ラツッパの歓喜(1)
(もし、シュラウナが来ていなければ私はマサキの主張にどう応じた?)
ウフルバはまだ迷いの中にいた。
(あの場での戦闘はなかったにせよ、マサキをはっきりと敵と認識できたか? 難しいな。言うこと、筋道が通っていた。乱入がなかったら、ほだされていたかもしれん。シュラウナを笑えんな)
半ば助けられたかのようにも思える。今以上の迷いがあれば戦えなくなっていたかもしれない。王国戦士として失格ともいえる状態になる。
(迷いは禁物だ。自我が緩んでしまう。そんな状態で装着などすれば、エノカリスに飲まれてしまうかもしれん)
メンタル不良は装鎧戦士の大敵にもなる。
(忘れろ。あれは敵方の立場にあっての主張でしかない。私に反論できるだけの知識がないだけで、研究者ならば指摘できる穴がないとも言えん)
マサキと装鎧少女研究者を討論させるのは面白い考えに思えてしまう。王国が彼を取り込むための一つの手段だったかもしれない。今になっては手遅れだが。
「負けたの、シュラウナ?」
合流した女戦士は大笑している。
「嘲笑うなら口聞きませんよ」
「落ち込むものじゃなくてよ。生きているなら敗戦も糧になるわ。負けは勝ちに繋がることもあるのじゃなくて」
「ええ、思い知りましたよ。今度は一撃目から確実に仕留めに行きます。あれはそういう敵です」
決意がみなぎっている。
「恥じてるのです? しかし、独り占めは良くありませんわ。わたくしにも分けてくださりませんと」
「挽回の機会は譲れません」
「ええ、結構。こうなれば早いもの勝ちでよろしいのじゃなくて?」
戦公ラツッパ・コージャレは嬉々としている。彼女もクワハンでの会談を快くは思っていなかったようだがシュラウナとは理由が違う。単に、二重装着者という前情報の相手と戦ってみたいだけなのだ。
「ますます楽しみになってきましたわ。シュラウナをもってしても退けられるなんてどれほどの戦士なの?」
ラツッパは戦闘狂ではないが生粋の武人であり、戦うことこそ至上としている。
「王国戦士にそれだけの手練れがどれほどいて? 戦公まで含めても数えられるほどじゃなくて」
「コージャレ戦公に評価いただけて満足と言えばいいんですか? 負けておいてなんですけど」
「それも二重装着前? ああ、どれだけわたくしを喜ばせてくださるのかしら。最高ですわ」
配下の手前控えているようだが、今にも身悶えしかねない勢いだ。彼女率いる戦士団のメンバーなら慣れているのかもしれないが、ウフルバやシュラウナの戦士団は若干引いている。
「彼がまだクワハン近辺にいるのは確実。周囲は王国兵と魔法師団に包囲させている。わたくしたちはこの包囲陣の中へ攻め入って捕捉するのみ。素晴らしい狩りだこと」
うっとりとした声音で歌う。
「今のところ包囲網から攻撃突破されたという報告はない。それも、連絡用の小妖精がマサキに取り込まれていなければの話でしかないが」
「それなのよね。ほんと、面白い男だこと。王国軍がこれまで構築してきた情報伝達の仕組みを根本から覆してくれるんだもの。彼は戦争を変えるつもりかしら?」
「いや、これはマサキにしかできぬことだ。ほぼ、すべての妖精種が彼に与すると思っていい。どうにか制御できるのは、契りを交わした装鎧少女のみだと考えるべき」
これまでの状況から言えることである。
「これだって、もしかしたらマサキという男のところへ逃げたいと思ってるかもしれないってこと?」
「なんともいえぬ。私のエノカリスも内心はそうしたいのかもしれん。見た目ではわからんがな」
「ふうん。装鎧少女の主ねえ。ねえ、もしかして心からあなたを愛するって言ったら、わたくしも二重装着者になれて? それなら、喜んで愛して差しあげるけど」
ラツッパが自身の装鎧少女に話し掛けている。極めて珍しいことなので、少女の形をした戦具は目を丸くしていた。
「といっても無理ね。行為として愛するくらいはできても、心まであげられないもの。許せば、わたくしでも飲み込んでしまうでしょう?」
心に壁を作らねば自我侵食を受ける。
「あーあ、そのマサキって男はどうやって二人もの装鎧少女をものにしたのかしら。ベッドで虜にでもした? それだったら男性にしか使えない手段だもの。残念だわ」
「下品ですよ、コージャレ戦公。それ以上に怖気が来るような方法です。男だからって可能だなんて思ってほしくありませんね」
「あら、強くなれるんですもの。手段なんて選んでいられませんわ。歴史に名を馳せる五聖王様って絶倫だったのかしら」
内容はエスカレートする。
「いい加減になさってください。戦公ウフルバも咎めてくださいよ。彼女は異常です」
「ふむ、手段はともかく、装鎧戦士たるもの五聖王には憧れを抱くものではないか? 私とてコージャレ公を窘めるのは無理だ」
「こんな話、誰にも聞かせられません」
シュラウナは耳をふさいだ。
五聖王とは、歴史に名だたる装鎧戦士の一人。なんと、五体もの装鎧少女を従え装着したという王のこと。半ば伝説化していて真偽のほどは確かではないが、存在したのは確かだとされていた。
「それより作戦を、戦公ウフルバ。どうなさいます?」
「わたくしは単独でいかせていただきますわ。これほどの任務にはなかなか出会えませんもの」
「好きにせよ。包囲陣が完成した時点で作戦は完結している」
マサキをどう仕留めるかは各人に任せるとウフルバは伝えた。
次回『ラツッパの歓喜(2)』 「そう思ってくれるから彼女たちは働きたがるのですよ?」




