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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ウフルバ包囲陣

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破綻する包囲陣(1)

 号泣するコージャレ戦士団のリーダーを前にウフルバは愕然としていた。仮にマサキが退けることはあれど、戦公ラツッパが討ち取られることなどないと思っていたのだ。


「ターゲットと接触してか?」

「はい、お見事な戦いぶりでしたが虚しくも」

 嗚咽しつつもどうにか報告する。


 戦公ラツッパ・コージャレは、今は車で寝かされている。回復時に消費された体力が多かったためではあるが命に別状はない。


「陣の者には、接敵した団があれば援護するよう命じてあったはずだが」

「件の装鎧戦士(エルフィンアーマー)の魔法で粉砕されて追い散らされてしまいました。それ以降は、私たち戦士団で対抗するしかなく……」

「まったく歯が立たないとは。これでは包囲陣など無意味ではないか」

「索敵程度にしか効果はないものと思われます」

 最後は副官のテノコト・ヴァナクが引き取る。


 リーダーには下がって主の看病を見るよう伝えた。彼女はもう今回の作戦では使い物になるまい。団員が移動できるくらいに回復したら王都へ帰還するよう差配する。


「あのコージャレ公が敗れるとは思ってもおりませんでした」

「私とて同じこと。すべてが狂ってしまっている」

「これでデゼン公とかの方の戦士団とで作戦を続行するしかございません」

「言うまでもない。が、余裕はなくなった。マサキは想定したより強敵に化けてしまっている」


 ウフルバは立て直しを図らねばならなくなっていた。


   ◇      ◇      ◇


 くつくつと煮えてきた鍋から正輝は目が離せなくなっている。空腹が限界に来ていた。多重変身のバフ効果はありがたいものの、いかんせん消費も激しい。それは彼の空腹という形で表れる。


「もう、いいよな?」

「はい、平パンも温まりましたよ」


 受け取るのもそこそこに、鍋の中身を器に掬い取ってふーふーと息を吹きかける。音を立ててすすると出汁の旨味が口いっぱいに広がったあ。スープに含まれる滋養分がまるで一気に全身を駆け巡るようだ。


「美味い。ヤバい」

「たっぷり召しあがってください。大変でしたから」

「強かったもんねー」


 途中から心配になったロナタルテとティナレルザも高い位置から様子を窺っていたようだ。グロウダウンした小妖精(リトルエルフィン)を車に誘導しながら、固唾を飲んで観戦していたという。


「これ、正解だったな」

「はい、煙がほとんど出ないのがこういうときに便利です」

「売り物になりそうだけど、燃料のほうの供給がな。妖精種(エルフィン)にしか作れないとなると貴重品でしかない」


 鍋を掛けてあるのは、実はコンロである。安定した火力を供給してくれるうえに、木を焚べる竈のように煙を出さない。ただし、使っている燃料が特殊すぎて自分たちで使うのがどうにかという代物なのだ。


「植物油化繊の残りがこんなふうにつかえるとは」

「びっくりしたよな」


 今はもう小妖精たちでも作れるようになった化学繊維糸。それを取りだしたあとの植物油の残りの匂いを嗅いだときに正輝は驚いた。それは、ガソリンとか灯油に近い刺激臭を放っている。実験がてら、恐る恐る火を点けると黄色に近い高温の炎を上げた。

 利用できると思った彼は、毛細管現象を用いた火口を作ってコンロにする。下に燃料プールを設けて自動で吸いあげるような構造にした調理器具は便利な道具になった。


「このくらいの燃焼効率じゃないとマズかったけど」

 ガソリンほど燃えたら爆発の危険がある。

「料理用には程よいです」

「いい煮え具合ー」

「みんなも食べろよ」


 流体金属(メタル)を容器に張れば、小妖精(リトルエルフィン)はめいめいに自分用の器を作る。ティナレルザが柄杓も作って鍋から器によそってやっていた。


「すごく美味しい。あったかい」

「いくらでも飲めるー」

「飛べなくなるほど飲んでもいいぜ」


 当面は消耗しているコージャレ戦士団の装鎧少女(エルフィン)だった子たちを胡座の中に座らせて補給中。その中には、ルブルトレと呼ばれたラツッパの装鎧少女だった子もいた。少し寂しそうにしているのが気になる。


「そんなに悪くない相手だった?」

「うん、他の子みたいにあんまりひどい仕打ちされた記憶ない。でも、あの方は剣のほうを大事にしてた」

「それが、ちょっと寂しかったか」


 思わず逃げだしてしまったが、多少なり後悔がある様子だ。あの場では責めてしまったが、ラツッパもそう悪い人間ではなかったのかもしれない。

 強いていえば、妖精種(エルフィン)にとって良くない存在なだけで、すべての人間が悪人なのではない。単純に常識が邪魔をしているのであって、彼らの本質が悪ではない。逆に、シンプルなだけ難しい乖離があるだけである。


「でも、もう寂しい思いをすることはないからさ。ちょっとした未練は日常の中に溶け消えていくって」

「そうだと思う。それも寂しいかなって思って」

 感傷に捕らわれているようだ。

「複雑だな。俺にできることがあれば言ってくれ」

「マサキは噂どおりの人間なのね?」

「わりと広まってる感じだな。束縛と誤解を解いていけば、妖精種(エルフィン)の生活も作っていけるはず。今みたいに隠れ住んでいなくてもいいように頑張ってみるさ」


(装着者と装鎧少女(エルフィン)の関係もいろいろな形があるみたいだな。切り離すだけが正解じゃないって)


 正輝はどうするのが正しいのか考える必要があると思った。

次回『破綻する包囲陣(2)』 「俺たちは小妖精とは違うんですぜ?」

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