シュラウナ乱入(1)
「迂闊を呪え。装鎧少女を一人しか伴ってこなかった自らの迂闊をな」
「言ってくれるじゃん。あんた、俺がシングルの変身なら勝てると思ってんの?」
変身が終了して防護障壁が解けた正輝は、次々と閃く斬撃を上腕の甲でことごとく弾いていく。盛大に火花は散るが、プロテクタに傷が付くほどではない。
(十分に鋭いが重さは落ちる。技巧派か? しかし)
思うところはある。
(きっちり、俺がデュアルビルドできるのを知ってるか。魔法師の親分格には見せてるもんな。それが呼び水になったか。王国の情報収集能力も杜撰ってわけじゃない)
連撃をステップアウトと上体を揺らして躱すと、相手はさらに踏み込んでくる。勢いが付いた一撃も避けて、スピンした彼はカウンター気味にキックを放つ。相手の装鎧戦士は吹き飛んで露店の一つを全壊させた。
「公って呼んだな、ウフルバ。こいつも戦公の一人ってか?」
「そうだが、しかし、この襲撃は私の意図したものじゃない」
「あんたがどう思ってようが、王国は俺を討つことしか考えてないみたいじゃん」
装鎧戦士が立ちあがる。露店の破片や並べてあった売り物の欠片を撒き散らしつつダッシュを仕掛けてくる。一撃でノックダウンさせられるとは思ってない。
「よくも! 貴様、正々堂々と斬り合え」
「使えなくもないけど、俺はそっちの畑じゃないんだって。剣を持ちだせば、どうせ邪道だって貶してくるじゃん?」
「だからって打撃だけでお茶を濁すか? 俺を嘗めるんじゃない」
「嘗めるもなにも、あんたが何者なのかも知らないっての」
正輝とて遊んでいるのではない。打撃で完璧に崩しが決まればサイコブレードで斬り伏せるつもりだ。しかし、相手はそれほどの隙は見せてくれない。ウフルバがいつ変身して襲いかかってくるやもしれないので、一人だけに集中できないというのもある。
「そんな怪しげなマスクを着けておいて人のことを言えた義理か」
「あー、お前、言ってはならんことを言ったな? 俺はこれが格好いいって思ってんだぜ?」
「なに? 正気か?」
戦っている装鎧戦士のように目元が跳ね上げ式のバイザーにはなっていない。大きな赤いレンズ状の目は連なる六角形に彩られているライダーのもの。それをとやかく言われるのは不本意極まりない。
(まあまあ)
「黙ってられるか。人を外見で貶すのなんて最悪の下劣だぜ?」
エメルキアが宥めてくる。
(こちらではあまり一般的とは言えません。目元を完全に覆わないのは、自我侵食を防ぐのに有効だというのが通説です)
「そうなん?」
(単なる通説で意味はありませんけど)
連なる斬撃の一つを裏拳で叩いて逸らす。スピンしつつ踏み込んで、ストローク長めのパンチを脇腹へ。斜め上への打ち上げのフックが相手を浮かせた。
「げふぅ!」
「ったく、苛つかせてくれちゃって。いただくぜ? サイコブレード」
念動物質化の刃を生みだし斬り捨てようとする。しかし、その剣閃は別の剣に受け止められてしまった。
「それが貴殿の光る剣か、マサキ」
「初見だったっけ? そうだよ。俺はあんたたちみたいに本物の剣を持ち歩かない」
「どんな仕組みかはわからないが、十分な斬れ味のようだな」
受け止めたのは変身したウフルバである。戦闘の騒音に隠れて変身ワードを聞き逃したらしい。なんと弁明しようが、彼とて味方を斬られるのは避けたい事態と見る。
「あんたこそ、結構な腕みたいだな。今のを完璧にいなされるとなると」
手応えはなく、きれいに抜かれている。
「剣技だけを磨き抜いてきた男の生き様の具現化だ」
「手出し無用とはいかないか。厄介じゃん」
「戦公ウフルバ様が参戦した以上、貴様はもう終わりだ! あきらめろ!」
かなりの使い手を向こうに二対一となっては不利だ。正輝はサイコブレードを消して斬撃を捌きに掛かる。ステッピングで回避しつつ、裏拳や掌底を交えて相手の勢いを殺す。完全に受け身にまわれば詰みに持っていかれる実力があると見ている。
「控えろ、シュラウナ。街中を戦場にするな。我らの役目を忘れたか?」
「市井の民を危険にさらすのは不本意であります。しかし、これ以上、この男をのさばらすのは王国にとっての重大な危機。討てるときに討っておくべきだと思われます」
「それもそうだが、騙し討ちというのは私のプライドにいたく傷が付くのだが」
「く、それは……」
それも面白くないらしい。剣筋が鈍る。斬撃を払って顔面にパンチを入れた。色濃いバイザーが割れて目元が露わになる。結構若い色男の顔が現れた。
「くはっ! よ……くも!」
「退けって言われてんじゃん。俺だってこんなとこで戦いたくはなかったんだよ。なんの恨みもない一般人に被害を出したってなんの良いこともない」
「散々教会を打ち壊しておいてどの口で言う」
「うわ、まともに言い返された! それ言われると返す言葉もないじゃん」
ウフルバが消極的なのでどうにかしのげているが、二人とも本気で掛かってこられると周囲に損害を出さずにとはいかない。なので、打撃に全力を込められずにいた。
「ここまでだ。マサキ、行け。シュラウナももう手を引くのだ。警備隊が来た」
「黙らせておけば……。貴様、逃げるな!」
「いーや、もう遠慮する。ったく、柄にもないことさせられて、くたびれただけだったぜ」
正輝はバイクにまたがってスピンターンさせると離脱した。
次回『シュラウナ乱入(2)』 「不用意がすぎるぞ。なぜマサキを襲った?」




