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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ウフルバ包囲陣

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クワハン会談(4)

「で、そっちの要求は?」

 マサキが食事の傍ら、ウフルバに訊いてくる。

「ない。王国の命令は貴殿の討伐だ。あるとすれば、投降くらいか。意思があるなら私が口を利いてもいい」

「論外」

「では、私からの要求だ」

 こちらが本題である。

「私とともに来て、陛下に恭順を誓え。さすれば、この地位を懸けて貴殿を私の戦士団に加え、悪くない待遇を与えると約束する。王国に対して、妖精種(エルフィン)に関する働きかけをしたいのなら口添えをしてもいい。ただし、本気で要求を通したいのなら相応の戦果を挙げることだ。かなり難しいと言えようが、まったくの夢物語ではない」

「不可能。王国は動かない。正確には動けない」

「そう……だな」


 お互いに叶わぬ夢を語っているようなもの。そうとわかっていても、ウフルバはマサキとの対話を望んだ。なにかの糸口にならないかと淡い夢を抱いて。


(違うかもしれんな。もしかしたら、私は王国の存亡に危機感を覚えているのかもしれない。マサキはそうも思わせてくる)

 眉根に皺が寄りそうだ。


「巨体化した組織は停滞する。よほどドラスティックな変革者を迎えなければ変化などしない」

 そこまで言って、口元の脂を親指で拭ったマサキが彼を見てくる。

「もし、あんたが俺の意に沿うよう新たな王に立つってんなら乗らなくもない。ちょっと面白い話じゃね?」

「笑えん。無茶を言うな」

「そうか? 将来の歴史家は笑い話として語ってくれるかもしれないぜ?」

 頭が痛くなりそうなことを言う。

「まあ、話のスパイスだ。聞き流せ。この料理に足りない分を振りかけてやっただけさ」

「つくづく変な男だな、貴殿は」

「少なくともこの世界の常識は、俺にはこれっぽっちも通用しない」


 小指の先を示してくる。所作のことごとくがいちいち芝居がかっている。話していて愉快と感じるのは彼のそんな部分だと改めて感じた。


「他には? ないなら、俺はここに腹を膨らませるだけに来たことになっちまう」

 片眉を上げてくる。

「話はなくはないが、それは貴殿の考えを確かめる内容になる。これから戦うかもしれぬ相手に、それは面白くはあるまい?」

「いや、別に構わないぜ。隠そうなんて腹の内はない。俺は確証を持ってこの世界(ジノグラフ)を変えるつもりになってる」

「世界を取る気か?」

 意外な宣言だった。

「いや、支配者を変えようと思ってる」

「同じではないか」

「俺じゃない。ジノグラフを妖精種(エルフィン)に返すのさ」


 目を見開いた。それは変革どころの騒ぎではない。世界が一変してしまう一大事だ。人を主役から脱落させようというのだから。


「なぜ、そう考えた」

 つい眉をしかめる。

「そりゃ、いろいろと問題は起こると思うぜ? でも、このまま人類に任せとくよりはるかにマシな世界になるはずさ。そこに人類が残っているかどうかはあんたら次第だけどな」

「人類を滅ぼすと言うか?」

「いや、俺が手出ししなくたってそのうち人間は滅ぶ。道を間違えている以上は」

 はっきりと告げられた。

「間違えている、とは?」

「正確に言うと勘違い。人間がジノグラフの支配者だと思っている時点でね」

「妖精種(エルフィン)こそがふさわしいと言うか」


 一言のもとに否定したい。しかし、正輝がそこまで言う論拠を聞いてみたいとも思う。


「一番わかりやすい例えを挙げようか」

 黒髪の男は人差し指を一本立て、ウフルバのほうに傾けてくる。

「ジノグラフの人類はメタルの災厄で滅亡の危機に瀕した」

「うむ。装鎧戦士(エルフィンアーマー)がいなければ実際に滅亡したであろう。デレキセント教団曰く、人を憐れんだ神が装鎧少女(エルフィン)という戦具を遣わして人類を救ったのだがな」

「じゃあ、だ。人類は装鎧少女(エルフィン)なしでは生き延びられないか? 例えば、強力な流行り病などが起こればバタバタと人は死ぬ」

 まったく論点が変わったように感じる。

「それは別の話……」

「同じだ、人が死ぬって意味で。ところが、ジノグラフの歴史に人類が滅亡しかねないほどの流行り病が起こった記述がない。俺の触れた歴史書になかっただけかもしれないが、誰の記憶や口伝にもないのは不自然じゃないのか?」

「不自然。まあ、そうも言えるか」


 それほどの伝染病が起きているなら人類はとうに滅亡している。存続している以上は、人はそれを克服して今に至っているはずだ。


「克服したって思ってるだろ? それも勘違いだ。もし、そんなことがあったなら、確実になんらかの教訓として残る。これはしちゃいけない、あれは駄目だって感じでさ」

 マサキは指を立てていく。

「なのに、そんな話を一回も聞いたことがない。俺はその不自然さが気になって仕方なかった。で、一つの結論に達したわけだ」

「なんだ」

「人は救われたんだってね。もちろん、神なんて抽象的な存在に、じゃない」

 彼は脈絡から「まさか」と問う。

「そのまさか。伝染病の病原菌とはいえ、人間にも耐性ってものがあって克服できる。それも事実だ。でもな、人を激減させるほどの病原菌ってのは、とてつもない早さ変異してく。人間の耐性をはるかに超える速度でな」

「だとすれば、どうやって人は生き残った?」

「ここで人類の救世主が現れる。その存在は、物の組成を簡単に変容させる能力を持っている。それこそ、指先一つで、さ」


 マサキがウフルバに告げた名前は人類が予想し得ないものだった。

次回『クワハン会談(5)』 「そんなことが行われているとは……」

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