ラツッパの歓喜(4)
正輝はラツッパ・コージャレと名乗った戦公の戦士団に集中攻撃を受けている。押されてはいないしヒットもしているのだが、今ひとつクリーンヒットしない。デュアルビルドのパンチがクリティカルであれば、一撃で致死レベルの内臓破壊までいけるのに、一人も撃破できていないのはその所為だ。
「それなりの腕だってことか。微妙に外してくる」
(ですね。王国でも精鋭なのでしょう)
(ちょっと芯外されてる感じ)
エメルキア、ランゼッタともに同じ評価をしている。二人が徒手戦闘に通じているわけではないが、感覚は彼女たちを通じて伝わってきているのでタッチは感じているはず。
「俺もフルコンタクト系の空手、そういう格闘技を長くやっていたが、相手を倒すような格闘じゃなくて当てたらポイントが入るみたいな競技だったからさ。当てるほうに慣れちゃってるのかもな。相手が本気で来るなら失礼だし、修正していくか」
(どうしても対集団戦になります。切り替えられればいいのですけど)
(最初から殺しにいけるほどマサキは冷酷じゃないし)
二人は思いやってくれる。
空手もスポーツチャンバラも当たればポイントで、殺傷を目的としたものではない。それが身に染み付いてしまっているので、相手が芯を外してくるなら余計にブレるという結果になっている。
「力のベクトルを逸らせないようにすりゃいいのか。隙間を狙うとなると難しいけど、ガードの上からでもヒットさせればいいんならなんとかなるかも」
(最初はそこからでいいのでは?)
(ちょっとずつ慣らすの)
ポイント制ではどうしても隙間を縫って当てに行く攻撃が有効になる。逆にガードされたならポイントにならない。それが通用しないならまずガードの上からクリーンヒットさせればいい。
「これならどうだ!」
「は?」
王国戦士は驚いたようだった。
これまでは斬撃を逸らすなり弾くなりして攻撃を当ててきた彼が、ガードを無視して一直線な打撃に移行してきた。クリティカルを避けていた挙動を急に変えるのは難しく、まともに衝撃してしまう。
「くあっ!」
腕のプロテクタが砕けて血がしぶく。人体と融合しているのだからそうなるのは当然。装鎧少女の修復機能が働いて傷は急速に癒えているがプロテクタを復元するほどではない様子。
「ん? 連中、復活できないのか?」
(できません。大量に精気を必要としますし)
(マサキがおかしいの。ぼく、びっくりしたもん)
装鎧の復元は難しいのだそうだ。当然といえば当然、精気を急激に物質化せねばならない難易度がある。ある意味では、サイコブレードに近い能力なのだと改めて知った。
「なるほどな」
大きなリードになる。プロテクタが損傷した状態では思いきった攻撃はできまい。次に同じ場所にダメージを食らうと、それはダイレクトに人体に届いてしまう。外傷や骨折などに至る可能性が極めて高い。
「下がるのよ。援護にまわりなさい」
見極めたラツッパの指示が飛んでいる。
「ターゲットは攻撃方法を変えたわ。抜きに行くつもりで対さなければ破壊は免れませんことよ」
「わかりました」
「学びなさい」
ラツッパが直接仕掛けてこないのは、正輝を体のいい修練の相手と見込んだかららしい。こうして鍛えられているから戦士団の面々はかなりの使い手に育っているのだと覚った。
「いいのかい? その判断は使い捨てと同じになるぜ?」
「なんですって?」
彼とて攻撃法を完全に切り替える必要はないのだ。今の攻撃はテストしただけで、全部をクリーンヒット狙いにするわけもない。
「ふっ!」
息を抜いて踏み込む。
半身に身体を逃しつつ跳ねてきた突きの一撃に手刀を合わせて手首を返して弾く。泳いだ相手に掌底を当てて崩したところへ、本命のパンチを横から食らわせた。肘でガードしたものの、胸から脇にかけての幾つものプロテクタが砕け散る。皮を剥かれ、丸だしになった如き筋肉が露わになった。
「かふぁっ!」
折れたような体勢で飛んでいく。傷口は急速に修復されていくが、それ以上のダメージが入っていたようだ。体表を形作っていた全てが光に還元されて剥がれていく。その光が収斂すると、エネルギーを使い果たして小さくなった小妖精と一人の人間に分かれてしまう。
「趣味じゃないが、挑んでくる以上は覚悟してくれ」
倒れ伏したのは鍛えているとはいえ女性で、あまりいい気分ではない。
「剥ぎ取られた。なんてこと」
「他に倒す手段があるなら教えてくれね? 考えなくもないからさ」
「笑止! 戦士である以上、当然のこと! 皆、覚悟はできているわね?」
メンバーを気遣う声は将たるラツッパのひと言で掻き消される。厳しさもなければこれだけの戦力には育たないであろう。育ったとて、わずか一戦で戦士生命を絶たれるのも現実と受け止めてもらわねばならない。
「気になさらないで、マサキとやら。戦いを挑んだのはこちらなのですわ。負けて剥ぎ取られるのも戦士の定め」
「そのつもりで願いたいね。あんたもな」
「嬉しいわ、貴殿も戦士で。でも、王国は敵認識しかないのは勘弁してくださらないこと?」
「そりゃ、しゃーないじゃん」
押し寄せてきている車列は生身の戦士に守られている。おそらく中身は魔法師部隊なのだろうと思った。
(ここからは本当に戦争か。だったら、そのつもりでいかせてもらう)
正輝は拳を握りなおした。
次回『ラツッパの歓喜(5)』 「地味に俺にはひどくね?」




