ラツッパの歓喜(6)
攻撃を受けた者はそれを剛剣と呼ぶだろう。そして、コントロールの正確さを理解できないまま散っていく。
変化は少なく直線的である。しかし、緻密に狙いを定められた一閃は、まともに受けに行けば打ち崩して身を斬りに来る。
(こりゃ、これまでにいなかったタイプだ。触れる機会はなかったし、試合相手になるような経験はなかったけど、道を極めた人間ってのはこんな感じになるのか)
正輝は舌を巻く。
実際にガードを弾かれて装鎧を削られた。咄嗟に反応できたので浅くに留められたが、そうでなければ重症という一撃を当てられている。
「貴殿、装鎧を復元できますの?」
バイザーの向こうから問い掛けられる。
「できる。俺はそんなに消耗してる感覚はないけど結構な荒業らしいぜ」
「多重装着可能なほどの自我強度を備えたうえで? 難敵だこと。それとも、多重装着の秘密も復元と絡んでくるのかしら?」
「さあね。俺をここで見逃して研究すれば、その秘密とやらに近づけるかもしれないって考えてみればいいんじゃね?」
無理してまで、今決着しなくてはいけない相手ではない。包囲網とウフルバたちの増援を気にしつつ勝負を急げば足元を掬われる気がする。半ば本気の誘いだったのに嘲笑われた。
「こんな猛々しいだけの女でも王国にとっては重要な戦力として取り立てていただいているのですもの。果たすべき義理はあるのです」
律儀な性格もしている。
「それより、光る剣とやらは出さないのかしら」
「あのな、あんたみたいな本格派を前に付け焼き刃みたいな剣術を披露したところで枷になるだけじゃん」
「それがわかるだけの勝負勘が貴殿を最も怖い敵にしているのよ」
一撃がさらに速度と精度を上げてくる。ただし、鬼気迫るという感じではない。ラツッパの場合、歓喜を力に変えているような感触まであった。
「わかるかしら。心から嬉しいのよ? こんな勝負ができるなんて剣士として戦士として、なかなかに出会えないシチュエーションなんですもの」
声まで踊っている。
「俺は楽しくないんだけど?」
「そうおっしゃらずに。わたくしとの逢瀬を楽しんでくださいな」
「あんたは旦那を口説くときもこんな過激なデートをしたのかよ」
落ちてくる刃はミリ単位のコントロールをされている。今の体勢、腕の位置、足の位置から不用意にガードをしにいくと弾き飛ばされ斬られる。
太刀筋をズラさねばいけないのだが、それも容易ではない。必殺の斬撃はリストもしっかりと効いていて、少々の力では逸らせられない。正輝は仕方なく歩幅と重心を微妙に動かすことで対応していた。
「わたくしの動きだしから、斬撃が当たるまでに修正するそのセンス。装鎧戦士の能力だけでは補えないものだわ」
言いながらも必殺の一閃が飛んでくる。
「動体視力や反射神経にもバフ掛かってるじゃん。それがなけりゃ、俺にもできない芸当だって」
「認知できたところで、なにをすれば致命傷を防げるのか瞬時に判断できるセンスが重要なんですわよ?」
「褒め殺しか? なにを言われてもあんたの下には入らないぜ」
勧誘されている気分だ。
「まさか。敵でいてくれるからこそ本気の勝負ができるのですわ。その立ち位置を変えないでくださる?」
「味方でも実力が足りなきゃ容赦なく斬られそうな気がしなくもないんだけどさ」
「そうですわね、王国の足を引っ張るだけの戦士であれば単なる害悪。斬ったことがなくもないかしら」
怖ろしいことを言う。鍛錬の先にある頂を常に目指していなければ認めてもらえないような同僚を持ちたくはない。しんどいだけだ。
「鍛えるのは自分の夢に懸けるためであって、誰かに認めてほしいからじゃないってわかってくれよ」
つい、そんな言葉で返してしまう。
「それをわたくしの配下にも教えてくださらないこと? とっても大事なことなの」
「無茶言うな。ずっと自分を戒めつづけるのは厳しいじゃん。ちょっとでも油断すれば脱落する競争社会に身を投じていないかぎりはね」
「王国戦士という肩書はそれを求めるものだわ」
「大概の人間はその肩書を得ることが終着点になってるんじゃね?」
彼女は求道者なのだ。道を極めることこそが最重要課題であって、肩書や名誉、ましてや富など二の次なのである。そんな人間だからこそ高みともいえる肩書を得られているという皮肉にすぎない。
「この戦いを歴史に刻むことで教示となるならばそれもよいですわ」
やることなすことはとても立派なのだ。
「そんなあんたでも装鎧戦士の呪縛からは逃れられないのか」
「装鎧戦士の呪縛?」
「自ら進むんじゃなく、誰かを踏み台にしてるって自覚が持てない時点で間違ってるのさ。それじゃ、俺は絶対に負けてやるわけにいかないんだって」
ラツッパの気概に押されている場合ではない。気迫がみなぎる。神経を走る信号さえ加速するバフが掛かっている感覚になった。
迫る刃の光の反射の変化まで見極められる感覚が呼び覚まされる。掌底で剣の腹を叩き、一瞬で引く。ストロークの運動エネルギーほぼ全てをその一撃に込めるのだ。
「弾いた?」
剣閃は大きく逸れている。
「あんたは敵も成長させてしまう。それも期待してるのならなにも言わないけどさ」
「それこそ至高。最高の褒め言葉だわ」
「だから、喜ぶなって」
性格面は手に負えないと思う正輝だった。
次回『ラツッパの歓喜(7)』 「あんたは自分の装鎧少女の声が聞こえているか?」




