ウフルバの視線(3)
三人もの戦公を含む王国戦士団は南下する。ターゲットであるマサキがどう動くか予想した臣公会議の決定に従った形である。それはウフルバも納得できるものだ。
「襲撃される教会の幅が狭まりつつある。教団の保有する妖精種が少なくなってきているからだな」
問われた彼は理由を答える。
「それは、件の装鎧戦士が奪い取ってるから。つまり、その男は自分で自分の首を絞めているということ? あまり利口とはいえないのね」
「そう見える。が、彼の行動原理でもあるので、わかってやっている側面も禁じ得ない」
「他に方法がないとでも?」
「うむ。つまるところ、マサキは国内の妖精種すべてを奪い取ろうとしている。必然、妖精種が残っている場所を狙うしかなくなっていくのだ」
ウフルバが応じているのは、女性戦公ラツッパ・コージャレの質問である。今は道中で、夜営中に彼の天幕に集まっている。リーダーであるウフルバの招待に応じたものなので、各人の戦士団員は席を外していた。
「教団は警戒して装鎧少女も小妖精も支庁に引きあげてしまってるのでしょう? ならば、支庁を狙うのが筋じゃなくて?」
その理屈でいけばの話。
「おそらく、彼は王国の対応を読みかねているのではないかと思う。国内最大の戦士数を確保しているのは王国であるのを理解はしている。そして、その王国を必要以上に刺激してはならないと考えられる聡明さは持っている」
「それをいえば、教団なんて全世界レベルの組織力を持っているのよ。そっちは嘗めて掛かって王国は警戒する?」
「組織が大きいだけ力は分散しているのだ。市井に広く教義を浸透させるという使命もある。致し方ないことといえよう」
マサキはその脇の甘さを突いている。
「チクチク攻めている分にはそこまで怒らせはしないと」
「それ以上に、王命一つで組織立って行動するであろう王国のほうが難敵と断じている可能性が高い。まあ、正面衝突したのはモルンバ戦公にトリクタン魔公というのもあるかもしれない。両者とも功を焦って狙いが杜撰だった。それがマサキを戸惑わせているのもあろうか」
「まだ、王国は本気でないと見た? でも、わたくしたちが動いてしまったわ」
それもマサキにとっては誤算だろうと思っている。個人が見せるには大きすぎる力を示してしまった。それが国王を怯えさせるとまでは思えなかったとしてもおかしくはない。
「読み違えたのだとすればもうお終いね。これだけのメンツが揃ってしまったんだもの」
ラツッパはため息一つ。
「できれば、一対一で相手してみたかったかしら。ジーギラ戦公ほどの方が買っているのならば」
「嘗めないほうがいい。あれは、巷の装鎧戦士とは一線を画す存在だと言えよう」
「それだけに楽しみなのよ」
舌なめずりせんばかりの表情だ。
「体長4mクラスの飛びトカゲのメタルビースト。貴公は一人で討ち取れるか?」
「ぎりぎりね。魔法師のサポートがあればなんとか」
「マサキは当然のようにやってのけた。それだけで実力者なのは疑いようもない。その男が二重装着者の力を示したのだとすれば?」
戦公ラツッパは絵に描いたような武人である。女性でありながら、武を極めんとする求道者のような人物だ。ゆえに、マサキとの対決を楽しみにしているのだろうが、彼は武のみをもって対するのは危険だと思える強かさを持っている。
(バイクの件を見てもそれがわかる。教団にせよ王国にせよ、敵にまわすまでは良しとしても、全力をもって対されるのは危険だと理解しているからこその方策なのだ)
事実、迷彩を掛けられている。
「コタカッタでは史上にしか見られない二重装着者。なんて素晴らしい響きかしら。どれほどの力を見せてくれるの? もし倒せたら、わたくしにもその素質があると示せる?」
陶酔した声音で言う。
「確かに強さの証明に違いない。しかし、二人もの装鎧少女を受け入れるのには、武とは違う素質が必須なのではないか?」
「なのよね。だから迂闊なことはできない。でも、件の装鎧戦士との戦いは、わたくしが壁を乗り越えるためのなにかを示してくれるような気がしているの」
「わかりますが、あまり独断専行はおやめいただきたい。それは、ジーギラ戦公殿の足を引っ張る行為に他ならないのですよ?」
同席するシュラウナ・デゼンが窘める。
「わかっているわ。でも、状況的には早いもの勝ちではなくて? いついかなるとき遭遇できるかわからない敵なんですもの」
「運に左右されるのは認めます」
「それを運だけではなくする。そのためにあれだけの量の小妖精を借り受けてきたのだ」
随伴する車列には大量の小妖精が乗せられている。彼はそれを効率的かつ策動的に用いるつもりであった。マサキがいれば、それが罠とわかっても決して見過ごせない使い方をするのだ。
「ここはジーギラ戦公にお任せする命令です。自重してくださいね」
シュラウナが釘を差している。
「異論ないわ。武人としてはともかく、将としての器はウフルバ殿のほうが上と認めていてよ」
「そう願いたいものです。一人の暴走がせっかくの戦公包囲陣を乱すようでは、これだけの戦力投入が意味をなさなくなります」
「うるさい子ね。ときには臨機応変が戦局を左右するのを憶えて帰りなさいな」
「それが困ると言っているのに」
ウフルバは喧々諤々と議論する二人の戦公に困って頭を掻いた。
次回『クワハン会談(1)』 「手荒な真似をする気はないからそのままついてきてね」




