クワハン会談(5)
「妖精種だ」
マサキはウフルバにはっきりと告げてくる。
黒髪の男の目に彼を騙そうという光はない。ほうぼうで上手く立ちまわって正体を隠しているところを見れば嘘が苦手ではないのはわかる。しかし、そんな素振りがまったくない。
「彼女たちは、共生者である人間を守るために病原体を変容、無毒化させている」
背筋が震えるほどの宣告だった。
「致命的に重篤な症状を起こすものだけじゃない。多くの人が苦しむ程度の流行病の元も防いでいる」
「そんなことが行われているとは……」
「思えないだろ? でも、そうとしか思えない」
相手は真剣な表情だ。
「俺が常々不自然に感じているのは、このジノグラフの人間が多すぎるところ。食糧生産能力いっぱいくらいの人口がいる。これは実に不自然なのさ。普通はもっといろんな要素が絡んで減るもんだ」
「しかし、実際に病の流行は時々起こることだ」
「すぐに収まるだろ? 手心を加えてるからだ。まったく病原体の猛威にさらされない状態の人間は抵抗力が落ちてしまう。そいつは問題」
マサキは、人類が病気の元に対し健康な状態を保っていられるのは妖精種のコントロールによるものだという。事実ならあまりに重大な話になる。
「少なからず伏せるくらいの病状に抑えて抵抗力も下げない。適当な状態にされてる。見事なもんだが、おそらく妖精種はこれをほぼ無意識にやっているんじゃないかと思ってる」
敵対する病原体を感知すると同時に、条件反射のように発動させているのではないかと語った。安定した精気供給源となる人間を守るのが彼女らのリアクション。それでこそ共生関係が成立するという。
「だから、ジノグラフの人類は自儘に増殖できる。そして、増殖した分だけ妖精種も増えることができる。これを共生といわずしてなんという?」
「証拠があるのか?」
「いや、現状からの推論。なにせ、行われてるのは目に見えない攻防じゃん。そう考えれば不自然な点の辻褄が合うってだけ」
手をひらひらさせている。ウフルバはそのあまりに危険な話が証拠に基づくのでなくて少し安堵している。認めざるを得ない事実であれば、人類の常識は根本からひっくり返されることになるだろう。
「…………」
傍らの、彼の装鎧少女を窺いみる。しかし、エノカリスは表情一つ変えず黙然と立っているだけ。マサキの膝に座って甲斐甲斐しく世話をしている水色の髪の装鎧少女とはあまりに違いがある。
「ただし、ここからは事実だ」
男の説明は終わりではないらしい。
「人類は、目に見えない攻防では済まない事態に直面した。メタルの災厄ってやつだ」
「それにも……、いや、当然装鎧少女は絡んでいるな」
「ああ。病原体と違い、簡単に退けられない人類の敵の出現。このままでは滅んでしまうと妖精種は思った。ゆえに、大きな変化が必要。彼女たちは目に見える形で人類を救うことにした。装鎧戦士という形態を取って人間を強化する形で」
メタルビーストの駆逐を試みたという。
「それは成功した。言うまでもないな。ところがだ。それを利用しようっていう輩が現れる。デレキセント教団だ」
「むう……」
「装鎧少女が共生者たる人間のために施した変化を自らの権威向上に利用したのさ。この、人間らしい浅ましさにおぞましさを拭えないぜ」
マサキは、ここまでかというほどの嫌悪の面持ちを見せる。教会襲撃の裏側には、狙いやすいだけでなく感情的な側面もあったのだと知る。
「教団は、装鎧少女を道具に堕とし、それを神の施しだってのたまいやがった。それを自らの権威にするためだけに」
男の拳に力がこもっている。
「それも推論ではないのか?」
「いや、聞いた。千年生きた妖精種に」
「な!」
驚くべき事実が告げられた。
「そんな妖精種が?」
「ま、人間から見ればほとんど神みたいなもんだな。メタルの災厄以前からの歴史を目の当たりにしてきたんだからさ」
「確かに……、それは事実以外のなにものでもあるまい」
推論ではなく証言だ。それを彼は耳にしたという。誰かが嘘をついているのでなければ真実でしかない。ただし、証明する術もない。
「ゆえに貴殿は妖精種の身分回復をしようとしていると?」
筋道はそれを語る。
「ここから、また推論に戻る。俺は妖精種を人類より旧い種族だと思ってる。彼女たちが昔から細々と暮らしていたところに、環境を改変して整え爆発的な繁殖力を誇る人類という種が現れた」
「繁殖力。まあ、そうか」
「妖精種は考えたのさ。この種と共生関係になれれば繁栄も可能だと。それまでの様々な種に合わせた形態をやめて、人間の少女を模した形態を取ることにした。最も効率がいいから。生物としては普通の進化だ。それが、このジノグラフが辿ってきた歴史のはず」
マサキは締めくくる。
「だとすれば、人間というのは?」
「人間のほうが寄生種なのさ。環境を変え、他の種を虐げ、自らの繁栄のためだけに突き進む化物そのもの。自分が嫌になんないか?」
「う……む」
絶句せざるを得ない。
(もし、この推論が事実だとしても誰に言えようか。こんな話が流布してしまったら、王国どころではない、世界がおかしくなってしまう)
ウフルバは黒髪の男の話した内容に震えた。
次回『クワハン会談(6)』 「認めろなんて言わないからさ、覚悟を持って来いよ」




