ラツッパの歓喜(5)
それまでも援護にまわった一人の装鎧戦士が格闘の最中も地味に圧縮空気の塊をぶつけてきていた。牽制のつもりなのだろうが、ダメージにならないのはもちろん崩されることもなかったので正輝は無視していた。
「うわお!」
しかし、絡みついてきた戦士が一斉に飛び退いたかと思うと、土錐の大量集中攻撃が降ってきたのでは無視もできない。一部は腕で払って粉砕し、サイコブラストを放って弾き散らした。
「こりゃ堪らん。あっちから片付けないと駄目じゃん」
(鬱陶しいですものね)
(轢き潰す?)
「ランゼさん、過激。でも、悪くないか」
正輝は装鎧戦士たちが戻ってくる前にダッシュ。即座に最高速まで加速する。
「逃さない。魔法師団がやられてしまうわよ?」
「ですが、このスピード、追いつけません」
「仕方ないですわね。自衛するでしょう。って、本気ですの!?」
彼は体勢を低くして腕を垂らす。指先が大地をこするに任せ、そこに土を固めていった。走るほどに溜まっていった土の塊は徐々に形をなしていく。最初は剣身の如き体をなし、さらに成長して全長が5mほどまでに持っていく。
「ソイルブレード・メガ」
腕を振って放つと、その巨影におののいていた護衛戦士たちが一斉に散る。ただし、車には回避するだけのスピード感はなく、直撃して切り裂いた。
念動で迎撃できるサイズではなかったソイルブレードは車体を真っ二つにし、中の人間を振り落とす。人体のほうも切れていた気がするが、気にしすぎても仕方ないので見なかったことにした。
「ぎゃああ!」
「ひああ!」
阿鼻叫喚である。
他の車も逃げだそうと方向転換しているが逃がす義理もない。十分に近づいて、ターゲティングができるようになったので念動攻撃をする。
「ヒートミサイル」
一台が地面から空高く吹き飛ばされる。
「ヒートミサイル、ヒートミサイル、ヒートミサイル」
(容赦ないですね)
(空飛ぶ車)
順々に吹き飛ばして魔法師の援護部隊を粉砕した。これで邪魔はなくなる。その頃になってようやく王国戦士団のメンバーも追いついてきた。
「なんてむごいことを」
「いや、連中のほうが先に俺をひき肉にしようとしたじゃん」
「魔法師が装鎧戦士に対抗するにはそれしかないではありませんか」
「地味に俺にはひどくね?」
容赦ない言葉を女性の声で叩きつけられるとメンタルに来る。それで喜ぶ趣味はない。じんわりと胸の熱さが冷めてきた。
(あとで慰めて差しあげますから)
(よしよししてあげる)
「俺に優しいのは君たちだけよ」
斬撃を避けて地面を削らせる。剣身に念動をまとわせているのは視覚として捉えられているが、それも吹き飛ばして掌底を根本に入れるとへし折れた。
前のめりになっている装鎧戦士に肘打ちを放って、さらに重心を移動させて追い打ちする。ブレストのプロテクタを粉砕された戦士は痙攣しながら地面をのたうちまわり、動かなくなったかと思えば装鎧が光と溶けて小妖精を生みだす。
「あっちあっち」
クロカン車のほうを指さして逃がした。
「ん? そろそろキャパヤバい?」
(どうにか収まると思いますけど)
(これ以上ドライバーシートまではみ出してくるとヤバいかも)
限界が来れば、またティナレルザやロナタルテをシャツの中に退避させるしかないかもしれない。王国がこうも一度の作戦に大量投入してくるのは想定外だった。
「それだけ、王国を削れてると思うしかないって!」
次の戦士の攻撃も逸らすと、打ち倒して装鎧を脱がせる。一人、また一人と削っていき、とうとう二人にまでなった。
「どうする? そろそろ厳しいんじゃね?」
残すはラツッパとリーダー格の一人。
「やっと出番がもらえそうですわね」
「お待ちください、閣下。まだ私が」
「皆を介抱してあげなさい。全滅では困るわ。もしものときはわたくしも連れ帰ってくださる?」
言いおいて前に出ようとしている。
「そんな。閣下まで下されるなどとは」
「それがわからないようではあなたもまだまだね」
「閣下に鍛えていただきたく思います」
美しい師弟愛を演じられては正輝も手を出しにくい。邪魔をするほど野暮ではないし、追い込まれてもいないので静観した。
「ありがとう、待ってくださって。さあ、わたくしと踊ってくださいな」
「すまない。あいにくとマナーを知らない無頼なんでね。勘弁してくれね?」
「遠慮なさらないで。きちんとリードして差しあげますわ」
すらりと抜かれた大剣は見事な装飾が施されているものの、決して飾りではなさそうだ。しっかりとした作りで、芯が通っている金属製だ。普通なら絶対に女の細腕で扱えるような代物ではない。明らかに装鎧戦士として使用することを前提としている。
「王国戦士ってあんたみたいなの多いの?」
にわかに不安がよぎる。
「多くはありませんけど、女性の戦公もいなくはありませんわ。ただ、わたくしみたいなタイプは珍しいといえましょうか」
「できれば、そう願いたいんだけど」
「性差はお忘れくださりませんこと? わたくしは純粋に貴殿との勝負を楽しみたいんですの」
「いや、だから、そういうタイプが怖いんだってば」
思わずツッコまざるを得ない正輝であった。
次回『ラツッパの歓喜(6)』 「それがわかるだけの勝負勘が貴殿を最も怖い敵にしているのよ」




