ラツッパの歓喜(3)
ターゲットがいると予測される地点に向かった戦公ラツッパ・コージャレ以下の戦士団はバイク七台で走っている。丘を一つ越えて視界がひらけたと思ったら、突如として次の丘の頂上に人影が浮かびあがった。
「おお!」
彼女はその姿に感動すら覚える。
白と緑、黄色とカラフルに彩られたプロテクタと黒くフィットする柔軟部分は逞しさの化身かと思えるほどの勇姿だった。背中を向けていた装鎧戦士がゆったりとこちらを向くと、大きなレンズ状の吊りあがった目が射抜いてくる。
「なん……です、あれ?」
戦士団のリーダーがおののいている。
「角まで生えてます。なにを思ってあんな威圧的な」
「まさにそうなのでしょうね。彼にとってアーマー姿は強さの象徴なのでしょう。だから凝ってるんだわ」
「機能性の欠片もない。洗練されてきた我らのボディのほうがよほど格好いいと思いますけど」
腰のベルト中央や、プロテクタを縁取るところどころに黄色く発光するパーツが逆光の中で目を引く。ラツッパはなにか原初の神々しさを感じてしまう。
(あれが二重装着者の姿。見ているだけでパワーを感じてしまうわ)
見惚れていた。
「それより、待ち伏せされました。どうするのです?」
リーダーはわずかに動揺を見せる。
「向こうから来てくれたんだもの。歓迎するでしょう?」
「他の戦公をお呼びにならないので?」
「どうして? こんな美味しいシチュエーションなのに?」
「また、悪い癖を」
ポツリと付け足している。
敵装鎧戦士は組んでいた腕をゆったりと解くと、構えるように差しだして「来い来い」と手招きする。余裕綽々のジェスチャーさえ小憎らしい。
「行きますよ。あんな剣さえ提げていない敵に負けるとも思えません」
「侮っては駄目。あのジーギラ戦公がこだわりを見せた相手なのよ」
「ですけど。もう、総員装着!」
それでも、彼女が感じているプレッシャーと同じものは伝わっている様子で緊張感はみなぎる。躊躇なく装着をした戦士団メンバーはそのままバイクで突進していく。
そう来るかと首を左右に倒して鳴らせたようなジェスチャーをした男は、奇妙な仮面の下でニヤリと笑ったような気がした。そして、腰を落としたかと思うと、一気にダッシュしてくる。
「なぁ!」
初速から最大速度までは一瞬。しかも、そのスピードはバイクもかくやと言うほど。すさまじい相対速度で彼我の距離は失われていった。
「抜剣! 戦闘!」
メンバーの一台が切り込み隊長よろしく真正面から体当たりを掛ける。衝突したかと思えた瞬間、男の姿は真横にズレてしゃがみ、横薙ぎを躱していた。そして、キックがバイクの横腹を貫き、ボディごと吹き飛ばしてしまう。
「ひゃうああ!」
宙を飛ぶメンバー。
そのまま包囲しようとした他のメンバーも思わず急ブレーキを掛けて停まる。不用意な仕掛けは敵の思うツボなのだと理解した。
「なんというパワー」
ラツッパは喜びの声をあげてしまう。
ほぼ金属でできたバイクが半ばからひしゃげて、部品に分解されながら地面に落ちてぐしゃりと潰れた。ただのひと蹴りで全壊状態にされてしまっている。
「各人、そのつもりで当たりなさい。あれは勢いだけでどうにかなる敵ではありませんわよ?」
「了解!」
各々が降車する。本来の戦い方、足を地につけての戦闘でなくば、まったく歯の立たない相手だと思い知らされた。
「あんたがもう一人か」
「戦公ラツッパ・コージャレ、王命により貴殿を討つ。覚悟してくださる?」
「御免だね。なんなら、すぐに帰って王様に言ってくれないか? 喧嘩するなら自分で来いってな。まあ、無理な相談だが」
「わたくしを退けられたら、その伝言、陛下にお伝えいたしますわ」
男は、ならば、というふうに構えを取る。まったく剣を出す様子もなければ、怯んでいるでもない。自然体で格闘するのが自分のスタイルと示さんばかりに。
「素敵な殿方だこと。今日のこの一瞬は主人のことを忘れさせてくれそう」
「よしてくれ。間男は趣味じゃない」
「そんな連れないことおっしゃらないで。装着」
彼女の装鎧少女が光と化して全身にまとわりつく。一歩いっぽと近づきながら装着を終えた。すらりと剣を抜き、切っ先の向こうに装鎧戦士のボディを見据える。
「閣下が直接手を下すまでもございません」
「そお? 無理な気がしてよ?」
「お任せください」
吹き飛ばされたメンバーも復帰している。バイクは全損だが、戦士は地に叩きつけられた程度で戦闘不能にはならない。逆に恥を雪ぐべくいきり立っている。
「掛かれ!」
斬り掛かった一人の剣は半身で避けられ振りおろされるのみ。そこから変化するはずであったが、手首を手刀で叩かれ続きはない。反対に裏拳を飛ばされ、顔面を痛打される。バイザーの破片を飛び散らせながら宙を後転して打ち倒された。
「不用意に仕掛けるな。連携」
袈裟に斬りおろす斬撃にキックが合わせられる。すれ違いざまにつま先で手首を打たれ剣を取り落とした。リズムよく切り替えられた足がもう一発キックを放ち、ブロックした肩の上から全力を解放する。横転しつつ数mも飛ばされた。
横ざまに仕掛けた一人の斬撃も腕の甲で滑らされている。火花の向こうから飛んきたパンチが胸の中心を叩き、たたらを踏んだところにまわし蹴りが刺さって転がっていく。
(ああ、素晴らしいわ。これほどの敵、戦場では相まみえることが叶わなかったというのに、こんな場所で?)
ラツッパは込みあげる歓喜に身を震わせた。
次回『ラツッパの歓喜(4)』 「笑止! 戦士である以上、当然のこと!」




