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少女装鎧ジノグラフ  作者: 八波草三郎
ウフルバ包囲陣

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クワハン会談(2)

 偵察に放った小妖精(リトルエルフィン)が、カラカラに乾いた荒野が雨を残らず吸収するように減っていく。今や当初の五分の一となってしまった籠の中の小妖精を眺めてウフルバは唸った。


「どうしてこんなことに? 我々は小妖精を解き放っているだけなのですか?」

 戦公シュラウナ・デゼンが苦渋に満ちた目で荷台を睨む。

「貴様はどんな管理をしている? 小妖精を躾ける役目を果たせているのか? それでは管理官の仕事を任せはできないぞ?」

「いえ、そのような。偵察に出られる程度の精気量に管理して送りだしております」

「ならば、どうして」

 怒るシュラウナをウフルバは制止する。

「よせ。この者は普通に仕事をしているのだ。おそらく落ち度は一つもない」

「ですが、戦公ウフルバ。このままでは作戦も立ち行かなくなってしまいます」

「相手がこちらの意図を上まわった振る舞いをしているだけ」


 彼はそう睨んでいる。おそらく小妖精(リトルエルフィン)はマサキを捕捉している。ただ、戻れない状態にしているだけなのだ。

 その方法もわかってはいないが、なんらかの措置を講じているのは確実。なにせ、教団はコタカッタ領内に置いていた小妖精のほとんどを失っている。マサキがそんな大量の小妖精を同行させているような目立った行動をしている形跡はない。


(普通に考えれば殺して捨てているか。しかし、あのマサキがそんなことをするわけもない)

 連れていた二匹の小妖精(リトルエルフィン)にも優しく接していた。

(どこかに隠しているのだろう。ただし、その方法さえ不明だ。周到な準備をして教会襲撃をくり返しているに違いない。その作戦能力をこそ怖れるべきなのだが)


 国王や臣公会議、列挙される戦公や魔公もそれに言及する人物はいない。彼らは普通に考えているだけなのだ。件の反逆装鎧戦士(エルフィンアーマー)は自身の不利にならないよう、小妖精(リトルエルフィン)を殺していると。


(私の報告書を理解しているとは言いがたい。彼らは古い考えのまま、マサキを討伐できると信じ込んでいる。そこが、そここそが彼の狙い目だとわからないままに)


 空恐ろしいのは、史上経験したことのない敵をコタカッタ王国が作ってしまったこと。そして、その事態にウフルバ自身も一枚噛んでしまっていること。もう少しなにかできたのではないかと後悔する夜もある。もっとマサキの言葉に耳を傾けるべきだったと。


「ですが、このままでは反逆者の捕捉もままならなくなってしまいます」

 シュラウナは唇を噛む。

「待て。管理官、指示したマッピングは行っているな?」

「はい、こちらに」

「うむ」

 管理官の広げた地図を見る。

「これは?」

「帰ってきた小妖精と帰ってこなかった小妖精の配置を書き込んである。この帰ってこなかった地域にマサキはいる。つまりはそういうことだ」

「しかし、これではとても捕捉したとは言えない状況です。あまりに範囲が広すぎる」


 シュラウナの言うとおり、地図はかなり広範囲を示していた。ただし、彼の目的には十分な地域に限定できていた。


「これでいい。次の段階に移れる」

「では、戦公ウフルバはこの事態も予測しておられたのですか? さすが」

「貴公にとっては不本意ではあろうが、私の作戦を実行するには必要な情報だったのだ」

 地図を指でなぞる。

「次はどうなさるのです?」

「管理官、小妖精にこう命じてこの地域に放て」


 ウフルバは次の目的に必要な指示をした。


   ◇      ◇      ◇


「この前も話したとおり、完璧に行動予測はされていたわけさ。俺が次に狙うのは南西部だって読まれてる。まさか、王国全域に偵察の小妖精を放っているわけじゃない」

 正輝は肩をすくめる。

「でしょうね。王国とはいえ、それだけの小妖精を育成しているとも思えません」

「だったら、そろそろ絞ってくる?」

「だろうな。でも、ピンポイントで狙ってくるほどの情報はないはず。だとしたら、今頃車内は寿司詰めになってる」

「すし?」


 まだ、時々変なところで引っ掛かってしまう。頭の中で翻訳できていない日本語を単語として発音してしまっていた。


「あー、そういう名前の料理なんだ。海鮮魚の生の切り身と酢締めの穀類を合わせた料理。マズ、話してたら食いたくなってきた」

 口中がよだれに満たされる。

「なにそれー。美味しい?」

「めっちゃ美味しい」

「食べたーい」

「わたしもー」

「食べさせて」

「えー、どんなのー」


 ロナタルテに続いて何十人もの小妖精(リトルエルフィン)が彼をせっついてくる。今や、運転の邪魔になるほど大所帯になってしまっていた。全員が食べる楽しみを憶えつつあるので姦しいことこのうえない。


「残念。無理なんだ。ジノグラフでその穀類を見たことない。きっと、ここにはない種類なんだろうな」

 悔しいが致し方ないこと。

「でも、鮮魚の切り身ならなんとかなる。そのうち西の沿海地方に行こうな」

「行くー。すし、食べるー」

「いや、だから寿司は作れないんだってば」


 問題は小妖精たちがロナタルテと行動様式が似てきてしまっていること。これまでの怯えてきた暮らしが一変して、我儘を言うことを憶えているのである。それも悪くはないと思って甘やかしている。


「ともあれ、向こうからアクションがあると思ってる。誰か偵察に……」

「わたしー」

「ぼくもー」

「行く行くー」

「あたしに命じてー」


 すでに相手するに困るほどの正輝一行であった。

次回『クワハン会談(3)』 「絶対に罠よ」

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