ウフルバの視線(1)
バイクと呼ばれる二輪の車にまたがって始動させる。
三方に腕を伸ばし、先端に重りのついたハンマーロータリーは最初こそ強い魔法を必要とするが、一度回りはじめると軽い力でも回転を続けられる。始動させた状態でクラッチ板という丸い板同士を接触させることで動力を後輪に伝えることができた。
走りだせばあとは簡単だ。スピードが出るほどにハンマーロータリーの回転力はより効率的に後輪に伝わるように変化をする。止まるときはクラッチ板から力を抜いてデフォルトの外れた位置に戻し、タイヤを摩擦で止めるブレーキを操作するだけ。
(マサキ、貴殿はこれほどのものを作る発想力と技術を持っているのにどうして教団や王国に挑もうとする。これだけで、どんな組織であろうとも貴殿を一員に迎えたがり、重用すること間違いない。栄華もその手に入ろうに)
ウフルバにもわかっている。マサキはともかく人間社会における装鎧少女や小妖精の扱いに関して不平しかないのだ。
彼にとってその小さな戦具は隣人であり、ともに生きる愛すべき者である。だから、妖精種を人に置き換えれば虐待とも呼べる待遇をしている人類すべてが憎い。
(しかしだ、マサキ。これは人の姿をしているだけで中身は決して人ではない)
彼の妖精種『エノカリス』を見る。
(これらは人より吸精をするために便宜的に人の形を取っているだけの生物ともいえぬもの。形を持たないアヤカシ。人に寄生する妖魅。貴殿はこれらに魅了され、惑わされているに過ぎない。どうすれば、その事実に気づく?)
首をかしげて不思議そうにバイクを眺めている姿は確かにローティーンの少女の姿と変わらない。総じて美しくもあり、目を奪われる存在。それはこれらが意識してそういう形態を取っているだけでしかない。
(実際に、これらは装着時には人とは似ても似つかない形態も取れるではないか。しかも、自我強度の弱い者だと侵食を受けて廃人にしてしまう。それはつまり、人を精気を生みだすだけの餌だとしているからだ)
デレキセント教団の教えでは装鎧少女を神の遣わした戦具としているが、各国の独自の研究では特殊な生命体という位置づけ。教団の手前、表立っては口にされることはないが、研究者は寄生体だと主張している。
(装着者である私もその考えこそが納得できる。同じ装着者のマサキにはそれが感じられないのだろうか)
不思議に思う。
(そういうものとして受け取れば、扱いにさえ気をつければ装鎧少女は非常に強力な武具たりえる。剣と同じ武具であるならば私も大事にはする。しかし、愛するのは無理だ。稀に確たる意思を示すときがあろうとも)
現実に道具を偏愛する人種も存在する。理解には及ばないが、特殊な趣味として受け入れることもできなくはない。ただし、彼らでも偏愛する対象の道具を愛ではしても、人と対等の存在として愛したりはしない。マサキはその一線を越えている。
(どうあっても理解し合えないのか。そのままではいずれ討ち取られてしまうぞ。人間社会に居場所のないままなぜ生きていられる? 貴殿はどこを目指しているのか)
いくら考えてもそれだけはわからない。
(すばらしい才能を持って生まれ、二重装着者にもなったのだ。強者である貴殿が突き進むのを阻める者は少ないだろう。しかし、その行き着く先になにがある? 誰一人おらぬ不毛の荒野でしかない。装鎧少女だけをはべらせて満足なのか?)
ウフルバはマサキを止めてやりたいと思っている。趣味嗜好がどうあろうと、彼と同じ強者であるに変わりはない。ならば、肩を並べて戦えればどれほどのことを成し遂げられようか。もしかしたら、コタカッタ王国が大陸に覇を唱えられるかもしれない。
となれば、彼もマサキも王国の英雄となる。領地を得て、自らが好むような環境を作ればいい。マサキとて、人すべてを排除しようとは考えていないはず。それはこれまでの行動を思えば違えようもない。
(説得材料になるか。大願を成就するまで、ひと時の忍耐を受け入れられないかと申し入れれば貴殿はどうする?)
どう受け取るか不明である。一考くらいはするだろうか。
(もし、そこで立ち止まれるようであればまだ望みはある。徐々に意識改革をして、人の間で常識を心得、生きていくのも無理ではなかろう。ともに高みを目指すのも夢ではないはず)
彼がそう望むのも、一度だけ接したかぎり、マサキ個人は気のいい男以外の何者でもなかったからだ。戦公の地位を持つ彼にぞんざいな口を聞くのもそれほど気にはならない。むしろ、他者に感じられない友誼に近いものを覚えた。
装鎧戦士であり戦公でもある彼に、皆は一目置いてくれる。それは心地よいものでもあるが、同時に孤独も感じさせる。しかと友人と呼べる相手を失って久しい。幼少の頃の遊び以降はなかったかもしれない。
(戦公の家に生まれ、装鎧戦士として力を示した以上は持ち得ないものだと思っていた。しかし、貴殿ならばそんな存在になれるのではないかと期待してしまうのだ)
ウフルバは黒髪の男の面影を追い求めていた。
次回『ウフルバの視線(2)』 (これで少しはマサキの心情を理解することができるだろうか)




