クワハン会談(1)
その小妖精はコタカッタ南西部への偵察を命じられていた。ターゲットは反逆者の装鎧戦士。複数の妖精種と行動しているその反逆者はバイクと金属箱車で移動していると説明を受けている。
「あれ……かな?」
確証は持てないが、それらしい二台が街道を走っている。高空からそれを認めた彼女は確認すべく高度を下げる。バイクの搭乗者が男と装鎧少女であればほぼ確定のはずだ。
「もう少し近づけば見えると」
「ばびゅーん!」
「え?」
突如急接近されて、いきなり背後から羽交い締めにされた。まだ上空のこと。相手は同じ小妖精である。
「なに?」
「つーかまーえたー」
「手荒な真似をする気はないからそのままついてきてね」
新たな小妖精も現れて両側から腕を押さえられる。抵抗する暇もなく連行されて、ミスした彼女は尋問を受けるのだと覚る。恐怖感で暴れるが二人の小妖精は力が強く、振りほどくのは無理であった。
「ほい。駆けつけ三杯腹いっぱい、と」
いつの間にか停車して、車の開いた後部扉の中に腰掛けている人間の男に引き渡される。どんな仕打ちを受けるかと思い、逃げだしたくともすでに両手の中。これまでの経験からあきらめて脱力する。ところが、襲ってきたのは暴力でもなんでもない。
「ふひゃあ」
すさまじい勢いで精気を注がれ変な声が出た。
「おつかれさん。とりあえず、そのまま」
「どうして……」
「疲れてるだろうからさ」
黒髪の男はそのまま精気の注入をやめない。最高の美味、極上の快楽が小さな身体を支配している。
「落ち着いた?」
「はい」
指の隙間から頭を出してその人間を見る。
「君には選択肢が二つある。一つはここで自由になること。一つはこのまま俺についてくること。その場合、妖精種の里っていういい場所に連れていってあげる」
「二つ……?」
「俺が君に禁じるのは、命令者のところへ戻ることだけ。もちろん、情報を持って帰られたくないってのもあるけど、それ以上に君を解放したいと思う気持ちがあるから。だから、命令者のことを無理やり聞きだす気はない」
目的が明確に告げられる。
「でも、人間の言うこと聞かないと生きていけないし」
「その誤解を解くためにいろいろやってる。妖精種の里には今人間は一人もいないけど、千人近い仲間が暮らしてる。信じられないかもしれないけど事実」
「じゃあ、もしかして、あなたが妖精種の神様?」
どこからともなくそんな噂が密かに流れてきていた。口づての真偽不明の噂。あまりの苦しみに精神を病んだ誰かが見た夢だとも言われたが、信じたい気持ちのほうが強かった。
「そんな呼ばれ方もされてるみたいだけど、俺は単に君たちに味方したいだけの人間さ。だから、なにも強要したくない。それだけ」
「だったらだったら、わたしを連れていってください! 妖精種の楽園に! そのためにならなんでもします。わたしにあなたの探索を命じたのは王国戦士団です。指揮官は戦公ウフルバ・ジーギラ。戦士団には三人もの戦公が……。ああ、いけない! お逃げになってください!」
「落ち着いて落ち着いて。そういうのもありかと思ってるから大丈夫。で、きみはどうする?」
気は急くが、男の柔らかい声音にほだされる。自分にも転機が訪れていたのだとやっと思いだした。
「連れていってください。今のままじゃなにも変わらない。連れ戻されてひどいことされたり飢えたりするくらいなら神様に賭けます」
「わかった。じゃあ、他の誰かに見つかったりするのも面倒だろうから、しばらくは車の中で寝起きな」
「なにも心配いらない。君は今この瞬間解放されたんだよ?」
黄色い髪の装鎧少女に言われて彼女は脱力した。
◇ ◇ ◇
物珍しげに車内を飛んでいる小妖精はロナタルテに面倒を見られている。そちらはもう大丈夫そうなので、当面の問題に関して話し合いが必要そうだった。
「戦公が三人か。で、リーダーがあのウフルバだとすると王国もとうとう本腰で俺を討ちに来たってとこ?」
来たるべきときが来た感じだ。
「変なタイミング。こっちからは特に手出ししてなかったのに」
「そうかもしれないけどな、ルーザ。向こうからすれば、教団が攻勢受けてる状態で、しかもウフルバが少なからず俺の情報を持ち帰ってる。いつかは狙ってくるって判断しても変じゃない」
「そのウフルバって人、偉いの?」
ランゼッタが疑問を口にする。
「あなたは戦士団との邂逅より以降に加わったのでしたね。マサキが王国を見限った出来事があったのです」
「見限った?」
エメルキアがジーギラ戦士団との経緯を説明する。聞いていたランゼッタは首を肩に落とした。
「それだとマサキは当然怒る。その場で全員叩きのめさなかっただけ褒められてもいい」
少女はフォローしてくれた。
「今でも時々それでも良かったんじゃないかって思う。でも、あのときはなんか分別が働いちったんだよな。まだ、本格的に王国を敵に立ちまわるのは早いって」
「時期尚早だったのは事実。マサキの判断は正しいわ。でも、今なら時期が来たとも思える。戦公が三人来たとしても尻尾を巻いて逃げだしたり、ましてや投降する必要なんて感じてない」
「まあ、王都ウダマンに突撃するのではなければ、たいがいの事態には対処できるでしょう」
正輝もエメルキアの意見に頷いてみせた。
次回『クワハン会談(2)』 「つまりはそういうことだ」




