ラツッパの歓喜(7)
剣にその身を捧げたが如き女傑でも迷いはあるようだ。それだけに、ともいえなくもない。
「装鎧戦士の呪縛とはなんですの?」
大剣を振りかぶりつつ正輝に訊いてくる。
「言っても詮ないことさ。もしかしたらと問い掛けてみた相手も少なくないのに、すべて同じ答えだった。ジノグラフの人間はそこから逃れられない」
「下賤のものと同一視しないでいただきたいわ。自慢ではありませんが、わたくし、剣と好敵手以外に我欲がありませんのよ?」
「それでもだ。地位もなにも関係ない」
そんな会話さえ無為に感じる。
「余計に気になるではありませんの」
「だったら、あんたは自分の装鎧少女の声が聞こえているか?」
「装鎧少女の声?」
完璧に突拍子もないことを言われたときの反応だ。やはり、彼女もその他大勢と同じなのである。
「まさか戦具と会話を試みれば、剣を研ぐのと同じ効果がありますの? でしたら、喜んでご機嫌を取らなくはありませんが」
明らかにズレている。
「それが二重装着者への道になりますの?」
「ある意味正解で、ある意味大ハズレだ。あんたには素質以前に資格がない」
「心外ですわ。きちんと教えてくださらないとわからないではありませんか」
横薙ぎの一閃をショートアッパーで跳ねあげる。パンチのエネルギーを効率的に伝える方法が身に付きつつあった。
「王国に平気で身を置いている時点で合格ラインに手が届かない」
暗喩にしかならない。
「資格を得るためには王国を敵にまわすほどの気概が必要だとでも? それで貴殿はこんな無茶なことをしてらっしゃると?」
「的はずれなんだよ。呪縛から解き放たれたとき、あんたは絶対に王国の在り方を肯定できない。そこにいることさえ、身の毛のよだつような行いだと知るんじゃね?」
「まったく理解できませんことよ。ほとんど世迷言にしか聞こえませんわ」
斬線から身を逃しつつ言う。
「いいこと言うじゃん。そのとおり、俺の言ってることはあんたにとっちゃ世迷言の最たるものなんだよ」
「誤魔化しで逃げないでくださる?」
「なに一つ誤魔化してなんかない。それが俺とあんたの一番の相違で、もしかしたら多重装着者の秘密ってのに繋がってるのかもしれないぜ。知らんけど」
誰にもわからない。おそらくゼアネルヒでさえ、人間と妖精種の関係性がどのような効果を生みだすか正確なところは解き明かしていなかったのかもしれない。ただ、彼女は正輝にエメルキアとこの世界を託して逝ってしまった。その意味も語らずに。
「いいですわ。こうなったら、貴殿を捕らえて嫌でも口を割らせて差しあげます」
そのほうが好都合だと言わんばかりだ。
「勝手にしろ。でもな、死ぬほど拷問しても俺の言ってることをあんたは正確に理解はできないままだと思うぜ」
「不気味な男だこと。ウフルバはよくも貴殿にこだわるものね」
「そういう意味じゃ、あんたよりあいつのほうが正解に近いのかもな」
彼の行動になにかを見出しているという意味になる。
「悔しいですわ。あの男まで問い質さねばなりませんの?」
「やめとけ。あいつが本質に近づいたとき、王国は内部崩壊するかもしんないぜ」
「それほどまでの秘密……?」
二人がステップを刻みながら激突するたびにオレンジの火花が散る。それだけのダメージを与えてもラツッパの大剣は折れたり砕けたりする気配もない。それだけの銘品なのだろう。同じ愛情を、戦うパートナーに捧げられれば事情は変わったのかもしれないのに。
「長生きしてみろ。俺が作ろうとしてる未来に触れたら正解は転がってる」
それくらいしか伝えられない。
「二人して長生きする未来など、わたくしの敗北しかあり得ないではありませんの。その自信、叩き潰して欲しいものを奪ってみせますわ」
「怖い人だなあ。装鎧戦士なんて仕組みが女性の地位を上げるとは皮肉なもんだ」
「感謝しておりますのよ。もし、装鎧戦士でなかったら絶対に男性には勝てませんもの」
体力筋力という壁はどうしようもない。それは彼女も実感しているのは間違いない。見えない壁を打ち破れたファクターがなんなのか。そこに思い至れないのが不幸である。
「デレキセント教団の功罪か」
(間違いないです)
(でも、それだけじゃなくなっちゃってる)
教団を撃滅しても世界は変わるまい。定着した常識はあまりに不寛容であるがゆえに。
「なんですの?」
「ヒントさ」
「焦れったい男!」
大胆に振りかぶった一撃が振りおろされる。オーバーアクションを当然躱す。それまでなら、切っ先が地面を噛んだあたりで止められたものが、一切の躊躇なく振り抜かれた。
地面が爆発したかの如く弾ける。普通なら大きすぎるモーションは隙を作る以外のなにものでもないのに、彼はそれに足を取られて転んだ。それがラツッパの狙いだったのだ。
「勝負あり!」
「やられるか!」
大剣を逆手に持ち替えた女傑が地面から引き抜き突き刺してくる。避けるのをやめて迎え撃った。肘を大地に打ち付け、下半身だけ跳ねさせて胸の真ん中にカウンターのキックを見舞う。
「がふっ!」
宙に浮いたラツッパを跳ね起きて迎撃する。
「はあぁあー!」
渾身のパンチが砕けたブレストをさらに破壊し、生身部分にもヒットした。当然、致死レベルのダメージになる。
「そ……、な……」
「俺の勝ちだな」
「ああ、ルブルトレ、わたくしから離れていかないで」
願い虚しく装鎧少女は小妖精にグロウダウン。仮面に張り付いてきた彼女を受け止める。
「惜しかったな」
正輝は気を失った戦公に別れの言葉を送った。
次回『破綻する包囲陣(1)』 「あのコージャレ公が敗れるとは思ってもおりませんでした」




