シュラウナ乱入(2)
ウフルバは急行してきたクワハンの街の警備隊に事情説明をするしかなかった。自身がジーギラ戦公であり、作戦遂行のために立ち寄っていたこと。不意な戦闘になってしまったことを謝罪した。
「戦公ウフルバが謝るようなことではありませんでしょうに」
「浅いな、デゼン公。彼ら市井の民にとって、急に現れた装鎧戦士というのは、突然の天災に見舞われたようなもの。生活を脅かされるかもしれない不安は取り除いてやらねばならん」
二人のような戦公であれば見慣れた装鎧戦士も、普通の生活を送っている民には脅威でしかない。急に姿を変え、人の領域を超えた戦闘を行うのだ。それが王国にとって最強兵器だとわかるほど反応は顕著になる。
「不用意がすぎるぞ。なぜマサキを襲った?」
「あれが王国の脅威であることに変わりありません。ジーギラ公が口になさるほどの戦闘力を持っているなら、討てるときに討つべきだと思いませんか?」
「時と場所がある。少なくとも、今日のマサキに戦意はなかった。貴公がしようとしたのは騙し討ちである。とても王国戦士の在りようとは言えんな」
若者の面に不平がよぎる。百も承知なのだろう。彼を慕い、役に立とうとしたゆえの行為を咎められたなら、そんな感情が湧いても仕方あるまい。
(が、厳しく言っておかねばならん)
はっきり言って最悪の行動だった。
「いいか、デゼン公?」
傍らの青年に視線を送る。
「いずれ刃を交えねばならんとしても、一方的な奇襲は相手を刺激するに終止するのみ。これでマサキは具体的に王国を敵と認識した。貴公は事実上の宣戦布告をしたに等しい」
「まるで、戦争をするかのようにおっしゃりますか?」
「うむ、戦争になる」
ウフルバの認識はそうである。
「戦公が三人も派遣されているのだぞ? 戦争以外の事態でこんなことはありえん。メタルビーストの討伐でも一人か、せいぜいが二人までであろう?」
「そうではありますが」
「私はそのつもりで挑んでいる。単なる犯罪者の討伐などではない」
王権を脅かすような犯罪でなければ、犯罪者討伐に装鎧戦士が遣わされるようなことはない。出撃を命じられた時点で、彼は激しい戦闘を伴う戦争のつもりで出動してきていた。
「省みろ。今後は私の指示なしに戦闘に及ぶのを禁じる」
厳しめに言う。
「リーダーを命じられたのは私である。指示に従えぬのならば、王命に背いたも同然と心得よ」
「……申し訳ございません」
「理解したならいい」
ようやく自分の犯した失敗に気づけたようだ。若さ故の過ちとも言えなくもないが、あまり独断専行をさせるようでは作戦にならない。
「叶うならターゲットの確保に努める。研究員たちも求めていたであろう?」
「確かにあれは得るものがあるかもしれません」
もしかしたら、シュラウナも装鎧戦士を務めるようになって初めて装鎧に損傷を負ったのではないかと思う。それなりにショックだろう。
ウフルバは本来同格の戦士を促してバイクに乗った。
◇ ◇ ◇
クワハンの街を出た正輝は待機させていたクロスカントリー車のランゼッタたちと合流する。ティナレルザはロナタルテと上空からの警戒に当たると主張したものの、逆に狙われる可能性を鑑みて押し留めてあった。
「ほら、言わないことじゃない」
早々に咎められる。
「向こうは手持ちの小妖精を使い尽くしてるの。私たちが襲われる心配はなかったのに」
「いや、もしかして飛行タイプの戦士が混じってるかもしれなかっただろ? わかってたのは戦公が三人いるのと、少なくともウフルバがいるってことだけ。俺はルーザが人質に取られたらほぼなにもできなくなるんだから勘弁しろって」
「駄目よ。マサキは私たちの大願も背負ってるの。小妖精一人くらい見捨てなさい」
ツンケンしているが、まんざらでもないのか頬が緩んでいる。浮いている彼女をさらって肩に乗せると車の一同のところへ。
「やられた。が、向こうさんの姿勢もはっきりした」
想定内の出来事だったと皆を安心させる。
「一戦しないと収まりがつきそうにない。ごめんけど、ちょっと付き合ってくれる?」
「みんな、大丈夫よね?」
「問題ないでーす」
小妖精たちからは「お腹いっぱいだし」と声があがる。
「一緒だと危ないけど、不自由はさせないからさ」
「このままでも大丈夫だよ」
「いや、できりゃ早めに里に連れていきたいんだって。ランゼが運転に困るほどぎゅうぎゅうじゃん」
クロカン車は満員御礼である。一人ひとりはフィギアサイズでも、百名以上もいれば居場所にも困る。
「それとパワーポッドからつまみ食いするのはよしなさい」
「あはは、バレたー」
解放的になった彼女たちは一様に陽気で脳天気である。入り乱れて、わいわいと騒いでいる様を見ていると、なかなかに混沌としている。
「もう一台いるか? こういう事態もこれからは増えるかもしんないし」
苦笑いする。
「でも、運転者いないしな」
「ええ、マサキがバイクをあきらめないかぎりは」
「まだ言う?」
エメルキアを流し見する。
「今日みたいなケースだと素早い離脱しないとだろ? 絶対バイクいるじゃん」
「いっそ、バイクを積載できる車体にしては如何ですか?」
「やだ。格好悪いし」
この論争は終りが見えそうにないと思う正輝であった。
次回『ラツッパの歓喜(1)』 「こうなれば早いもの勝ちでよろしいのじゃなくて?」




