クワハン会談(3)
あいも変わらず、増える一方だった小妖精だったが、その日は事態が一変する。彼女たちの目的が変わっていたからだ。
「俺に会いたいって? もちろん会うけどさ」
連れられてきた一人ひとりに意思確認をしている。
「ちょっと話が変わったから聞きだそうとしたんだけど頑として口を割らなくって」
「どういうこと? 向こうさんの意図がわからないな」
「みんな、気になってる」
最初に接したティナレルザはじめ、エメルキアたち主要メンバーはその小妖精に関心を覚える。これで王国戦士団の意思が確認できるのだ。
「マサキ・コーノギへのウフルバ戦公様よりの伝言です」
その子は意を決したように口を開いた。
「『話し合いの場を設けたく、クワハンの街にて待つ。来られたし』です」
小妖精は使命を終えると処分されるのだと思っていたようで、静かに目を閉じると頭を垂れて言葉を待った。正輝は彼女にもいつもどおりの労いをして仲間に加わるか尋ねる。答えはいつも同じだった。
「……君と同じ伝言を頼まれて飛んだ子がいるね、この地域一帯に」
彼女は頷く。
「おおよそどのあたりかわかるかい? 迎えを出したいんだけどさ」
「それだったら!」
「誰か、頼める?」
立候補者から何人かを飛ばし収容を試みる。当然それ以外にも対応の検討が不可欠だった。
「絶対に罠よ」
ティナレルザは反応する。
「一般的に考えればさ、そうなる」
「私を飛ばせて。どんな配置になってるか完璧に調べて裏をかいてやるわ」
「無論、警戒は怠らない。でも、会ってみようと思う」
彼女は「マサキ!」と非難してきた。
「どういう思いで伝言を飛ばしてきたのか。それは彼の意思なのか、王国の命令によるものなのか確認したい。それと、そろそろ降伏勧告もしておこうかなって」
「降伏勧告? それいい。気に入った」
「君も悪だね、ルーザさん」
虚勢ではない。本気でそう考えている。挑む以上は勝つ。そのつもりで計算して動く。ただし、あまりに一方的では世間に被害を出すだけのテロリズムと変わりない。一線を引きたいと思っていた。
「こんな世情では国民の意志確認をとまではいかない。だが、国を統べる王権の意思確認はしてもいいんじゃないかな?」
ここからは襲撃ではなく、生き残りを懸けた戦争だということ。
「なるほど、覚悟を示すわけですね。それで王国サイドが変わるとは思えませんが、こちらの気持ちにひと区切りがつけられます」
「単なる契機?」
「結果的にはそうでも意味はある」
ランゼッタの疑問に答える。
「本気でいっちゃうよー、ってこと?」
「そうだ、ロナ」
「気合いだねー」
受け取り方はそれぞれでも、決意表明という意味では同じである。妖精種の逆襲であり、解放という新たな未来への布石だ。
「じゃあ、始めようか」
「そうですね」
「ところでクワハンってどこ?」
気が削がれるが知らない事実は曲げようがない。別班を街道添いに飛ばせて誰か地理に詳しそうな人間が近場にいないか確認する。数名の小妖精を収容したのち話を聞きに行く。
正輝はウフルバとの会談に向けてクワハンへと向かった。
◇ ◇ ◇
クワハンはさほど大きな街ではないが、メインの通りの目立ちやすい場所にウフルバは陣取る。やはり小妖精が帰ってこなかった以上、伝言は黒髪の男に伝わっているはずである。距離的に、一両日中には到着するはずだ。
(戦士団は遠ざけてあるが、どう来る? 罠と感じ、奇襲されてもおかしくはない状況だ。私だけ討ち取りに来るか、マサキ?)
それなりの覚悟を持って臨んでいる。
露店の並ぶ一角に共同のテーブルが置かれていて、その一つに彼は腰掛けていた。旅人向けの場所なのでクレームを入れられる心配はない。
「彼は来ると思うか?」
「…………」
手持ち無沙汰に、傍の装鎧少女に尋ねてみる。珍しく少女は無言で頷いてきた。その意志の発露にウフルバは気を良くする。
「そうか」
「…………」
しかして、少女の予想どおり目的の人物は現れた。装鎧少女を伴ってバイクで乗り付けると、なにも言わずに露店の一つでかなりの量の料理を求める。飲み物のカップと山盛りの料理の皿を持ってくると彼の前の椅子に座った。
「よお、久しぶり」
特に敵意は感じさせない。
「うむ、久しいな」
「こっちからは一つだけだ。先にいい?」
「聞こう」
驚くほど淡々と告げてくる。
「王国は、すべての装鎧少女と小妖精を解放して俺との和議に臨め。応じるなら、そのときに城の中は確認させてもらう。それだけだ」
「大胆な」
「そりゃそうだ。応じるわけがないと思って勧告してる。単なる宣戦布告だからさ」
予想だにしなかったというのが正解だろうか。ただ、彼の中のマサキの人物像とは完全に合致する。そういう意味では予想どおりともいえよう。
「諮るまでもない。答えは否だ。王国は応じない」
断言できる。
「わかった。食うか?」
「つまませてもらおう。人目もある」
「好きなだけ食え。どうせ泡銭だ。教会で拾った金を使ってるから」
思わぬ一面を見せてきた。
「貴殿、それは問題だぞ?」
「戦費だけはな。生活に関わる金は別んとこから調達してる。言わずもがなだろ? あんな方法で俺を捕捉してこようとしてきたくらいだから」
「そのとおりだ」
市場にバイクと金属箱車の製造法を流して手に入れた金だろう。非常に強かな一面を見せると思ったのは過去のこと。
ウフルバは遠慮なく料理を平らげていくマサキを眺めた。
次回『クワハン会談(4)』 「将来の歴史家は笑い話として語ってくれるかもしれないぜ?」




