ウフルバの視線(2)
ウフルバはエノカリスの両脇に手を入れて持ちあげバイクにまたがらせる。マサキが装鎧少女をそうやって乗せていたのを今になって理解した。
乗れと命じれば魔法で浮いて自分でまたがると思う。事実、彼の団員もそうしていた。だが、なんとなく乗せてやるのがしっくりくる。
(思ったより風が来るしな)
座面の前のほうに乗せ、自身はその後ろに。そうすると、エノカリスの小さな身体が風で後ろへ持っていかれて落車するのを防げる。これもマサキの真似。
「あまりスピードは出さないが、つらいなら目をつむっていろ。なにかガードする方法を考えさせねばならんな」
「…………」
少女の視線が、すぐ上の彼の顔へ。そして、左右へと忙しなく移る。反応の薄い装鎧少女にしては珍しいことだと思った。
(非常に便利な乗り物ではある。ただし、欠点がなくもない)
その気になればスピードは出るので、以前のようにマサキに置いていかれる心配はないだろう。しかし、スピードを出すほど風圧に顔をさらすことになるのと、魔法を使うので精気を消費するという問題はある。
それらの欠点も些事だと思える性能があるので王国も採用した。走りトカゲのように結構な量の餌を必要としないし糞尿もしない。なにかに怯えて言うことを聞かなくなったり、振り落とそうとはしない。
(戦場においては大事なこと)
あくまで機械だという利点は大きいと、どの装鎧戦士も判断した。操作に慣れなくてはならないが、それも走りトカゲを安定して走らせる平衡感覚があれば難しくはない。思いのままにとなると難しいが、優秀な移動手段である。
「気になるか?」
「…………」
団員たちは思い思いに自身の装鎧少女をバイクに乗せている。従来どおり、手を鞍の持ち手に紐で括りつけるのは無理だ。そういう構造をしていない。
なので、彼のようにシートの前に乗せたり、後ろに乗らせて掴まらせたりする。自然と密着することになり、それも悪くないとウフルバは思っていた。
(これで少しはマサキの心情を理解することができるだろうか)
心から装鎧少女を大事にしている黒髪の戦士のことを思う。
他の面々も同じように準備を進めて出発していた。ウフルバの他に戦公が二人。
若いが、巧みな戦闘技術を持つシュラウナ・デゼン。彼は家を継いだばかりの戦公だが、隣国との小規模衝突のときに圧倒的な戦果を上げて力を示した。
そして、名のある女性戦公ラツッパ・コージャレ。御前試合においても、並みいる男性戦士を翻弄する戦技の持ち主。今や、コタカッタ王国戦士団でも中核にいる強者である。
(この編成、臣公殿は本気でマサキを押さえに行ってるな。陛下はそれほどに彼を怖れているか)
もちろん、これ以上国内が乱れて列強各国に隙を見せるのは得策ではない。しかし、力ある装鎧戦士を揃えて差し向けるのは、それも苦境を語っているに等しい。コタカッタを狙う国々のスパイの目にはどう映るだろうか。
「む?」
考え事をしていると、エノカリスが彼に体重を預けてきた。野営用の資材を積んだ車を伴っているので、それほどのスピードは出していない。風圧はそれほどでもないのに少女がそんな仕草をするのを妙に思った。
見られていると気づいてエノカリスは身体を起こす。しかし、ウフルバが頷いてみせると再び身体を預けてくる。彼女の体温がほんのりと懐を温める。
(愛しいというのはまったく理解できない。だが、連帯感というのは覚えるものだ。これの延長線上にあの男はいるのだろうか)
マサキの心理の端緒くらいは掴めたかもしれない。
「ジーギラ戦公殿、出発に少々手こずってしまって申し訳ございませんでした」
寄せてきた一台のバイクの主はシュラウナ・デゼンである。
「我が団員ともあろうものが、新しい装備を侮ってろくに練習もせずいたとは。面目次第もございません」
「そうかしこまるな。貴公も団員も遠征を命じられたのは数日前のことであろう? 準備がままならなくとも致し方あるまい」
「とんでもない。これが戦場であれば、重大な戦略的ミスとなりかねない失態です。しっかりと叱責しておきましたのでご勘弁を」
若いながら、実力を認められても驕らない優秀な戦公である。
「俺もやっと戦公殿と肩を並べて戦えるところまでまいりました。それなのに、いきなりこんな落ち度があれば落胆されたことでしょう」
「そう目くじらを立ててやるな。バイクはメリットも多いが、構造を理解できていないと操作もままならん変わった乗り物だ。飼い慣らされた走りトカゲに乗り慣れていれば、戸惑ったとしてもおかしくはあるまい?」
「それでもやって見せられなくば、栄えある王国戦士団の一員を名乗れるものではありません。取りあげてやった者に、名に溺れる姿を見せられるのは情けないですね」
シュラウナはエリートとして育てられ、洗練した立ち居振る舞いもできる若者なのだ。それなのに、彼に対しては変に生真面目すぎる一面を見せる。憧れを告げられた過去があるので、それが影響しているか。
(戦公同士でも名声を求めて争う側面を持つものも少なくない。変にライバル心を持たれるよりはやりやすくはあるか)
ウフルバは若き戦士を微笑ましく見守った。
次回『ウフルバの視線(3)』 「それだけに楽しみなのよ」




