのは貴公だとずっと思ってましたのよ。戦公を統べる地位に上がったとき、コタカッタは躍進のときを迎えるのではないかと」
褒められているのに胸に刺さる。
「仮に公の期待に添える能力があろうとも今はこれだ。私がマサキを一時的にでも軽視したためにこの事態になっている。取り返しがつかない」
「まだ取り返せないとは限らないでしょう?」
「うむ、雌雄を決することでしかな。ここは任せて、貴公は王都で休養してくれ」
ウフルバはラツッパを労ってから、もう一度気合いを入れなおした。
次回『マサキ対ウフルバ(1)』 「確認! 小妖精が偵察に来てます!」




